第15話損な役回り

「河村さん。悩み事があったら、何でも言ってください」

「はい」

“今日も、何も言ってくれないか…”

そう思っていると…

「先生!本当に何でも聞いてくれますか?」

「えっ!?──はい、もちろんですよ。何かあるんですか?」

美有希は、ゆっくりと頷(うなず)いた。

「じゃあ…図書室に行きましょうか」

「はい」

“ようやく、悩み事を打ち明けてくれる!”

万里は、嬉しくて仕方がなかった。


「先生」

「はい、何でしょうか?」

「先生は、好きな人っていますか?」

“今、目の前に居ますけど!!!”

「『like』の好きな人なら、たくさんいますよ」

「そうですか…」

「それが何か?」

“切り込みすぎたかな?”

「いえ。──私…ずっと待ってる人がいるんです」

「『待ってる人』?」

「はい。小学校に入る前の話なんですけど。隣に住んでいたお兄ちゃんがいたんですけど…」

そう言って、美有希はそのお兄ちゃん・如月 柊平(きさらぎ しゅうへい)との話を始めた──。


2人は12歳離れていて、美有希が6歳・柊平が18歳(高校卒業)の時に「必ず迎えに来るから」と言って出て行ったきり帰って来ていなかった。


「それから、男性の事が信じられなくて…」

「だから、あんなに暗い顔してたのか…」

「えっ!?私、そんなに暗い顔してましたか?」

「…かなり。だから心配で、ずっと河村さんから悩み事を打ち明けてくれるのを待ってたんですよ」

「そうだったんですか…」

「でも良かったです。これで少しは心が軽くなれば良いんですが…」

「先生に言って、かなり心が軽くなりました。ありがとうございました」

「じゃあ良かったです」

「それじゃあ。さようなら」

「はい。さようなら」

そう言って、2人は図書室を出た。


“『隣の家のお兄ちゃん』か…。少なくとも、今の美有希の頭の中は柊平の事でいっぱいのはず──”

そう考えると、切なくなった。


“教師って、損な役回りだよな…”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る