第109話『天の神様の言うとおり 2』
雑誌撮影の前、巳海さんのことが気になり、少し話をしていた。事務所ではなく、巳海さん本人に接触を図るのが、厄介な相手なのだ。
「巳海さん、先方の連絡先はブロックしましたか。」
巳海「しました。でも連絡が来るんですよ。色んな手段使ってくるんです。怖いんですけど……」
「はい……。悪質ですね。事務所でも対応をしています。今のところは、あまりお力になれていなくて、すみません。」
巳海「いっ、いえいえ。……正直、最初は嬉しかったんですよね。体操業界の誰かが、私のことを覚えていてくれたことが。」
巳海さんの切ない微笑み。いつも青空のように明るい巳海さんだからこそ、余計に切なかった。
「……。巳海さん、体操をやりたいという気持ちがあるのならば、考えますよ。」
巳海「いえいえ。もう、いいんですよ。とっくに諦めてたんです。ただ……ほんとに、ちょっと嬉しかっただけで。私は、アイドルをやっていくつもりです、死ぬまでずっと。」
「はい。……困ったことがあったら、すぐに言ってください。」
巳海「ありがとうございます。マネージャーさんがマネージャーさんでよかったです。」
梅香さんの件、雨鐘さんの件、そしてこの巳海さんの件、一度にいくつものトラブルを抱えていた私には、その言葉が深く染み渡った。
巳海「え、ちょっと、泣きそうな顔しないでくださいよ!?」
「す、すみません……。」
巳海「大変ですよね。ユニット、12組もかけ持ちして。事務所も違うのに、なんでマネージャーさんが全部やってるんですか?」
「私、もともとはスマイリープロダクションの社員なのですが、今回、エイチフェス総合管理委員会に依頼されて、こういう形になっています。」
巳海「へ〜。じゃあ、優秀なんですねっ、やっぱり♪」
「……そ、そうなんですかね。」
巳海「そろそろ行きましょ。愛里たちが心配しますから。」
「は、はい……!」
巳海さんの笑顔を守らねば。そう強く誓った。
雑誌撮影から数日後。今日はオフだ。不意に、スマホの着信音が鳴った。あぁ、まただ……。
巳海「あれ……愛里?」
電話を取る。
巳海「も、もしもし?」
愛里「もしも~し。」
巳海「どうしたの?電話なんて。」
愛里「今日、暇?」
巳海「うん。当たり前じゃん、愛里と同じスケジュールなんだから。」
愛里「そ?巳海だけの仕事とか、あるかもしんないじゃん。」
ドキッとした。愛里はいつもそうだ。何も考えていないようで、何もかも考えている。
愛里「『スペランツァ・ルーナ』行こ〜。中にちっこいカフェが併設されたんだよ。」
巳海「そうだったね。うん、行く行く。」
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