第17話 市場へGO! 後編

 食料品の区画へ向かいながら、みやびはとある商品に目を奪われた。まさかこれがあるなんてと、信じられない気分なのだ。


「妙子さん、あれモップよね? こっちは羽ぼうきに見えるんだけど」

「そうよ、私が木工職人や鍛冶職人に依頼して作らせたの。モップは金具の部分で苦労したけど、市民に定着してよかったわ」

「そうなんですぅ。妙子さまのおかげで、お掃除がとても楽になったのですぅ」


 晩餐の席でパラッツォが口にした、妙子のロマニア侯国に対する貢献。それはぶどう酒だけではなく、こういった活動も含まれているのだろう。


「そう言えブラドはスーツで、ローレル達はメイド服でしょ。それもこの市場で手に入るのかしら」

「まさか、私が仕立てたのよ」

「さすが裁縫科!」


 もはや尊敬に値すると感心するみやび。だが彼女には、中々言い出せない案件があった。もちろんそれは妙子の正体についてだ。

 裁縫科が服飾科に改称されたのは、昭和時代の後半だったはず。それがどうして十代の若さなのか。どうやってこの世界に来たのか。加熱能力はどのようにして習得したのか。


「ねえ、妙子さん」

「私のことね」


 なんと妙子、みやびの表情を読み取りすぐに悟ったようだ。そのうち聞いて来るだろうと、構えていたのかも知れない。彼女はそうねと言いながら、みやびに肩を寄せてきた。


「みやびさんがもう一度この世界に来てくれたら、教えてあげてもいいわ」

「もう一度?」

「夏休みとか、長期休暇を利用すれば可能でしょ」


 どんな理由付けをするかが問題だが、出来ないこともない。海外へ料理の武者修行に行くとでも言えば、祖父も父も首を縦に振りそうだ。

 それにみやびとしても、こちらで知り合いがたくさん出来てしまった。せっかく縁を結んだのに、一生の別れとなるのは嫌だった。


「うん、分かった。必ず来るわ」


 なら指切りねと妙子が言い、二人は小指を繋いだ。声を合わせ、お約束の指切りげんまんを口にする。


「おいおい、そちらの世界では約束を違えると針を千本も飲むのか?」

「こ、怖いですぅ」


 そんな訳ないじゃない例えよ例えと、みやびが両手をブンブン振る。そして妙子はと言うと、鈴を鳴らしたようにコロコロ笑っていた。


 食料品の区画に入ってすぐ、露天で商売している少女を怒鳴りつけている男の姿が目に止まった。どうやら揉め事のようだ。


「あの男の人、何を怒っているの?」


 みやびの疑問に答えてくれたのは、意外なことに妙子であった。彼女は男が何を言っているのか分かるらしい。


「あの子は八年前の戦争孤児よ。ロマニア正教会が住む場所を与えて、自立できるよう仕事を斡旋しているの。教会の戦争孤児は市場組合に申請するだけで、場所代は免除されているわ」


 それは良い制度だ。その取り組みに骨を折ったのが、ファフニールなのだと妙子は言う。あんにゃろうもいいとこあるじゃんと、みやびは心の中で拍手を送る。


「でもね、それを快く思わない者もいるわ」

「怒鳴ってる、あの男の人ね」

「万引きのような軽い罪でも、犯罪歴がある者は市場組合に加盟できないの。ここで商売をしたくても出来ないから、戦争孤児に絡んでいるようね」

「それってただの八つ当たりじゃない!」


 その時、男の手が少女のお下げ髪を掴んだ。

 目を吊り上げたみやびが駆け出し、男に盛大な平手打ちをかます。頬を打たれ怒り心頭の男は、みやびに掴みかかろうとした。

 その右腕を取り胸ぐらを掴んでの前回りさばきから、瞬く間の一本背負い。更に男の横っ面を蹴り上げる。


「妙子さんを真似て、袴とブーツにしたのは正解だったわ」


 腰に手を当て仁王立ちのみやびに、男は鼻血を垂らしながら短剣を取り出す。だが、剣が鞘から出ることは無かった。いつの間に抜いたのか、レベッカとローレルの長剣が男に向けられていたからだ。


「髪を掴んだ時点で灸を据えるつもりだったのだが、みやび殿も無茶をする。一瞬の出来事で肝を冷やしたぞ」

「あはは、ごめんごめん。こういうの許せない性分なのよ」


 頭に手をやるみやびに、レベッカは安堵の吐息を漏らす。そしてローレルは、男に何か話しかけていた。彼女の言葉を聞いて、明らかに男の顔色が変わる。


「ローレルは何て言ったのかしら」

「侯国の客人にやいばを向けるのは、君主フュルスティン・ファフニールに刃を向けるのと同義。もし鞘から剣を抜けば、近衛隊としてあなたをこの場で切り捨てる。だそうよ」


 もしかして、あの間延びした口調でそのセリフを言ったのだろうか。それはちょっと、迫力に欠けるような気もするのだが。

 しかし喉元にローレルとレベッカから長剣を突き付けられては、男も諦めるしかないようだ。彼は短剣を地面に放り投げると、その場にひざまずいた。

 抵抗する意思がないと見定めるや、ローレルは綺麗な手さばきで背中に剣を納めた。そしてポケットから、小さな粒を取り出し手のひらに乗せる。

 植物の種に見えたそれは手の上で芽吹き、あっという間に成長して蔓を伸ばした。その蔓が、意思を持つように男をグルグルと縛り上げていく。


「地属性がいると、捕縛が楽で助かるよ」

「レベッカ隊長のお役に立てて、光栄なのですぅ」


 まるで手品を見るような光景に、みやびは目が点になっていた。植物の成長を促し制御する力が、地属性のリンドにはあるのだ。

 遠巻きに見物していた群衆を搔き分けるように、長剣を携えた男達がレベッカに走り寄った。騒ぎを聞いて駆け付けたようだ。

 彼らはビュカレストの市民で編成された、牙と呼ばれる自警組織だとレベッカが教えてくれた。男に灸を据えるのは、牙の仕事になるらしい。


「そう言えば武器を持ち歩いてる人、見かけないわよね」

「自衛目的の短剣所持は市民に認められているが、殺傷能力の高い武器はブラド城伯の許可が必要なんだ。鍛冶職人や武器商人、それから牙はもちろん商隊を護衛する傭兵組合の連中も該当する」

「外からビュカレストに入ってくる人達は?」


 みやびの質問に、レベッカは剣を納めながらカラカラと笑った。


「みやび殿も鋭いところを突く。諸外国の要人といった例外を除き、第二城壁の城門で預かることになっているんだ」


 城郭都市に物騒な物を持ち込ませない仕組みが、ちゃんと出来ているようだ。ならば多少の揉め事が起きても、守備隊と牙で制圧できる。

 牙が男を引っ立てて行くのを見届けたみやびは、しゃがんで少女が扱う商品を手にした。実は男と揉めているのを見た時から、気になっていたのだ。


「妙子さん、これ味見してもいいか聞いてくれない?」


 分かったわと、妙子が少女に話しかける。すると少女は胸の前で手を組み、妙子の通訳にコクコクと頷いた。


「助けてくれたのだから遠慮無く。ですって」


 みやびは手に取ったそれをちょっとだけ囓る。ほうほうと頷き、そして首を傾げる。


「これって、どんな所に需要があるのかしら?」

「みやび殿、それは夜間に働く者が眠気覚ましに使うんだ。リンド族には効果なしだが」

「なるほどね、そういうことか。妙子さん、これホースラディッシュよ」

「みやびさん、それはどんなお料理に使うものなのかしら」

「大根の一種なんだけど、西洋ワサビと呼ばれているの。日本ではワサビの代用品になってるから、ワサビ醤油でお刺身なんて良いと思わない?」


 みやびの誘いに、目をキラキラさせた妙子がブンブンと首を縦に振る。実は彼女の棚に、ワサビは見当たらなかったのだ。ワサビ醤油のお刺身が、ご無沙汰であるのがよく分かる。


「一束銅貨二枚で十束あるから、全部で大銅貨二枚ね」


 懐から革袋を出して銀貨をつまみ上げたみやびの手に、なぜか妙子が手を添えてきた。どうしたのだろうと彼女を見れば、苦笑いしている。


「みやびさん、銀貨を渡してもこの子に払えるお釣りは無いわ。私が両替してあげましょう、両替所だと手数料がかかりますもの」


 ああしまったと、みやびの眉尻が下がる。さすがに釣り銭の持ち合わせまでは、気が回らなかったのだ。

 みやびと妙子が両替している間、ローレルは別のポケットから紙札を取り出し手をかざしていた。するとそこに、アイリスの花模様を象った紋章が浮かび上がる。この紋章が近衛隊のシンボルなのだ。

 紋章が浮かぶ紙札を衛兵に渡せば、守備隊のリンドが魔力照合を行い城内へ入ることが許される。ちなみに城門の衛兵と門番は、牙のメンバーによる交代制だ。

 全てお買い上げの大人買い。

 大銅貨二枚と紙札を受け取った少女は、事態を把握しきれず呆けてしまっている。城に運んでくれるよう重ねて妙子に伝えてもらい、手を振ってみやびは次を目指す。


「それにしてもさっきの大立ち回り、みやびさん柔道の心得がおありなのね」

「あれは柔道のようで違うの。柔道は顔を蹴ったりしないでしょ? 蓮沼流なんだ」


 みやびの名字を冠する流派があることに興味を示し、続きを促す妙子。対してみやびは、何とも言いにくそうな表情で口を開く。


出入りヤクザの抗争の時にね、小柄な人でも戦えるよう体術と剣術を体系化させたものなの。小さい頃から、お爺ちゃんとお父さんに鍛えられてきたから」

「みやびさんのお稽古事って、茶道だけではなかったのね」

「ほう、みやび殿は剣術の心得もあるのか。一度手合わせ願いたいものだな」


 時間が空いたらいつでもお相手しますよと、みやびはレベッカに対しにっこりと笑う。これは剣技にも相当の自信があるのだなと、妙子は目を細めた。


「みやびさんは、ファフニールと似ているわね」

「ええ! どこがよ」


 突然何を言い出すのだろうかと、みやびが目を丸くする。すると妙子はクスクス笑いながら、また肩を寄せてきた。


「幼き者を庇護する性質よ。やり方はまるで違うけれど、根っこは同じでしょ。みやびさんとファフニールは、もしかしたら気が合うのではないかしら」


 そう言われ、みやびは気分が上向きになる。あんにゃろうにみやびさんと呼んでもらいたくて、体がうずうずするのを感じていた。


 穀物を扱う区画に入り、単独で小麦粉があるのを確認。なぜこの世界のパン職人は、小麦と雑穀を混ぜて焼くのだろうか? 謎ではあるが栄養価は高いのでよしとする。

 日本のお米であるジャポニカ米ではないが、長粒種のインディカ米も発見。更に探索すると、なんときび砂糖もあるではないか。問答無用とばかりに、これらを購入するみやび。


「市場にあるということは、ビュカレストの市民もお米を口にしてるのよね。どんな風に食べてるのかしら」

「塩や砂糖を入れて、茹でているわ。そもそも炊くという概念が無いのよ」


 それは味気ないだろうなと、みやびは苦笑する。チーズと油があるのだから、肉や野菜を入れてリゾットにすれば美味しいのにと。


「ところで妙子さん。ぶどう酒を生産してるなら、お酢も作ってたりする?」

「もちろん生産してるわよ、この市場で扱っているわ」

「よかった、卵と油があるならマヨネーズも作りたくて」


 昨日使ったお酢は小瓶だったので、少々心細かったのだ。それは良いわねと頷き、妙子は手配しましょうと言ってくれた。菜種油は照明に使っているからお城にある。


 トマトやタマネギも露天に並び、ケチャップも作れそうだ。ジャガイモといった根菜類も、レタスのような葉野菜も豊富で、野菜の類いに不自由しないのは有り難い。


 野菜を色々と買い付けしている中、私はこれが好きなんだとレベッカが顎をしゃくった。同意を示すように、ローレルもコクリと頷く。

 それはどう見てもハバネロで、上から見ても横から見てもやっぱりハバネロ。触った手で目を擦ると大変なことになるから、顔だけ近付けて確認するみやび。

 ところがヒッと声を上げた妙子に袖を引かれ、その場から引き離されてしまった。どうあっても激辛系統は回避したい、妙子の実力行使が発動。


 ハバネロを好物とするくらいだから、やはりリンド族に辛さの限界は無いのだろう。辛さイコール旨さが、リンド族の味覚なのだとみやびは確信する。


「そう言えば、お魚が見当たらないわね」

「みやび殿、市場には塩漬けした魚しか置いてないんだ。鮮度の良い魚は沿岸守備隊に所属するリンドが、現地の漁師から買い付けて空輸している」


 空輸とはよく言ったもの、つまり竜になって運ぶのだろう。箱詰めした魚を竜が持って飛ぶ姿を想像し、みやびはつい可笑しくなってしまった。


 そして最後に、食肉を扱うテントを訪れる。レベッカ曰く、すぐ近くにと畜場があり鮮度は折り紙付きとのこと。加えてローレルが、一定量の納品を城で契約しており、みやびが購入する必要は無いと補足してくれた。


 だが並ぶ肉を前にして、みやびの表情が徐々に曇っていく。妙子にお願いし、他の部位はどうしているのか聞いてもらった。


「ごめんなさい、みやびさん。ここの売り子さんには分からないみたい」

「レベッカ、と畜場に案内して。近くにあるんでしょ?」

「みやび殿、あそこは婦女子が見学するような場所ではないぞ」


 けれどみやびは、どうしても確かめたいことがあると譲らない。折れたレベッカはと畜場に案内し、責任者を呼んで見学を要請した。

 責任者は珍しいお客さんを一瞥し、エビデンス城守備隊長の話しに耳を傾ける。侯国の客人だとレベッカから説明を受け、案内を引き受けてくれた。


 と畜場の中には川が流れており、解体作業は川の脇で行われていた。その現場を目の当たりにしたみやびは、頭を抱えしゃがみ込んでしまった。


「みやびさん、どうしたの?」

「もしかして、ご気分が悪くなったのではぁ」

「だから止めたのだ。みやび殿、大丈夫か」


 だがみやびは片手をひらひらさせ、問題ないわと告げる。そして膝を抱えると、口惜しそうに川を睨んだ。


「牛タンが、ハツが、ハラミが、シマチョウが、レバーが……」


 売り場には内臓肉が一切見当たらず、どう扱われているのか気がかりで見学を思い立ったのだ。それが目の前で、川にどぼどぼ捨てられ流れ去って行く。

 焼き肉の定番を捨てるなんて罰当たりなこと、許すまじ! みやびは心の中で叫び拳を握り締める。この怒りをどこにぶつければ良いのかと。


 だが思い直し、頭を振って思考回路を開き直す。一時の感情に支配されてキレない為の、みやび流再起動だ。幼い子供が絡むと再起動出来ず、暴走するのはご愛敬。


 動物の肉を食べる習慣は、もちろん日本古来からある。だが一般に広まったのは明治に入ってからで、まして内臓肉料理は戦後に普及したと言っても過言ではない。


 師匠である華板が、仙台の牛タンも甲府の鳥もつ煮も、戦後に考案されたと教えてくれた。料理は盗めと言うくせに、こういったウンチクはなぜか楽しそうに話してくれやがる。

 そんなことを思い出し、みやびはポンと膝を叩いた。食べる習慣が無いのであればかつての日本がそうだったように、内臓肉料理をロマニアに広げてやればいい。

 思い立ったが吉日と、みやびは銀貨を一枚取り出し責任者に差し出した。


「妙子さん、通訳お願い」


 みやびの突飛な行動に驚きつつも、何か考えがあることを察して妙子は頷く。銀貨を向けられた当の責任者は、ポカンと口を開けているが。


「これから私の指定する内臓肉を、お城に運んで欲しいの」


 妙子の通訳に、責任者は銀貨の意味を理解したようだ。何に使うのか知らないが、人件費だけだから銀貨一枚で十日は納品できると返事が来た。


「それでいいわ。価値が分かれば、そうも言っていられなくなると思うけど」


 もちろんみやびの話す言葉は責任者に通じないし、意図を汲み取った妙子も余計なことは通訳しない。ロマニアに料理を広めることが、妙子の望みなのだから。

 みやびは満面の笑みで銀貨を手渡すと、現場で牛・豚・鶏の欲しい内臓肉を、責任者と解体作業員に伝えて行く。

 細かい通訳がなくとも、実際に指先で範囲指定すれば彼らにも分かるようだ。割烹かわせみで仕込みを手がけているのだから、臓物を前にしてもみやびは全く動じない。

 むしろ解体作業員の方が、若い女性の見学と買い付けに驚き、臨時収入に沸いていた。


「さっそく今日から、午前中に届けてもらえる事になったわね。みやびさん、あれを使うのでしょう? お昼は何を作るのかしら」


 エビデンス城へ帰る道すがら、妙子がワクワクした表情でみやびに尋ねた。どんな料理に姿を変えるのかと、期待に胸を膨らませているのが丸わかり。


「お米を炊いてみて、味に問題がなければ焼き肉三昧かな」


 その言葉に妙子の目がキラリンと光る。ワサビの件といい、彼女は和食にそうとう飢えているようだ。


「なあローレル。レアムールとエアリスから聞いたのだが、フュルスティン・ファフニールのご下命で近衛隊が面白いことになってるそうじゃないか」

「そうなんですぅ。みやびさまは美味しい食べ物を創造する錬金術師だと、ティーナも騒いでおりましたぁ」


 二人から何かを期待するような視線を感じ、みやびの頬が引きつる。自分は一介の料理人、錬金術師は勘弁してほしいのだ。

 だがそれは置いといて、みやびは別の思考も巡らせていた。メイド達に教えるだけでは、料理がエビデンス城から外に出ないかも知れないと。

 外交カードという思惑もあるようだが、一般に広めたいのだ。特に内臓肉を捨てている現状は、料理人として看過できない問題である。


「妙子さん、日用品の区画に寄り道してもいいかな」

「構わないけれど、お料理に使えるような道具なんてあったかしら」

「道具じゃなくて、お弁当に使えそうな木箱が欲しいの」


 妙子があらまあと、顔を輝かせた。お弁当という言葉の響きが学生時代を思い起こさせ、彼女の琴線きんせんに触れたのだろう。


「ファフニールとブラドに聞いてみないとだけど、守備隊と城門を守ってる牙の人達に仕出し弁当はどうかと思って」


 まずは市民である、牙のメンバーに料理の存在を知らしめる。料理を教えつつメイド達の手を借りられるなら、それは容易いことだ。


「みやびさん、名案だわ」

「みやび殿、守備隊と牙にも料理とやらを振る舞ってくれるのか?」

「ますます面白いことになってきたのですぅ」


 みやびは知らない。牙のエビデンス城勤務は手当の付く志願制だが、特に人気があると言うわけではない。それが近い将来、勤務枠を巡って仁義なき争奪戦になるということを。

 木工品を扱う区画で、賑やかに品定めをするみやびと妙子。そんな二人に物陰から鋭い視線を向ける、怪しい男達がいた。


「どちらが二宮妙子なんだ? 似たような服装しやがって」

「どっちでもいいさ、最悪は殺しても構わないという依頼だからな。だがリンドの護衛が二人もいては、市場では無理だ。騒ぎになれば牙の連中も集まって来るだろう」

「お頭、それじゃどうするんです?」

「なぁに手はあるさ。お前ら、アジトに戻って計画を練り直すぞ」


 お頭と呼ばれた男を先頭に、彼らは市場から消えて行った。

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