第112話『天の神様の言うとおり 5』

 スペランツァ・ルーナにて。


愛里「あの時、体操を辞めた私を置いて、巳海は体操を続けなかった。」


巳海「それは、私が体操選手としての才能が無かったから、愛里を……言い訳に、辞めただけだよ。」


愛里「ううん、違うよ。そりゃ、それもあったかもしれないけど、巳海は……巳海は、体操が出来なくなった私を、蹴落とせなかったんでしょ。」


巳海「……」


愛里「離れていかないで。お願い。」


巳海「離れていくつもりなんか無いよ。」


愛里「……ほんと?」


巳海「うん。……愛里、気づいてるの?何を隠してるのか。」


愛里「ううん。ただ、最近の巳海が、なんかちょっとだけ、遠い気がしたから。私を置いて、どこかへ行こうとしてるのかと思った。」


巳海「ううん。離れるつもりはないよ。アイドルからも、愛里からも。」


愛里「うん。私たち、ニコイチだもんね。」


巳海「うん。」


愛里「……巳海。」


巳海「うん?」


愛里「……なんか、暗い感じにしてごめん。ケーキ食べよ。はい、食べる?あーん」


巳海「うん、ありがと。……ん、美味しい。」


愛里「巳海のも一口ちょーだい。」


巳海「うん、どうぞ。」


 数十分後。2人はケーキを食べ終え、巳海の家にやって来た。


愛里「巳海のおうち久々だ~。あ、下着とか持ってくればよかった。」


巳海「コンビニで買う?パジャマは貸すよ。」


愛里「そうしよっかな~」


巳海「明日、夕方からだしね。」


愛里「うん。巳海とお泊まり、へへへ」


巳海「何をそんなに喜んでんのさ。今さら珍しいものでしょないでしょ。」


愛里「えー、お泊まりは何回やっても楽しいよ?」


巳海「……愛里、たまに子どもみたいなところあるよね。」


愛里「あるー。チョコ我慢できないし。」


巳海「あはは」


愛里「それで、隠してること、話してよ。」


巳海「切り替え早っ。うん、話すよ。」


愛里「うん。」


巳海「……1ヶ月前、いや、もうちょっと前かな、突然ね……連絡が来たんだ。体操業界から。私たちが通ってた教室の一番偉い人の、友達って人から。」


愛里「なんて連絡?」


巳海「体操業界に戻ってきませんか……オリンピックに出ませんか、って連絡。」


愛里「……」


巳海「正直ね……最初は嬉しかった。」


愛里「うん。当たり前だよ。」


巳海「……でも私はさ、体操選手とか、ましてはオリンピックとか、もうとっくに捨てた夢だったんだよ。未練も、多分……愛里より無い。それに、今はアイドルが楽しいし、私はアイドルをこれからもやっていくつもりだから、断ったんだよ。それなのに、連絡が止まらなくて、それで……困ってるって感じ。事務所じゃなくて私宛てに来るから、対応も面倒で。」


愛里「へー……」


巳海「……聞きたく、なかったでしょ。だから内緒にしてたんだよ。」

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