第94話『やめさせてもらうわ 2』

 エイチフェス2021が終わったら、アイドルを辞めたいと言い出した雨鐘。


銀杏「……なんで?」


雨鐘「せやから……銀杏との落差を感じてるから。歌もダンスも、始めたての頃は2人とも同じくらいの上手さやったのに、銀杏はアイドルの才能を開花させて、どんどんどんどん上に行って、なのに、あたしは歌もダンスも全然上手くならへんくて……せやから……そのせいで、レコーディングも遅れて、今でもレッスン日の方が多くて、エイチフェスに出る他のユニットは、ばんばん歌番組やら、雑誌やらやってんのに、ラフツイだけ、まだ底辺。あたしのせいで。あたしがおらへんかったら、銀杏はもっと上に行ける。……もうこれ以上、銀杏の足、引っ張りたないんよ。」


銀杏「……芸人目指しとった頃の、私の気持ちと一緒。」


雨鐘「えっ……」


銀杏「今はレッスン中だから、レッスン終わったらゆっくり話そ。ダンスの分かんないとこ、教えるからさ。」


雨鐘「……分かった。」


銀杏「すみません、練習中断して。」


ダンス講師「うん……大丈夫なの?レッスン続けられる?」


雨鐘「はい。すみません、やります。」


ダンス講師「ん、じゃあ、とりあえず雨鐘は覚えようか。その時間、15分とるから。」


雨鐘「はい、ありがとうございます。」


銀杏「分からへんとこ、どこ?」


雨鐘「えっと……前奏は分かんねん。で、Aメロは……やるから見とって。違うてたら言うて?」


銀杏「うん、ええよ。」


 レッスン後。ふたりで住む家への帰り道、ふたりは静かに語り合った。


銀杏「今日やったとこ、上手くできとったやん。」


雨鐘「まぁ、今日のはなんとか……」


銀杏「そんなに……苦手意識あるん?歌とか、ダンスに。」


雨鐘「ある。最初は楽しいかもって思うとったけど、あたしは全然うまないことに気づいたら、もう楽しいとは思われへんくなった。」


銀杏「……」


雨鐘「正直に言うて。あたし、歌もダンスも微妙やろ。」


銀杏「……まぁ。音もちゃうことあるし、フリもなかなか覚えられへんしな。」


雨鐘「そうやろ?……それで、相方はどんどんうまなっていったら……自信なくすやん。」


銀杏「その言葉、そっくりそのまま返す。」


雨鐘「……なんで。」


銀杏「芸人としての才能は、雨鐘が全部持ってった。ネタ作っとったのも雨鐘やし、ネタ中におもろいボケができるのも雨鐘。私は一生懸命ツッこむけど、後で動画とか見返したら、間が悪いやら、言葉がちゃうやら、ようあったし。相方が私じゃなきゃ、雨鐘は芸人として、それこそ……上に行けた思うで。」


雨鐘「……そうかもねぇ。」

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