第15話『アイドルをやりたい理由 2』

 あやが一人暮らしをしているアパートに帰ると、ドアの前に誰かが座り込んでいた。


綾「え……あ、愛灑あいさちゃん?」


愛灑は瞳に涙を溜め、綾を見上げる。


愛灑「アイドルやりたくない」


綾「え、ち、ちょっと、何があったのよ。」


愛灑「アイドルやりたくないもん」


綾が愛灑を抱き上げる。


綾「とりあえずお家に入って、ほら。風邪引いちゃうよ?」


愛灑「……綾ちゃん……」


綾「うん」


愛灑「私……情けない……?」


綾「……」


愛灑「いっつもこう……逃げるしかないの。」


愛灑をベッドに座らせ、自分も隣に座る綾。


綾「アイドル、やりたくないの?」


愛灑「……うん。」


綾「どうして?」


愛灑「だって……アイドルをやりたいと思ったことなんかないもん……」


綾がそっと愛灑を抱き寄せる。


綾「じゃあ、愛灑ちゃんは何してたいの?」


愛灑「……ゴロゴロしてたい。」


綾「分かるなぁ、それは。」


愛灑「……この前ね、UTOPIAユートピアでパーティーしたの。」


綾「へぇ!」


愛灑「その時ね、私がずーっとダラダラしてても、かおるちゃんも華雪かゆきちゃんも陽菜子ひなこちゃんも、たまによしよししてくれるだけで、何も言わなかったの。」


綾「優しいねぇ」


愛灑「うん、優しい。」


綾「……UTOPIAは好きなんだね。」


愛灑「……うん。アイドルやりたくないのに、みんなのこと好きで……苦しいの。」


綾「……」


愛灑「それに、私、社長にもこれ以上迷惑かけたくないのに……」


愛灑は前に所属していたモデル事務所を追い出されたとき、ラブリーオフィスの社長に拾われた過去がある。


愛灑「……楽しいことだけしてたいの……怒られるのとか嫌なの……」


その時、綾のスマホが鳴った。


綾「薫ちゃんから電話だ。」


綾が電話をスピーカーにする。


薫『もしもし!すみません、愛灑ちゃん見てませんか!?』


華雪『もうずっと電話も出てくれないんです!』


陽菜子『何かあったんだったら、どうしよう……』


綾「……どうする?ここにいるって、言ってもいい?」


愛灑「……」


薫『……綾さん?』


愛灑「み、みんな……ごめん……」


陽菜子『愛灑さん!?』


愛灑「……綾ちゃんのとこにいるよ。」


薫『そう、よかった』


華雪『怪我とかしてないですか?』


愛灑「し、してない……」


薫『愛灑……アイドル、もうやりたくない?』


薫の切なげな声。


愛灑「……っ、うっ……」


愛灑の瞳から大粒の涙が落ちる。


愛灑「やりたくない」


華雪『……』


陽菜子『一瞬も、楽しかった瞬間はないんですか。』


愛灑「……みんなといるのは楽しいよ。みんなのことが好き。だから……」

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