ソードマン対キメラマン

闇塚 鍋太郎

SWORDMAN VS CHIMERAMAN

前篇:キメラマンの襲撃

契約

 その日、俺は長谷川のオフィスを訪ねた。俺たちソードマンの元締め、長谷川豹馬の城だ。もっとも、城主は不在である。現在長谷川は入院中なのだ。宿敵(元親友でもある)栗枝左門との死闘を制した長谷川だったが、彼もまた相応のダメージを被った。その傷が癒えるまで、三人衆(通称キラーマン)の一人、小笠原有光が代理の元締めを務めている。

 小笠原は「最盛期の藤岡弘(現・弘、)」そっくりの容姿をしていた。勿論声もそっくりである。長谷川同様、いわゆる「スターのオーラ」を常に発散している。売れない役者の俺…魔宮遊太としては羨ましい限りだ。長谷川にしろ、三側近にしろ、彼らに会う度に、俺の嫉妬心は激しく燃え上がるのだった。


「よく来たな、魔宮君。まあ、かけたまえ」

「ああ」

 俺は長椅子に腰をおろした。所内の修復は完璧に済まされていた。以前よりも機能性や清潔度が増しているように感じられた。豹馬と左門。ここを舞台にして、凄腕二人が猛烈な斬り合いを繰り広げたとはとても思えない。

 俺は小笠原が自ら淹れてくれたコーヒーを飲みつつ、仕事の再開について、彼と相談した。ソードマンの仕事とは、すなわち「殺し」である。夜になると町中にあふれ出す「謎の怪物スライム」を狩るのが主な業務だ。両手を…いや、全身を化物の返り血で汚す過酷な商売である。一般には「スライムハンター」と呼ばれている。

 堅気のやる仕事ではないし、俺も好んでやっているわけではない。劇団の維持という大目的がなければ、他の副業を選んでいただろう。しかし、破格の金額と云っていい、殺しの報酬は俺にとって、極めて魅力的だった。


 小笠原が作成してくれた「再雇用の契約書」にざっと眼を通してから、署名と捺印を行った。明日から、演劇活動と殺戮活動の二重生活が始まるのだった。俺の風変わりな副業に関しては、知人にも友人にも、一応秘密ということになっている。知っているのは、座長の百目鬼(愛称ドメやん)だけであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る