この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。
阿井 りいあ
私が聖女!? 無理です! 無理無理!
記憶:0
いつからだろう。学校に居場所がないと感じ始めたのは。
「あの、
人が怖くて、うまく喋れなくて、だから余計に相手を苛立たせてしまう。悪循環だ。
わかってはいるけど、私がようやく口を開こうとした時にはすでに相手が話し始めている。
「正直、ちょっとうんざりなんだけどー」
「ちょっ、そんな言い方よくないよ!」
「はぁ? アンタだっていつも言ってるじゃん。いい加減、あの態度どうにかしてほしいよねって。無理して学校に来なくてもいいのにって」
「や、やめてよ! そこまで言ってない!」
目の前で、クラスメイトが言い合うのをぼんやりと聞いたあの時、私の居場所はとうにここにはなかったんだって理解した。
「
「ごめん、なさ……」
「ああ、口も開かないで! 喋らないで!! もう限界なのよ!!」
それよりも前、家に私の居場所がないと知った時から、私は大切なものをどんどん失っていっているのかもしれない。
きっと私はどこへ行っても邪魔者で、いらない存在なんだ。
いつからこうなっちゃったんだろう。昔は自分の気持ちも言えたし、人もここまで怖くはなかったのに。
でも、いつからか、なんてどうでもいいか。結局のところ、今が全てなんだもの。
母は私を家から追い出したがった。施設か病院か、私がいなくなればどこでもよかったんだと思う。
ただ生憎私はどこも悪くなんかなくて、健康そのもの。どんなに辛くても、悲しくても、私の身体は毎日問題なく動けてしまった。
いっそ、倒れてしまえたら病院にも行けたかもしれないんだけどね。心はそれなりに病んでいたと自分でも思うのに、気が狂うことも体調に影響することもない。
案外、自分は図太いんだなっていういらない気付きを得ただけだった。世の中、思う通りにはいかないものだ。
元々、大人しめな方ではあったと思うけど、ちゃんと友達もいたし、ここまで冷めた考えをすることもなかった。
成績はそこそこで、少し鈍臭いところはあるけど、目立たず、人に迷惑をかけず、我慢強くて言うことをよく聞く優等生の部類に入っていたような人間だったと思う。
家族仲だって、酷すぎるってことはなかった。
母は、昔から私に関心があまりない様子ではあったけど、ちゃんとご飯も食べさせてくれたし、殴ってくることもなかった。嫌味を言われることはあったけど、こんなに酷い言葉を投げてくることはなかったんだ。
ああ、どちらかといえば、逆にあの頃よりも私に関心を抱くようになったのかな。もちろん、悪い方向で。
変わってしまったのは、あの事件のせいだってことはわかってる。
だけど、だからといって、どうしたらいいのかなんてわからない。今のこの状況を変えることなんて、きっと出来ない。
だけど、母は言った。そんなことはない。貴女に出来ることが一つだけあるって。
「消えて、ちょうだい……!」
……そう、だね。
私さえいなくなれば、母はもうこんなに苦しんだりしない。
これまでは全部私がやっていた家事を、母がやることになるだろうけど、少なくとも私を見て気分を害することはなくなる。
私さえいなくなれば、クラスメイトが喧嘩することもない。
いつもああやって争っているのは、全部私がいるからなんだ。喧嘩のキッカケを作ってしまっているのは、きっと私だから。いなければ揉めることもなくなるよね。
だけど。
生きたい。
死にたくない。
私は、生きたい……!
首を絞められ、意識が朦朧とする中で、私は必死で「生」にしがみついていた。
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