第9話現実を見ろ!!

「はい。中間テストの結果を返します。有本君…井上君…」

全ての中間テストが返って来たため、各教科とクラス・学年の順位が入った結果が順番に返されていく。

「おい。お前、何番だった?」

「45位」

「う~わ。負けた~」

「はい、バカ~(笑)」

クラス中から、そんな声が聞こえてくる。


“僕はみんなの順位を知ってるけどね…”


「はい、静かにしてください。予想より良かった人悪かった人それぞれ居ると思いますが、次は期末テストです。気を引き締めて、現実と向き合って、しっかり頑張ってくださいね」

と、ニッコリ笑ってみせる。

「は~い」

“河村は…。やっぱり驚いてるな──”


“えっ!?私がクラスで1番?しかも学年で2番?”

美有希が、各教科はそれぞれ違うものの、総合順位がクラスで1位・学年で2位だったのだ。


“惜(お)しかったよな。学年1位は4組の生徒だったんだよな。西山先生が自慢気に言ってたっけ…”

「オレのクラスの生徒がトップなんだぜ!」

そう職員室で自慢気に話していたのを思い出していた。


“でも僕が高校生の時は、いきなりクラストップなんて取れなかったけどな”

──帰国子女なんだから当たり前だ。

ちなみに、1学期の期末試験からずっと学年トップだったが…。


「冴島先生は、高校生の時賢(かしこ)かったんでしょうね」

数時間前の、職員室での会話だ。

「いや。それほどでも…」

「某(ぼう)有名高校でずっと学年トップだったんだよね~。万ちゃん!」

「西山先生シ~ッ!それ、『内緒にしてくれる』って言ってたじゃないですか!」

「冴島先生って、どこの高校出身なんですか?」

「私立の花沢(はなざわ)高校です」

「え~っ!あの全寮制の、超有名校じゃあないですか!」

「そこで学年トップって…」

「冴島先生って、本当にスゴいんですね!」

ミーハーな1組の副担任・土屋(つちや)が言う。土屋は既婚者だが、学校では『可愛い先生』として人気がある。

「いや…そんな事は…」

「も~。謙遜(けんそん)しちゃって!」

「とにかく!7月には期末試験もありますから『気を引き締めて頑張る』事を伝えてくださいね!毎日の授業の積み重ねが、結果になって表れるんですから」

「はい!」

「オレは一夜漬けタイプだったから、あんまり生徒にはガミガミ言えないけどな」

弘次が、万里に耳打ちする。

「西山先生!」

宮崎が弘次を睨(にら)む。

「は~い。分かりました~」

「ふざけないでください!」


“一夜漬けでも教師になれるってスゴいな。僕なんか、ずっと勉強しっぱなしだったけどな”

──そう。万里は、いわゆる『努力家』。帰国子女で高校から日本に帰っては来たものの、初めは勉強について行けなかった。そのため、授業をよく聞き、参考書を買い、長期休暇中に実家に帰っても勉強をずっとやっていた。

大学に入っても、それはずっと続けていた。

その兄の姿勢を見て、亜矢も“教師になりたい!”と考えるようになっていった。そして今、亜矢は小学校教諭を目指して頑張っている。


「──では。 SHR(ショートホームルーム)を終わります。挨拶をしましょう」

「さようなら~」

「はい、さようなら」

そうして、生徒達は教室を出て行った。

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