約束されてるかもしれない破滅

 水晶王様が歌っていた。

 低音と高音のハーモニーが、強烈に脳裏で響く。いまは止めてくれ。頭痛がしてくる。

 嗚呼、えてしまう! 俺にもえてしまった! 飛来してくる大陸間弾道ミサイルICBMが!

 やりすぎだ!

 なんだって、は核ブッぱが好きなんだ!? 二作に一回は核で滅亡とか、頭がおかし――


 絶叫を堪えつつ、跳ね起きる!


 そうだ! したら核ミサイルが飛んでくる! 何処かの国から!

 囃し立てるような替え歌と共に、誰もが知っている典型的なキノコ雲――それがゲームオーバー時の画面だ。

 を経た時には知りえないことだけど、その最悪を避けるべく主人公達は活躍する。

 そして必要フラグを建て損なうと――具体的にいえば仲間となるべき人物が合流できなかったりすると、問答無用で核だ。天空を支える神に慈悲はない。

 でも、本当に主人公達が失敗したら? 掛値や容赦もなしに!?

 おそらく現在、非常に拙い状況となっている。

 なぜなら主人公が異能に覚醒した重要なイベントを、なぜか俺が――


「兄ちゃん、目を覚ました!」

 枕元で野球帽を被った子供が大声を上げる。

「愛ちゃ! 病院で騒いだら『めっ』だよ! でも、良かったぁ……兄ちゃ、起きてくれて」

 ロングヘアーのもう一人が、俺を見て涙ぐむ。

 反射的に頭を撫でてようと手を伸ばし、背中の激痛に分からせられる。

 割と痛い!

 でも、軽い怪我と分かる範囲の痛さだ。どうやら軽傷で済んだらしい。

「痛いの!? 兄ちゃ、平気? お母さん呼んでくる?」

「……大丈夫だよ、真。ちょっと吃驚しただけ。姫子さんもいるの? じゃあ、ここは姫子さんの病院?」

 やっと見知らぬ部屋へ寝かされている事情が呑み込めてきた。

 トラックに轢かれたものの九死に一生を得た俺は、叔母姫子さんが勤める群玉県立病院へ運ばれたのだろう。

 そして双子の――従妹の愛と従弟の真は、見舞いに駆けつけてくれたみたいだ。

 ……ちなみに間違っていない。

 野球帽を被った腕白そうなのが従妹の愛。ロングヘアーで嫋やかそうなのが従弟の真だ。

 どちらも奇特なことに俺のことを「兄ちゃん」、「兄ちゃ」と慕ってくれている。

 渇望していたを得たようで、嬉しくてならない。この二人の為にならば、例え火の中水の中だ。

 ……え? それを言うなら一人は弟分だろうって? 妹扱いで、何の問題ですか? 腕白だけど、紛れもなく愛は女の子だぞ!

 とにかく安心させるべく達の頭を撫でる。うひひ、これ何て役得!? 御会計はどこ!?

「だから言っただろ、兄ちゃんは殺したって死なないって!」

「そんなこといったって……心配しちゃうよぅ……」

 しかし、双子のきょうだいを相手に虚勢を張る愛だって、少し目が腫れてる。どうやら酷く心配させたみたいだ。

「目を覚ましたのね、しずく。どこか痛いところはない? 特に頭とか? 吐き気はする?」

 騒ぎを聞きつけたのか、病室へ姫子さんが顔を見せた。看護師姿だし勤務中のようだ。

「背中が痛いけど、酷くはないと思う。吐き気もしない。……お腹は空いてる」

「頭は打って無いようね。今日は病院へ泊って、念の為に明日、先生に診て貰いなさい。おにぎりを夜食に用意しといたから、それで朝まで持たすこと。それから! 気を付けてなきゃ駄目じゃない! あんたに何かあったら、死んだ兄さんや義姉さんに申し訳が立たないわ!」

 カルテから顔を上げた姫子さんは顔を上げ、厳しい顔を作って俺を叱る。

 やはり仁王立ちな二児の母は怖い。貫禄があるといってもいいだろう。

 しかし、まだ姫子さんは二十代の若さであり、叱られたい御姉様として密かに人気なのも肯けた。

 これ、もしかして御金払わなきゃならない感じ!?

「そうだ、そうだ! 反省しろ、兄ちゃんは!」

「……うん。もっと兄ちゃは、気を付けるべきだよぅ」

 騒ぐ子供達を姫子さんは、手に持ったバインダーで軽く頭を叩いていく。

「ほら、二人とも! 病室で騒がない! それに、そろそろ帰りなさい! 明日も学校なんだから! あ、タクシー使うのよ? ちばらぎ市も最近は物騒だし」

 どうやら俺は、日常へと帰還を果たせらしい。安堵の溜息が自然と漏れる。

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