第1話あの娘の名前は?

3月半ば。高校入試(一般入学者選抜)の2日目。

昨日学力検査が終わり、今日は面接の日だ。


「冴島(さえじま)先生、大変です!」

冴島 万里は、朝出勤した際、1年生の学年主任の尾崎(おざき)から呼び出された。

「3組の主担任の川崎(かわさき)先生の身内に御不幸があったらしくて…。今日欠勤されるそうなので、急遽(きゅうきょ)3組の担当をしていただけないでしょうか?」

「わ…分かりました」


慌(あわ)てて準備をし、3組の教室へ向かう。

“うわ~。緊張するな…”

教室に入ると、たくさんの中学校から来た学生達が万里の方を見る。

「黒板に向かって左前から順番に1人ずつ呼んでいきますので、隣の教室で面接を受けてください」

真剣に話を聞く生徒達。

“でも…。この中に、受かる子も居れば、落ちる子も居るんだよな…”

そう思うと、少し心が痛む。


「じゃあ僕は廊下に居ますので。静かに待っていてください」

そう言って、廊下に出る。


9時になり、面接の時間になった。

もう一度3組の教室のドアを開け、前から2人を廊下に出るように促(うなが)す。1人目はそのまま面接会場に入れ、もう1人は廊下で待たせる。


しばらくして1人目が面接を終わらせて会場から出てきたため、2人目を面接会場に入れ、3人目を3組の教室から廊下に出す。

その繰り返しだ。


3組の教室には、30人が面接を受けるために居た。


生徒を面接会場に入れて廊下に出す…を十数回繰り返した頃。

「次の人。廊下に出てください」

「はい」

セーラー服の女の子だった。

一緒に廊下に出る。

やはり万里にとっては、女の子は緊張するようで…。

“大体1人辺りの面接時間は5分程度だったから…”

腕時計を見る。10時20分。

女の子の方をチラリと見ると、万里以上に緊張している様子だった。

“この子ヤバイな。落ちるかも…”

そう思っていると、女の子が話しかけて来た。

「あの~。すみません」

「はい。何でしょうか?」

「会場に入ったら、すぐに名前とか言ったら良いんでしょうか?」

「えっと…」

“正直、分かりません…”

「良いと思いますよ」

とりあえず、笑顔で答えてみる。

「分かりました。ありがとうございました」

彼女はそう言うと、笑顔を見せた。

“少しは、緊張がほぐれたのかな?”

万里は少しホッとした。


そうしていると、前の学生が面接会場から出てきた。

「じゃあ…入ってください」

「はい」

そう言って、彼女は入って行った。


少しすると、彼女の元気な声が聞こえてきた。

「清和(せいわ)中学校から来ました、河村 美有希(かわむら みゆき)です。よろしくお願いいたします」

「『カワムラ ミユキ』…か」


これが、万里と美有希の出会いになる──。

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