第25話◇教習所の新旧劣等生?




 モネの能力は、当たり外れで言えば大外れだ。

 光属性傲慢型に属し、その能力は『自分の周囲に光熱攻撃を展開できる』というもの。


 通常光属性というのは、射程距離が伸びるほどに価値が高くなるといわれる。

 大抵の敵ならば殺せる火力で、遠方から射抜くのだ。


 射程がない場合、その分敵に近づく必要がある。

 それだけ危険が増すということでもあるわけだ。


 モネは当初、劣等生扱いされていた。


 それでも、自分を探索者にするべく支援してくれた者たちのため、今も苦しい生活を強いられる施設の子供達の環境を変えるため、彼女は諦めなかった。


 ならば、生き抜くのに必要だと思う知識を授けるのが教官というもの。


 ディルは一般的な傲慢型の射撃という使用法をまず捨てさせた。

 彼女の射程では、普通の傲慢型使いになることもできない。


 生き残る道は、異端の傲慢型使いのみ。

 モネに近接戦闘能力を高めさせ、何かしらの武器を扱えるように指示。


 彼女は剣を選び、今の戦い方を完成させるまで長く苦労した。

 モネが普通の生徒と違いディルを尊敬しているのは、このことがきっかけだろう。


「モネさんすごいです!」


 アレテーは拍手しかねない勢いで興奮している。

 モネはふふんっと鼻を鳴らし、空いてる方の手で髪をバサァッと払った。


「ありがとうレティ、光栄よ」


 気取った仕草も様になるのが、モネという少女だった。


「さぁセンセイ? 次もお願い出来るかしら?」


「イノシシはもう終わりだ。既に二頭倒してきた」


「あら、それはすごいわね。ありがとう」


「先生もすごいです!」


 アレテーの反応を見て、ディルは考える。


 どうやら、自分が深淵に行くために他のモンスターを殺すのに抵抗があるだけで、他人のそれに口出しするほどではないようだ。


 そもそも彼女の住んでいた地方なら狩りで日々の糧を得ることもある筈なので、命を頂くことへの忌避感があるわけではないのだろう。


「先生? どうしました?」


「次、お前に働いてもらうぞ」


「わ、わたしですか?」


「なんのために連れてきたと思ってる」


「後学のため、でしょうか……」


「真面目か」


「真面目なのは良いことじゃない」


 モネが会話に入ってくる。


「さっきも言ったが、役に立つと思ったから連れて来ることにしたんだ。いいから降りてこい」


「は、はいっ。ではえぇと……べりあるさん、お願いしますね」


 水のクマが出現し、アレテーを抱えて下ろす。


「名前つけたのか」


「はいっ。モネさんも、イメージしやすいように名前を付けることはよくある、と仰っていたので」


「まぁそうだな」


 ネーミングセンスについては触れないことにする。


「草原に戻る前に、ここでもう少し採っておきたいものがある」


 ディルが歩き出したので、二人もついてくる。


「牛も鳥も草原エリア生息よ? このあたりで狙うとしたら……採取系?」


「あぁ。おい子うさぎ、さっきのおさらいだ。樹木に擬態したモンスターの特徴は?」


「えぇと、実がなっているとモンスター、です」


「そうだ。たとえば……丁度いいな、あれを見ろ」


 ディルが立ち止まり、ある方向を指差す。

 そこには一本の樹木が生えていた。


 幾つも実が地面に転がっており、ディルたちのいるところまで甘い匂いが漂ってくる。

 その誘惑といったら凄まじく、ディルやモネですら飛びつきたくなるのを堪えるのが難しいほど。


 アレテーなどはふらふらと誘われるように歩き出したので首根っこを掴んでおいた。

 でこぴんすると「あうっ」と呻いたあと、「はっ、わたしは何を……」と正気に戻る。


「今体感したように、採取系と言えど楽じゃない。あのまま誘惑に負けると……あぁなる」


 丁度、一角イノシシが実を貪っているところだった。

 一心不乱に実を頬張るイノシシ。


 やつの周囲の地面が隆起し、複数の木の根が這い出る。

 そしてイノシシに絡みつき、縛り上げる。


「ひっ」


 それでもイノシシは口をバクバクさせている。僅かでも実を口の中に入れようともがく。

 木の根が脈動したかと思うとイノシシの体が痙攣し、徐々に――萎んでいった。


 体内の液体を吸い出されたかのように、しわしわになっていき、やがて皮を残すのみとなった。


「あわわわ……」


 アレテーが口元を押さえてぶるぶる震えている。


「甘い匂いで誘って、近づいてきたら拘束。あとは吸い殺す。植物だからといって気を抜くな」


「根っこ攻撃は動きが読みづらいから、あたし苦手なのよね。実自体はとんでもなく甘くて美味しいのだけど」


「綺麗な形で多くを持ち帰るのが難しいからな、肉と比べても市場に出回る数が少ない。モンスターを殺したくないってんなら、これで稼ぐのが一番だ」


「あっ……」


 アレテーが何かに気づいたように声を上げ、ディルを見る。

 そして、瞳を潤ませた。


「先生は、これをわたしに教えてくださるために……?」


 じーん、と感動しているアレテー。

 ディルは表情を歪めた。


「おい、気味の悪い勘違いをするな」


「はい、先生! わたし、頑張ります!」


「ほんとに分かってるか?」


「先生が優しいかただということを、わたしは分かっています」


「分かってねぇじゃねぇか」


「……ふぅん、随分と仲がいいのね」


 モネの声が低くなる。


「……あー、とにかくだ。やり方を教えてやるから、よく聞くように」



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