第2話 私は賽銭箱じゃありません
「いらっしゃいませ」
バイト先の先輩から教えてもらったセリフをあまり抑揚のない声で繰り返す。
本を1冊持ってレジに来た白髪混じりのお爺さんにから、その文庫本を受け取る。
そうしたらバーコードを機械で読み取り、小計を押したら表示された金額をよみあげお客さんがお代を払うのを待つ。
その間に私は、頼まれたらブックカバーを掛けたり袋に入れたりする。
そうするとスムーズに会計が終わるのだ。
これをたったの3回目のバイトでできる私は結構すごいのではないか?
もう無愛想とか言わせないし言われないですよ!と悦に入っていたのだが、これが俗に言う調子に乗っていた状態というのをこの後すぐ思い知る。
お爺さんが袋を手にレジから去るのと同時にカウンターに漫画本2冊を投げ置く、40代後半の黒いワンピースを纏うおばさんがレジにやって来ました。
この時の私の心中は、般若が更に目を吊り上げ牙を更に剥き出しにしたような感じでしたね…
商品を投げるなよもっと丁寧に扱えよ、と言ったように。
「イラッシャイマセ…」
投げた本を目を細めて見ながら腕を組み、片足に体重をかけたそれはそれはザ・偉そうな人。
まるで絵に描いたような偉そうな人に私はもう抑揚のない何時もの挨拶から、もはやロボットが発音したかのような挨拶へ。
気合いを入れ直して何時もの通り機械を弄り金額を読み上げる。
すると、なんということでしょうか
おばさんは財布から小銭をトレーに投げ入れたのです。
私は賽銭箱じゃないんですがね?
もはやこのおばさんからは私が賽銭箱に見えているのでしょうか?
「チッ」
あろうことか舌打ちまでしましたよ!
もう黙ってはいられません。
内心で叫ぶだけじゃ限界です!
「…私は賽銭箱じゃないんだよいちいち投げるな」
ついつい口をついた言葉を声に出してしまいました、
おばさんは明らかにこちらを睨みながら退店していきます。
いえいえ、今聞こえたのはきっと気のせいですよ〜
だって、私はひとりごとを呟いただけですから。
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