第54話『追懐 7』
翌日。私はカバンにICレコーダーを忍ばせ、家を出た。これから1週間で、証拠を手に入れるのだ。彼女たちはいつもと変わらず私に怒号を浴びせ、
1週間後、
「……どうかな、証拠、集まった?」
「はい。」
千翼先輩にICレコーダーと動画を渡す。
「……」
千翼先輩は黙って音声を聞いたり、動画を見たりした。
「うん。ありがとう。」
千翼先輩はそれだけ言った。そして、私をそっと抱き寄せた。忘れていた「怒」や「哀」が帰ってくる。彼女たちはやっぱり悪人だ。私は酷いことをされている。先輩はそんな私を、可哀想だと思ってくれているんだろうな。可哀想だと思って、私を抱きしめてくれたんだ。溢れそうになる涙を私に見せないように。
「……明日の朝、校長室に行こうね。きっと、すんなり上手くはいかないと思う。もしかしたら……事態は悪化するかもしれない。その時は、ごめんね……私を、恨んで。」
「先輩らしくないです。」
「……ごめん。
この時は気が付かなかったけど、千翼先輩の中には私に対する何かしらの、他の人間とは区別できる感情が芽生えていた。それは分からなかったけど、私はこの時、
「……千翼先輩。」
「あっ、ごめん。スキンシップ、嫌いなんだよね。」
「嫌いじゃないです。……千翼先輩から、抱きしめられるのは、嫌いじゃないです。」
千翼先輩は、はにかんで私の頭を撫でた。
「萌美ちゃんは美人さんだなぁ。芸能人になれそうだね。ふふっ」
それから、お菓子を食べて、ジュースを飲んで、先輩の楽しいお話を聞いていた。幸せだった。何もかもが、私にとっては癒しだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます