第639話 四属性土偶ちゃんの強化

 ――ここはみやびの亜空間倉庫、宇宙船格納エリア。


 連結黄金船の歪みを修正すべく、一時帰港した形である。どうも原因は長い航海による劣化もあるのだろうが、物理反射した時の爆風が主要因ではなかろうか。それが真戸川センセイの見解であった。

 どうして彼が亜空間倉庫にいるのかと言えば、新たに開発したレールガンの砲身を試してほしいから。もちろんレールガン本体も数本持参しており、プロトタイプではなく小型化された量産試作品だ。


 アンドロメダ共同体の本拠地は判明したが、軍議の前に惑星を肉眼で見たいとみやびは提案していた。よって連結黄金船は提供された航路データを元に、明後日デースト空域にジャンプする予定となっている。現地へ飛ぶ前に船のメンテナンスが出来た事は、正に僥倖ぎょうこうと言えるだろう。


 尚ガリアン星防衛に三回勝利したあと、敵艦隊は奪還に現れなくなっていた。諦めたのか違う手段を模索しているのか、それは分からないからキラー艦隊による警戒は従来通り。


「顔は知ってると思うけど、こちらが姉のパメラ、そして妹のポワレよ」

「よろしくお願いします、パメラです」

「ポワレよ、カウンター席は初めてだから何だか新鮮、よろしくね」


 お茶の時間でみやび亭に移動した首脳陣の面々。そこへフレイアが麻子と香澄に、ゴンゾーラ族の姉妹を紹介していた。まあつまり何と言うかその、紹介である。ターゲットは麻子と香澄で間違いなく、早く六属性を揃えろってことなんだろう。


 一応乗員名簿は作成しているのだが、顔と名前が一致しないエピフォン号の乗員はまだ多い。そこへユンカース率いる士官候補生まで増えたもんだから、しっちゃかめっちゃかとも言う。全員しっかり把握しているのは、アリスだけかも知れない。


「ところでさっき武器庫に行ってたようだけど、何かあったの? みや坊」

「問題が起きたわけじゃないのよ、ファニー。レールガンのでっかい銃弾にコーティングしてたの」

「物理反射かしら」

「ううん、同じ虹色コーティングでも物理反射じゃなくて物理無効。宇宙クジラを参考にやってみたの」


 あっと声を上げたのはファフニールだけじゃない。麻子組と香澄組、アルネ組カエラ組、そして秀一たちも思い出したのだ。二律背反で相手が無効だと反射できず、無効の与えるダメージが通ってしまうことを。


 転じて物理反射は、物理無効が相手だと弱点になってしまう。全ての船と虹色魔法指輪は、反射と無効を切り替え出来るよう改良しますとみやびは宣言した。


「ところでスーパーになれない単一属性の土偶ちゃんに、レールガンを装備させたら、ねえ麻子」

「粒子砲とまではいかなくても、結構な戦力になるわよね、香澄。物理反射を施した艦艇にも、無効の弾丸ならダメージを与えられるわけだし」


 聞き慣れない名前に土偶ちゃんって何ですかと、湯呑みを手に尋ねる真戸川センセイ。あれですと、カエラとローレルがふよふよ浮いてる自分の地属性土偶ちゃんを指差した。新たに錬成したオレイカルコスの砲身をセンセイに提供すべく、生み出したつたで荷造りしているのだ。


 センセイの手から湯呑みが落ちそうに、いや落ちてアリスがすすいとキャッチしていた。湯呑みに書かれた文字は『まだまだ現役』、アリスがセンセイのために用意した湯呑みである。下ろし立てなのに最初で最後にしないで下さいと、ちょいとおかんむりだったりして。


「そうか動かすには相応の魔力が必要なのか、そりゃ残念だ、みやびさん」

「ご家族全員で祈りを捧げたら、多分一日に三十分くらいなら動かせますよ」


 材料を揃えてくれたら錬成しますと提案するみやびに、まるで少年のように瞳を輝かせる科学者がここに一人。職人の手による素材を説明するみやびに、几帳面にも手帳へ万年筆を走らせる真戸川センセイである。


 センセイを蓮沼興産総合研究所に送り届け、メイド達が夕食の仕込みを始めた頃、みやび達は祭壇に集まっていた。亜空間倉庫に預けていた土偶ちゃんを麻子組と香澄組が出しており、みやびが七つの魔方陣を展開していた。

 土偶ちゃんスーパーはキラー艦隊に護衛として貸し出し中だから、まずは麻子組と香澄組でやってみようとなった次第。


 これから四体の土偶ちゃんに改良を施すのだが、その内容は以下の五項目。

 ・今の駆動系を小型の反重力ドライブに置き換える。

 ・反重力ドライブから電力を取り出せる構造に。

 ・レールガンを装着出来るようアタッチメントを追加。

 ・物理反射を無効にチェンジ。

 ・ついでに黄金コーティングもやっちゃう。


 これで地上での動きも俊敏となり、無敵の機動戦士が誕生するわけだ。某アニメみたいにロボット的な形にしようか、そんな話しも出たには出た。でもやはり愛着があるからと、姿形はそのままでって事に落ち着いた栄養科三人組と嫁たちである。


 錬成が無事に終了し、どれどれと起動させる麻子と香澄、そしてレアムールとエアリス。それぞれの土偶ちゃんが目に各属性の光を灯し、ふよふよと浮き上がった。


「生まれ変わった気分だな、赤いの」

「その辺を飛び回ってみたいな、緑の」

「緑に同意、青いのは?」

「もちろん賛成だ、白いの」


 光属性や闇属性じゃないのにしゃべったと、その場にいる全員の目が点になる。みや坊どういうこととファフニールが尋ねるも、当の本人も何が何やら訳わかめ。


「黄金コーティングを施すために、第七属性の魔方陣も出したからですよ、お姉ちゃん。土偶ちゃんの言語中枢に、何かしらの影響を与えたのでしょう」


 アリスの解説に、そう言えばとみやびも思い当たる。通常の錬成ならば、六属性の魔方陣で事足りるからだ。光属性と闇属性は手を加えなくとも、元々言語中枢を持っているのですとアリスは補足する。


「あは、あはは、まずは気を取り直してレールガンを装着、アステロイドベルト小惑星帯に行って試運転しよっかみんな」


 行きましょうと気勢を上げる麻子組と香澄組。

 船の反重力ドライブを起動して座標を定め、ゲートを開く秀一たち。私たちも土偶ちゃんが欲しいねとささやき合ったのを、任侠大精霊さまは聞き逃さなかったようでござんすよ。


 小惑星帯という名は付くものの、大気は存在しないアステロイドベルト。月を粉々に砕いて、欠片を密集させた天体と言えば分かりやすいだろうか。

 収集活動を担うコスモ・ビーにレアメタルを回収させるのも、みやび達はほぼアステロイドベルトで行っていた。

 そう言えば日本の金相場が一グラム一万円を突破したねと、麻子と香澄が苦笑している。亜空間倉庫にどれだけの金塊があるか、二人ともよく知っているからだ。

 地球の金相場に悪影響が出るからと、四菱マテリアルへ売却するのは少量に留め、もっぱら錬成素材に使ってたりして。


「おおう、命中精度が高いね香澄」

「だって麻子、レールガン自体が日本の最新イージスシステム内蔵だもの」


 国産レールガンを自衛隊に配備し、加えてアメリカ軍をはじめとする友好国にも供与したら、弾道ミサイルも巡航ミサイルも怖くないわと二人は頷き合う。共産主義国の核が、ただの粗大ゴミと化す歴史的瞬間となるわけだ。


 数珠繋ぎとなっている弾帯ケースを背負い、ひゃっほうと飛び回り連射する土偶ちゃんたち。もちろん各属性の魔方陣を展開し、属性弾を放つのは従来通り。これは実戦が楽しみだわと、ほくそ笑む麻子組と香澄組であった。


 ――そして夜のみやび亭、アマテラス号支店。


「みやび殿、巫女戦記の第二巻はいつ出るのでしょう」

「執筆中とオルファは話していたけど、気になるの? メライヤ」


 カウンター席にやってきた青い人とスフィンクスが、気になりますと首を縦にブンブン振った。いつになく真剣な顔なので、嫌な予感がした任侠大精霊さま。それ当たりですはい。


「惑星イオナを統一に導いた、みやび殿の戦いっぷりが気になるの」

「面白かったのだー! 早く続きが読みたいのだー!」

「ぐはっ」


 みや坊が吐血しそうな顔になってるよと麻子が、ダメージ大きそうねと香澄が、揃ってへにゃりと笑う。きっと十巻以上になるわよねと、アルネとカエラもへにゃりと笑う。

 これはみや坊、腹をくくった方が良さそうねと、愛妻ファフニールまでによによしてる。自分がモデルだと分かっているから、みやびとしては小っ恥ずかしさが込み上げて来ちゃうのだ。


「私ね、決めたわ、みやび殿」

「何を? メライヤ」

「文章に滲み出る感性が気に入ったの、オルファがいい。勘違いしないでね、続きを読みたいってのは趣味で別の話しだから」


 そうは言ってもメライヤさん、続きを早く書けとオルファの尻を引っ叩きそうだ。 

 大穴キタコレと、キッチンスタッフの手が止まっちゃう。やったわねと、フレイアもゲイワーズも目を細めている。


 あら羨ましいと言いながら麻子と香澄を、チラ見する姉のパメラと妹のポワレ。

 パメラは風属性で、今の麻子にはない。ポワレは火属性で、今の香澄にはない。フレイアはちゃんと見繕って姉妹を紹介したのだ、たぶん次に紹介する人物も属性で準備してるに違いない。


「ちょっとみやびさまに相談があるのだけど」

「どうしたのゲイワーズ、妙に改まって」


 彼はカウンター隅にまだ飯塚とジェシカが来ていない事を確かめると、ため息交じりに升酒を置いた。ファフニールにキッチンメンバーと秀一たちも、どうしたんだろうと耳を傾けている。


「何だか私、飯塚に嫌われてるような気がするのよね」

うぷっみやび

ぶふっ麻子


 香澄は言葉を発することなく、キッチン奥へ引っ込んでしまった。ちょいと呼吸を整えないと、再起動は無理っぽい。

 飯塚は嫌ってるんじゃなくて笑ったら失礼だからと、視界へ入れないようにしてるだけ。栄養科三人組にアルネとカエラも、そこは女の勘でちゃんと気付いている。けれどどうしたもんかと、適切な言葉が見当たらず返答に詰まってしまう。


「あの……ゲイワーズさま」

「何かしらん? アリス」

「飯塚さん後ろにいますよ」


 ゲイワーズに意識を集中してて、みんな気付かなかったのだ。さすがはアリス、店内をくまなくよく見ている。

 油が切れた機械人形が如く、ぎこちない動作でギギギと振り返るマッチョなガチホモお兄さん。そこには風呂上がりでタオルを首から下げ、暖簾をくぐった飯塚とジェシカが立っていたわけでして。

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