同年代のお友達、カラ
私の授業が終わり、子どもたちからこの世界の常識をいろいろと聞いていると、昼食を知らせるカラの声が聞こえてきた。
カラというのは教会でお手伝いをしている女の子。歳が近いからかとても話しやすい。性格も明るくて人懐っこいので友達が出来たみたいですごく嬉しいし、心強いんだ。小柄ながらパワフルなところや、いつもご機嫌にゆれる尻尾や猫耳も全部ひっくるめて私は彼女が大好き。
「ちゃんと手を洗ってから食堂に行くのよ!」
「はーい!」
カラのよく通る声に、子どもたちはそれぞれ返事をしながら建物の中へと走っていく。それを見送りながら、カラがお疲れ様、と労いの言葉をかけてくれた。
「エマ、今日はどんな話をしたの?」
「雨がどうして降るのかって話だよ」
「え? 雨は天のお恵みでしょ?」
「ふふっ、カラったらミサーナと同じこと言ってる」
よちよち幼児と同じ発想なの、あたし? と言いながら、カラは明るく笑った。この笑顔が特に好きだなぁ。フワフワと肩のあたりで揺れる金髪が、陽の光に当たっていつもより綺麗に見える。
「それから、今日はこの世界にある都市のことを聞かせてもらったよ。私たちのいるこのハクという都市の他に、セイ、セキ、オウ、コク、の五つ都市があるって」
「そっか、エマはそれも知らないんだったわね。詳しくはまたあたしが教えてあげようか?」
「うん、助かる」
子どもたちから聞く内容は大まかなことでしかないから、こうしてカラが補足説明をしてくれるのは実際、とてもありがたい。でも今日聞いた都市の名前、なんだか色っぽいなって思ったよ。白、青、赤、黄、黒。覚えやすいからこれも助かる。
だけど今日はシスターの元へ行く前に、カラにも聞いておきたいことがあるんだよね。私は意を決して、口を開く。
「あの、私がここに来た日のこと、知ってる? どうして私がこの教会に運ばれてきたのか、とか……」
「! もう大丈夫なの?」
カラが心配そうに聞いてくるのには訳があった。ちょっと前まで、私はその日のことを話そうとするとパニックになってしまってそれどころではなくなってしまったからた。思い出そうとすると頭痛が酷くなるし、どうしても怖いって気持ちがあって。
だけど、ここに来る経緯や思い出せない過去について考えない限りは大丈夫だって気付いた。子どもたちに日本でのことを教えるのは問題なかったし、心もかなり落ち着いたと思う。
それもこれも、そんな私に親切に接しながらも深く聞こうとしてこないシスターやカラのおかげ。
「うん。そろそろ、聞いておきたくて」
「そう? エマが大丈夫だって言うなら……。うん、なんでも聞いて!」
本当に優しいな。あの人が言っていた安全な場所って言葉も頷ける。ここに居れば大丈夫だというのは本当だった。疑っていたわけではないけど。
「そ、それじゃあ聞くね? あの……。私をここまで連れて来てくれた赤髪の男の人、彼が誰か知ってる?」
「それはもちろん! この国にいる者なら誰もが知っているわ。彼はアンドリュー様。アンドリュー・レクス・ベスティア様よ。このベスティア国の次期国王様だもの!」
「え、ええぇぇぇっ!? そ、それって王子様ってことっ!?」
これは予想外! まさか、そんなにすごい人だったなんて! うわ、王子様が自ら私を助けてくれたの? ひえぇ! 私、失礼なこと言ってなかったかな? 不敬罪になったりしない? ちゃんとお礼も言えていないどころか挨拶もしていないし!
「ふふっ、いい反応ねー! 早く教えてあげたいって思っていたの。エマは素直だから、すっごく驚くだろうなって」
「も、もう! それは驚くでしょう? うぅ、王子様だったんだ……」
それなら、守るって言ってくれたのも納得かも。ずっと不思議に思っていたんだ。どこの誰ともわからない初対面の私に対して、守ってくれるだなんて大げさなことを言ったから。守られる理由がさっぱりわからないもの。
だけど、国の代表としての言葉だったのなら理解出来る。いやでもこんな不審者、むしろ守るよりも排除しそうなものだけどな。しかも私はこの国唯一の人間らしいし、得体の知れない存在を放ったらかしにしていいのかなって心配になっちゃう。もちろん、揉めごとを起こす気なんかないけどっ。
「あの時は本当に驚いたわ。基本的に近くでお会い出来るような方じゃないもの。そんな方がエマを抱えてこの教会に来たのよ? もうビックリよ! 子どもたちが寝静まった時間で本当によかったわ。じゃなきゃ、大騒ぎになっていたところよ!」
それはそうだよね。王子様が教会に現れるなんてこと、普通はなさそうだもの。
続けてカラは興奮気味に、アンドリュー様がいかに素敵な王子様かということを話して聞かせてくれた。強くて逞しく、国民思いで、とにかくカッコいいって。強面だけど紳士で、憧れる女の人は多いらしい。
うん、確かに凛々しくてイケメンというよりは男前な顔立ちだった、気がする。実はあんまり覚えてはいないんだけど。仕方ないじゃない? あの時は暗かったし、意識も朦朧としていたんだから。
「貴女のことをとても気にかけていたわ。『人間』っていう珍しい種族だけど、良くしてやってほしいって。何だかお急ぎみたいで、あまり詳しい話は聞かせてもらえなかったけれど」
カラはそこで一度言葉を切ると、思い出したように手を打った。
「そうだ、その内またここにいらっしゃるって言っていたわ。きっと、エマに会いに来るのよ! きゃっ、楽しみね!」
ニコッと笑い、ウキウキした様子でカラはかなり重要なことを教えてくれた。またここに来る!? 王子様が!? い、今聞いておいて良かったぁ!!
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