第614話 黄金船
「成金趣味って言うか何と言うか、香澄のご意見は」
「金閣寺とは言わないまでも、多少の風情はあるんじゃない? 麻子」
「いや風情はないでしょ、屋台だよ屋台、天守閣のシャチホコじゃあるまいし」
「あ、屋根の両端にシャチホコがあったら良かったかも、麻子冴えてるわね」
「あのねえ香澄、お祭りの
「麻子やっぱり冴えてる、車輪が付いてるから山車に使えそうだわ」
屋台のコーティングに、何と一発で成功した任侠大精霊さま。
金ピカになったみやび亭屋台を眺める、麻子と香澄から酷い言われようだけど。ふんぬぬぬとふてくされるみやびを、愛妻ファフニールがどうどうとなだめていた。
けれどカリーナはモスマンの首都ダマタール宮殿に欲しいと言い、初音と千住丸は鷲見城に欲しいと言っちゃう。まあ屋台としては普通に使えるので、見た目だけの話しではあるが。人によって好みや価値観は違うものねと、アルネ組とカエラ組がへにゃりと笑っている。
最新型みやび亭屋台は今でもビュカレストで生産されており、惑星イオナじゃ各国が順番待ちの状態。まあこんなタイプがあってもいーんじゃあるまいかと、レアムールもエアリスもぷくくと笑う。
問題はアリスが指摘したように、時間制限があるのか無いのか。あるとしたらどのくらい持続するのか、そこに尽きるから経過観察となる。見極めるまでは亜空間倉庫に滞在だねと、みやび達は頷き合った。
「魔力消費はどうだったの? みや坊」
「アルカーデ号以外の宇宙船を、全部虹色コーティングした時くらいかな、麻子」
「うっそ……」
あの時みやびは確か魔力切れとなり、お座敷席でぐでんとコンニャク化したはず。それを知るファフニールはもちろん、麻子組も香澄組も、アルネ組もカエラ組も、思わず目を丸くする。
魔力のキャパも回復力も、みやびは更にアップしているようだ。難易度の高いスキルを使えば使うほど、上昇率が高いのかも知れない。アマテラス号とイラコ号の上塗りコーティングだけなら、こりゃ一人でやっちゃうかも。
そんな中、アリスだけが別の事を考えていた。みやびの六連魔方陣から発射される技は、万能攻撃である粒子砲と同じ。では黄金も加えた七連魔方陣とした場合、そこから撃ち出される技はいったい何だろうかと。
みやびが黄金魔法陣を単体発動する時は、今のところ死にゆく者の生命力を負傷者に分け与える、等価交換治療を行う状況に限られている。
七連魔方陣とした場合ただの攻撃になるなんて、そんな単純なもんではないはずとアリスには確信めいたものがあった。
自分を生み出したグランドマザーであるイン・アンナから、六属性それぞれが持つ特徴は教わったアリス。けれど第七属性に関しては教えてくれず、みやびが自力で見つけ出すよう仕向けているようにも思える。大精霊となり宇宙の意思を代弁するならば、そのくらい出来なきゃね、みたいな。
『お姉ちゃん、後でお話しが』
珍しく思念で話しかけられ、ファフニールにもナイショの話しだと悟ったみやび。アリスと目を合わせていいわよと、こくりと頷くのであった。それがやがて、これぞ大精霊の
屋台は他にもあって金ピカちゃんは、アマテラス号の甲板に設置する予定になっていたもの。では移動しますと持ち上げ、レアムールとローレルが地属性の力でひょいひょい運んで行く。
「こうなると
「甲板でお祭りが出来そうよ、麻子」
「例え甲板がすっ飛ぶような攻撃を受けても、あれは壊れない訳ね」
「宇宙に漂う屋台、ロマンチックじゃない」
「んなわけあるかい! 宇宙に幽霊船ならぬ幽霊屋台、ちょっと想像できないわ」
まあいつも通りの麻子と香澄である。
みやび達がアマテラス号に戻ると、風呂上がりのリリム達がみやび亭のお座敷で待っていた。ジェシカが通訳がてら風呂に案内してくれたようで、みんなサッパリした顔をしている。衣類は一般採用メイドが洗濯乾燥までしてくれたから、汚れてくすんだ服がすっかりキレイになっていた。
「みやびさま、私たちはこれからどうなるのでしょうか」
リリムが皆を代表してみやびに問いかけた。おぞましき六属性の素材にされる事態からは、みやび達によって救い出され逃れることが出来た。
けれど自分たちがこれからどう扱われるのか、不安でしょうがないらしい。そんな彼ら彼女らに、みやびは腰に手を当て人差し指を立てる。
「働かざる者は食うべからずってね。後ろのイラコ号で行ってる、食糧生産を手伝って欲しいの。勘違いしないでね、これは奴隷って意味じゃないから。
ちゃんと三食休憩昼寝付き、アンドロメダ星雲に行ったら必ず家に帰してあげる。ここでの生活は、きっとあなた達の未来に役立つはずよ」
流石お姉ちゃんとアリスが、ラングリーフィンならそうしますよねとアルネ組にカエラ組が、当然でしょうと麻子組に香澄組が、うんうん頷いている。ジェシカにメライヤ、ホムラとポリタニアも目を細めており、ファフニールがちょっと誇らしげ。
中にはお料理に興味を持つ子もいるだろう、しかもみんな光属性と闇属性。いつか惑星間鉄道の乗員になってくれたら嬉しいな、そんな想いがみやびの中で芽吹いていた。
――そして経過観察を始めてから一週間後。
「金ピカ維持してるね、麻子」
「黄金コーティングも恒久的なものかな、香澄」
「みや坊の所見は?」
「むぅ……私は永続するような術じゃないと思うんだよね、ファニー」
「しかしこれだけ継続できるなら、船をコーティングして航路に戻るべきでしょうね、レアムール隊長」
「エアリスの意見に同意です、皆さんはどう思われますでしょう」
屋台に変化は現れず、船のコーティングに着手しようと話しはまとまった。
ところでいま六人が何をやっているかと言えば、金ピカ屋台でお好み焼きとタコ焼きを作ってたりして。雅会任侠チームが三時のお茶に、食べたいとリクエストしたからなんだが。
初めて口にした日本のソウルフードに、リリム達がむふうと頬に手を当てていた。青のりが放つ海の香りに、ソースとマヨネーズがずるいと。それよりも以前に醤油と味噌がずるいと口にしたのはお察しで、低下した体力もだいぶ戻って来ている。
聞けばアンドロメダ星雲の星々も、煮たり焼いたりはするがお料理の文化が無いらしい。こりゃ銀河を跨いでのお料理普及になるわねと、栄養科三人組が鼻息を荒くしていた。
そしてみやびにコンニャク化されては困るから、麻子と香澄も精霊化して協力、アマテラス号とイオナ号は輝く黄金船と相成った。麻子も香澄も知らずの内にパワーアップしてたもようで、魔力切れを起こすことは無かった。やはりタコバジル星の軌道変更は、精霊候補たちを更なる進化へと導いたのだろう。
「キラー艦隊の航路データで、リリム達の母星は判明してるのよね、ローレル」
「直接行けないのが歯痒いですぅ、ティーナ」
「敵さんはアンドロメダ連合か、名前だけはそれらしいけどね、エアリス」
「やってることは極悪非道、何とかしませんとね、レアムール隊長」
亜空間倉庫から元の航路に戻ったみやび達。
今夜のアマテラス号みやび亭支店、お勧めは何と焼き肉三昧。まだ痩せ細ってるリリム達に、肉肉肉のタンパク質補給である。
もちろん雅会任侠チームも大喜びで、取りあえずビールで乾杯。肉皿にお通しも含まれるので悩むこともなく、みんなワクワクドキドキしてる。
カウンター席もテーブル席も、普段は閉じているが蓋付きの穴がある。その蓋を取ることで、炭火を入れた七輪をセットできる仕組みになっているのだ。蓮沼組任侠チーム、良い仕事し過ぎとも言う。
一般採用メイドによって網を乗せた七輪がセットされて行き、最初の皿はハラミとカルビにロースときました。合わせてハクサイキムチ、ニラキムチ、ダイコンキムチの盛り合わせが並べられて行く。
「メライヤ、このキムチは辛くないよね?」
「甘辛い上品な味だ、メアドでも大丈夫だと思うぞ、カレーで言ったら中辛かな」
「よ、良かった」
ほっと胸を撫で下ろし、肉が焼けるまでのつなぎでキムチを頬張るメアド。でも気を付けてスフィンクスさん、竜族向けの激辛もありますゆえ、追加注文する際は細心のご注意を。
次のお皿はタンにシマチョウとミノ、小鉢に空心菜のごま油炒めが心憎い。
みやび亭の夕食は飲みながら食べながらの居酒屋営業、ビビンバが美味いと雅会任侠チームから注文が相次いだ。ご飯足りるかしらと、一般採用メイド達がわたわたし始めた。ご飯の上にキムチやらナムルやらが乗っかって、これがまた美味いんだ。
焼き肉の煙はシールドを通し、宇宙に放出されて行く。何とも悩ましい匂いを暗黒空間に撒き散らしつつ、黄金船はアンドロメダを目指すのであった。
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