第18話 怨嗟の巨刀

〇ゴブリンキング

——説明——

ゴブリンを束ねる王。従えるゴブリンが多いほど強靭である。

本来はゴブリンを率いて狡猾に、時には自らが先頭に立って部下のゴブリンを守る。

しかし怨嗟の巨刀のせいで、敵味方問わずに殺戮を繰り返すようになった。

自らの群れはおろか、他の群れすらも追い立ててスタンピードを起こし続けている。




「……」

 スキル『天眼』で表示されたステータスを進めていく。さらにその中で『怨嗟の巨刀』を指定する。




〇怨嗟の巨刀(HP+3000 AT+5000 常に狂化状態)

とある鍛冶師がひたすらに殺戮と破壊のみを望んで打ったとされる刀。

絶大な破壊力を持つが、手にしたものは鍛冶師が込めた狂気に蝕まれてしまう。

また刀自身が闘争の果てに所有者の死を望むため、必然的に防御能力は皆無(DF、MDF、TEC、INTが0)となる。






 自分も遠距離攻撃を覚えていないか、とコマンドを探ろうとしたが……ヴェルトラムがそれを制してきた。


「要くん、とりあえず君は奴のステータスを詳細に調べてくれないか? 何か有益な情報があるかもしれない」


 そう言われたので、他に情報がないかチェックしていた。

 今自分がプレイしているのは『オリジナルのデイブレイク・ゲート』である。その特典の一つに『通常は反映されない詳細なステータスの閲覧が可能』という項目があった。


 ヴェルトラムもそれを言いたかったのだろう。

 その言葉に甘えて、ゴブリンキングのステータスをさらっていた。











「……どうかな? 要くん」

 額にしっとりと汗をかき、肩で呼吸するヴェルトラムが尋ねてきた。


 ……流石に疲労は隠せないよな。

 あれだけ群がっていたゴブリン共を散らせるまで火球を放ったのだ。なるべくゴブリンキングに近い奴を優先的に、かつ先頭も適度に叩き続ける。

 ただ闇雲に撃つだけではない。観察力と思考を併用して魔術を使い続けたのだ。見た目以上に消耗しているだろう。


 いや、ゲームだからちょっと違うか?

 とにかく、EP(気力)を相当消費していることに違いはない。自分の『激震剣』もこれを消耗して発動したのだ。



「うーん……気付いたこともあるけど、そもそも来れないって線はないか?」

 自分でも楽観的すぎると思うが、実際に橋は落ちている。いくらゴブリンキングが巨大とはいえ、これをそうそう超えられるとは思わない。

 実際、成人男性が助走をつけて思い切り跳んでも超えられそうにない——目算でも七、八メートルは空いている。


「……私もそう思いたかったよ。けど君は運が凄まじく悪いからね。なんか、越えてきそうな予感がしてきたよ」

「あ、テメェ、この……結構気にしてんだからな? 運の無さ」

「まあまあ、準備しておくに越したことはないだろう? 聞かせてくれないか?」


 釈然としないものを感じるが……そんなことしている時間が惜しい。

 ヴェルトラムに自分が気付いたことを話す。











 そして、ついにゴブリンキングが落ちた橋の前に来る。

 こちらの作戦会議は終わっている。もし渡って来れても、あとは覚悟を決めて実行するだけ。来れないのならハッピーエンド、町に入って休むとしよう。



 さて、どうなるか……うわ、マジか?

 ゴブリンキングが狂気に染まった瞳でこちらを見つめ、数メートル下がってから力を貯め始めた。食いしばった歯からは、相変わらず泡が出ている。

 誰が見ても気が狂っているくせに……いや、そうだからこそ、とにかく目の前の獲物を目指し続けることに躊躇がないのか?


「跳ぶ気みたいだね。どうする?」

「いや、どうするって言われても……」


 そして渾身の力でゴブリンキングが駆け出して、跳んだ! いや、ただ跳んだだけじゃない!

 巨体に似合わない動きで最高点に達すると同時、くるりと前転しつつ……手にした巨刀を振り下ろしてきた!



 嘘だ、こんなの!



 隣にいたヴェルトラムを片手で抱えて反転、一気に橋を後退する!

 すでに悪寒で全身総毛だっていた。


 背後で、硬いものに何かが切れ込むような音が響く。それとほぼ同時に、自分たちがいる足場——石とコンクリートの橋——に、鋭く衝撃が走った。


 肩越しに振り返ると、橋の切れ端から鋭くも武骨で野蛮な刃が食い込んでいるのが見えた。先程まで自分たちがいた場所、そこに刃が切れ込んでいる。

 食い込んだ部分を支点に、ぐいっと持ち上がってくるのは緑の巨体。そのまま勢いを殺さずにゴブリンキングが橋に着地。

 食い込んだ巨刀を引き抜き、持ち直す。



 足りない距離を巨刀で補ったぁ? ふざけんな!

 てめえ常に狂化状態だろうが! なんでそんな器用な芸当が出来るんだクソが!



 見事曲芸のような動きで橋へとたどり着いたゴブリンキング。

 相変わらず狂気のみを映した瞳で、一歩一歩こちらに近づいて来るのだった。




〇ゴブリンキング Lv:15(ENEMY)

Category(種族):魔物(モンスター)

Condition(状態):狂化


——ステータス——

HP(体力):4050

EP(気力):160

AT(物理攻撃):5320

DF(物理防御):0

MAT(魔法攻撃):24

MDF(魔法防御):0

AGI(敏捷):150

TEC(技量):0

INT(知性):0

LUC(幸運):10


——装備——

頭:ゴブリンキングの王冠

右手:怨霊の巨刀

左手:——

胴:ゴブリンキングのマント

足:ゴブリンキングのブーツ

装飾1:なし

装飾2:なし




 いくらヴェルトラムが周囲のゴブリンを狩っていたとはいえ、やはり幾分かは取りこぼしがあった。その分でレベルが上がってしまっている。

 そして相も変わらず、脳筋の極みのようなステータスだった。



「……さて、作戦を立てておいてよかったというところかな? それとも……君はやっぱり不幸だな、と笑うところかな?」

 こちらの腕に抱えられたまま、小瓶の液体——EP(気力)を回復する気力ポーション——を飲みつつヴェルトラムが聞いてきた。


「今は前者に感謝、後者はこれを乗り越えてからにしようぜ」

 もう溜息しか出ない。だがそれも今は後回しにするしかない。

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