第111話『天の神様の言うとおり 4』

 愛里お気に入りのケーキ屋さん「スペランツァ・ルーナ」にて。2人はケーキを頬張っていた。


愛里「美味しい~」


巳海「ね。……にしても、アイドルであることを容易に納得できる、可愛らしい人だったねぇ。」


愛里「うん……うん?今なんて?」


巳海「え?だから、どっからどう見てもアイドルだなぁって思える、可愛い男の子だって。」


愛里「あぁ、うん。あんまり漢字ばっかりで話さないでよ。」


巳海「あはは、いやいや。」


愛里「ほなっちゃんと同じユニットになってから、賢くなったんじゃないの?」


巳海「あはは、ならいいなぁ。」


愛里「んね。いいなぁ、私も賢くなりたいよ。体操のせいで、脳みそが揺れて頭が悪くなったんだ。」


巳海「体操に失礼でしょうが。体操選手で賢い方もいるでしょ。」


愛里「う、私の言い訳を消し去らないでよ。」


巳海「あはは。いいじゃん、愛里はその他の才能がいくらでもあるんだからさ。」


愛里「えー?私が何持ってたかなぁ。」


巳海「……」


愛里「ねぇ、巳海。」


巳海「うん?」


愛里「巳海、最近、なんかあるでしょ。私に隠してること。ううん、私と帆夏ちゃんに隠してること。」


巳海「……どうして?」


愛里「顔を見てたら分かる。何年、巳海の隣にいると思ってんのよ。」


巳海「……そっか。愛里には、かなわないな。ここじゃ話せないから、この後、うちに来て。」


愛里「分かった。話してくれるんだね。」


巳海「うん。隠してるのも……案外辛いし。愛里に隠し事なんかしたことなかったから。」


愛里「そだね。いつでもなんでも、すぐに言っちゃうもんね。体操が出来なくなったときもそう。」


巳海「……うん。最近は、調子はどう?」


愛里「普段はなんとも。でもやっぱり、長いこと左腕に負担がかかると、夜になってから涙が出るくらい痛む。そういうときさ……改めて、私にはもう体操は無いんだなぁって、思うんだ。悲しくなる。あの時、着地に失敗しなきゃ、今もきっと体操をやってる。私は、体操選手になっている大人の私しか、想像してなかった。失った時、もう死にたいなって、思ったよ。だからね……アイドルに誘ってくれて、ありがとね、巳海。また私に、笑顔で居られる人生を与えてくれて。」


巳海「そんな……大袈裟な。」


愛里「だからさ、巳海。離れていかないでね。あの時、体操を辞めた私を置いて、巳海は体操を続けなかった。」


巳海「それは、私が体操選手としての才能が無かったから、愛里を……言い訳に、辞めただけだよ。」


愛里「ううん、違うよ。」

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