1-5
「――と、言うことがあってだね大塚くん」
「へえ」
「えっ、いや、思ってたより反応うすっ!」
翌日、三限目終わりの休憩時間。昼休みまで待ちきれずに、一限目と二限目終わりの二つの休憩時間を使って、女性絡みの相談なら俺に任せろ的なスタンスをとっている大塚に昨日の出来事について相談した。もちろん、他言無用であることは再三念押しをしつつ。二つの休憩時間を潰してまで説明したというのに、一発目の反応があまりに軽すぎて俺の中の秘めたるM心に火がつきそうだ。
「……まず、前提として確認をしておきたいことがある」
「お、おう」
「関は、その女――千波茉莉が言っていることを信じているのか?」
大塚は笑うわけでもなく至極真面目な顔で俺に問う。俺は少し考えて答える。
「うーん……一ヶ月後に死ぬ、と言われても全然実感も湧かないし……。答えになっていないかもしれないけど、わからない、というのが正直なところかな。でも……」
「でも?」
「千波さんがまるきり嘘をついているようにも見えなかった」
千波さんと会話して感じたことを正直に話す。これまでに見た予知夢のことを話してくれたときの千波さんの表情は、とても深い悲しみに満ちていたように思う。夕陽に照らされ、それだけで、〝哀愁〟というタイトルがぴったりの絵になってしまうような——。
「そうか。じゃあ、この件について考えることがあるとすれば一つだけだ」
「え、一つだけでいいのか?」
「アホがたくさんのこと考えたって収集がつかなくなるだけだろ」
かっちーん。まぁ、仰る通りなのでぐうの音もでない。
「……で、その一つって? デートに着ていく服とか? 確かに、自信ないんだよな俺……」
「違う、そんなものはどうでもいい。――一ヶ月後に死ぬ運命であるというお前を、千波茉莉はなぜ助けようとしている?」
「え? そんな単純なことでいいのか? そんなの解りきってるじゃん」
「ほう、言ってみ」
正直、少しがっかりした。女性絡みの相談は任せろ的なスタンスをとっている割に全然大したことないな。ただモテるだけの男かよ。……まぁ、ただモテるだけでも十分過ぎるほど羨ましいし、そもそも本人はそんなスタンスであることを一切表明しておらず、ただの偏見なのだけども。
「たとえば、目の前に重い荷物を持った見知らぬおばあさんがいる。おばあさんは息を切らして、とてもしんどそうに重い荷物を運んでいる。さて、その光景を見た人はどうする? 全員が全員というわけじゃないだろうけど、何割かの心優しい人は代わりに重い荷物を持ってあげるだろ? つまり、千波さんのそれも、これと同じ話ってわけだ」
たとえ話を交えて丁寧に解説する。あれ、実は俺も女性絡みの相談いける口なんじゃね?
そんな俺の素晴らしい解説を聞いた大塚は、あろうことか吹き出しそうになりながら、それでも必死にクールな素振りで口を開く。かっちーん再び。
「関、それはおかしいよ」
大塚の目が「やっぱりお前ってアホだな」と訴えてくる。うるせー。
「何がおかしいんだよ?」
「その下手くそなたとえ話を今回の件に合わせるとしたら、〝目の前に重い荷物持った見知らぬおばあさんなんて
「なんでだよ、現に俺は一ヶ月後に死ぬ運命で困って――」
「それで、関はおばあさんのように
「うっ……」
「もっと正しく例えるならこうだ。目の前のおばあさんは一ヶ月後に重い荷物を運ばなければなりません。しかし、周りはおろか、おばあさん自身ですら誰もそのことを知りません。しかも、一ヶ月後におばあさんを助けるためには、これから毎日地獄のような筋トレメニューをこなす必要があります。さて、あなたはおばあさんを助けますか?」
「うう……そう聞くと、おばあさんを助けるのが非常に億劫になるなあ。……つか待て、地獄のような筋トレメニューって暗に俺とのデートのことを指してないかこら」
「ま、諸々そういうことだ。それでも、千波茉莉はおばあさんであるお前を助けようとしている。……まぁここまでヒント出したらいくら関でもわかるよな」
そう言って大塚は、一仕事終えたぜと言わんばかりふうっと息を吐く。
……先ほどはがっかりしたとか大したことないとか言ってすまなかった。大塚に相談していなければずっとそれに気がつくことができずに過ごすところだった。危ない危ない。
「ありがとな、大塚」
「なーに、良いってことよ」
ぐっと固い握手を交わす。うん、たまには男同士の熱い友情もいいもんだ。
問題も解決したところで自分の席に戻るために立ち上がる。梅井くん、休み時間中席を貸してくれてありがとう、と心の中で呟きつつ。
そして件の千波さんについて、想いを馳せる。
「それにしても……千波さんって自己犠牲を厭わない神様みたいな存在なんだな。実はクリスチャンだったりし――」
ずこここー
俺がすべてを話し終わるのを待たずに、大塚が盛大にずっこけた。漫画以外でそうやってずっこけるやつ、初めて見たぞ……。
「……大丈夫か?」
「……それは俺の台詞だ」
大塚は体勢を戻すと、だからお前は顔はそこそこなのにモテないんだよ、とかなんとかぶつぶつ言いながら次の授業の準備を始めた。……何度も、何度でも、何度だって言うが、モテないは余計だ。
……だって、千波さんクリスチャン説以外考えようがないだろ? 落とした消しゴムを拾ってあげた、ただそれだけしか接点がない関係なのだから。その唯一の接点に色々と別のものを見出そうとするのはナンセンス極まりないことだ。
それとも、消しゴムを拾ったお礼とでも言うのか? ……馬鹿馬鹿しい。そもそも消しゴムの件を千波さんが覚えているかも怪しいし、覚えていたとしてもたったそれだけの事で地獄のメニューをこなそうとなんて思うわけがない。
……あれ、なんか俺今自分のことをディスってしまってね?
自席に着席する。四限目始まりのチャイムが鳴るか鳴らないかというきわどいタイミングでポケットのスマホが震えた。
『お昼休み、お弁当を持って中庭に集合です(キラキラしてる絵文字とかハートの絵文字とかいっぱい)』
――差出人はもちろん、
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