第17話 イカレてるぞ!
「ひゃめ、ひゃめひゃまえ! まひゃおふぁっへひゃいひゃろ!」
両頬を引っ張られたヴェルトラムが訴えてくる。
当然ながら上手くしゃべれないため、よく聞かないと意味が分からないが……それでも、何を言いたいかくらいは分かる。
「……分かった」
正直わからないふりをしてそのままつねり続けても良かったが、たしかにまだ油断するのは早いだろう。ここは大人しく引き下がり、ゴブリン共の様子を見るとしよう。
「全く……いくら私の頬が最高の感触と言っても、こうまでロリコンをホイホイしていたのでは困りもの……いや、何でもないさ!」
こいつ、マジでいっぺんわからせてやろうか?
いや、止せ。相手にしても仕方ない。それよりも状況を確認して、とっとと町に入れてもらう方が先決だ。
「さてさて、ゴブリン達はどうしてっかね」
そう独り言ち、橋を見てみるが言うまでもない。草原と繋がる部分から中間より少々手前、その部分が爆破されてしまっている。
未だにもうもうと黒煙を上げ続けているが、小鬼はおろか成人男性でも跳び越えられない距離が空いている。
「ま、一安心ってところか」
迫っていたゴブリン共は、途切れた橋を前に右往左往とするばかり。連中ではどうしようもないだろう。ずる賢いといっても草原のど真ん中、橋の代わりに出来るようなものはない。
あったとしても、架けた端から俺が叩き退けてやればいいだけ。
『はし』だけに!
……いや、忘れてくれ。
「よーし、終わり! ゲーム内でも飯や風呂はあるのかなー……!」
そう思って背を向けた瞬間、凄まじい悪寒が走った。
スキル:天性の直感
奇襲へのカウンターや敵の出現、漠然とした危機を鋭敏に感知する。遠くから迫ってきたスタンピードを感知できたのもこれが大きい。
それが再び働いた。
冗談、だよな?
そう希望を込めて振り向いたが……現実は残酷だった。
草原の方から、一際大きい何かがこちらに向かってきている。
ゴブリンを遥かに超える体躯……いや、成人男性どころか羆を軽く超える巨躯が迫ってきているではないか。
その巨躯は何か、大きな剣のようなものを振り回しつつこちらに向かっている。
違う、周囲にいるゴブリンを薙ぎ払っているのだ。
背筋に氷水を流したかのような感覚が走る。ひたすらに小鬼を蹂躙しつつ向かっている影は……大鬼だった。
他のゴブリンとは比べ物にならない強靭で巨大な体躯、手にするは肉切り包丁よりも武骨で凄惨な刃物、質実剛健なマントをたなびかせ、額に乗せるは漫画で見るような王冠。
表情と言っていいのか、相貌からはとにかく狂気に陥っていることだけは分かる。瞳は焦点もなく赤黒く、食いしばった歯からは泡が止めどなく溢れている。
何より……同族であるはずのゴブリンを、ひたすらに手にした刃物で薙ぎ払い続けている。
「どうやらあれが『スタンピード』の原因みたいだね。とにかく……放っておくとまずい!」
自分のすぐ横、ヴェルトラムがそう言うと同時にバレーボール大の火球を放った!
白い華と緑樹を模った杖から放たれたそれは、真っ直ぐに巨大なゴブリンへ……とは行かずに、群がっているただの小鬼に命中した。
「……は? お、おい、そっち狙ってどうするんだよ?」
「これでいいのさ! あのデカイのを『天眼』で見てみなよ!」
言葉を返しつつも、ヴェルトラムはひたすら大鬼に近い小鬼——通常のゴブリン——へと火球を放ち続ける。一つではなく三つ、五つずつと次々にゴブリンを焼き払っていた。
スキル:天眼
他者のステータスを看破する。またステータス隠蔽等も貫通する上、魔術でもないため相手に気付かれる危険性も極端に低い。
初めてヴェルトラムに使った時のように、大鬼に向けてスキルを発動する。
〇ゴブリンキング Lv:10(ENEMY)
Category(種族):魔物(モンスター)
Condition(状態):狂化
——ステータス——
HP(体力):3950
EP(気力):150
AT(物理攻撃):5230
DF(物理防御):0
MAT(魔法攻撃):18
MDF(魔法防御):0
AGI(敏捷):130
TEC(技量):0
INT(知性):0
LUC(幸運):10
——装備——
頭:ゴブリンキングの王冠
右手:怨嗟の巨刀
左手:——
胴:ゴブリンキングのマント
足:ゴブリンキングのブーツ
装飾1:なし
装飾2:なし
——セットアイテム——
なし
いや、ダメだろこれ!
HP(体力)約4000にAT(物理攻撃)5000オーバー? イカレてるぞ!
尚更、ゴブリンにかまっている暇なんかないんじゃ……
そう思ったら、また大鬼——ゴブリンキング——が武骨な刃を振るった。
また何匹かのゴブリンが薙ぎ払われる。
〇ゴブリンキング Lv:11(ENEMY)
Category(種族):魔物(モンスター)
Condition(状態):狂化
——ステータス——
HP(体力):3980
EP(気力):155
AT(物理攻撃):5240
DF(物理防御):0
MAT(魔法攻撃):20
MDF(魔法防御):0
AGI(敏捷):140
TEC(技量):0
INT(知性):0
LUC(幸運):10
——装備——
頭:ゴブリンキングの王冠
右手:怨嗟の巨刀
左手:——
胴:ゴブリンキングのマント
足:ゴブリンキングのブーツ
装飾1:なし
装飾2:なし
——セットアイテム——
なし
……は? 何だそれ?
ゴブリンキングのレベルが上がった。訳が分からなかった。
いや、理解は出来る。
ローグライク系RPGならよくあることだが、エネミーが他のエネミーを倒して自分のレベルを上げることがある。普通によくある方式だ。
プレイヤーとしてはこれをいかにして防ぐ、または逆に利用して序盤で一気にレベルを稼ぐという工夫を凝らすことが出来る。
だが今、この状況でアレがやるのはやべぇだろ!
「分かったかい? これ以上ゴブリンキングがレベルを上げると、手が付けられなくなってしまうよ!」
そう注意する間もヴェルトラムは火球でゴブリンを葬り続けていた。次々炎上したゴブリンが光となって消え去っていく。
前門はヴェルトラムの魔術攻撃、後門は暴君たる大鬼——それを実感したゴブリン達が、ようやく散り散りに逃げ始めていった。
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