第14話 スコーピオン・キング
昨晩みんなと別れ、寝るために張ってあったテントに一人戻ったところ、何やらガサガサ音がする。
虫か何かが入り込んだか?
そう思って音のした方の荷物をどける。
…硬直した。
見たとたん体が固まった。
虫どころの騒ぎではない。
現れたのは、サソリである。
フンコロガシぐらいの程度に思っていたのに。
向こうもこちらを見つめたまま、ピクリとも動かない。
死んでいるのか、生きているのか。
いや、生きてるだろう。勢いよくガサガサ動く音を聞いたばかりだ。
誰か呼ぼうにも、さっきグッドナイトと言ってみんなもテントに入っている。
寝ているところに助けを求めるほどの度胸もなければ仲もよくない。
気づかなかったフリをして寝るには危険すぎる。
やるか…。
手荷物の中に携帯していた、この旅に出る時に地元のツレ達からもらった10徳ナイフ。
まさか初めて使う用途がサソリと戦うためになるとは、夢にも思わなかった。
ナイフや、缶切りなど数ある種類の中から一番大きな刃を引き出す。
勝負は一瞬だ。
やるかやられるか。
緊張のにらみ合いが続く。
狙いを頭に定め、一瞬の刹那を狙い、全身全霊の力を込め、振りかざした。
「ザクッ!」
見事、硬そうな鎧の皮膚を貫き、ピクリとも動かないサソリを見て勝利を確信した。
しかし、エビぞりのように反りあがった毒をもつであろう尾が、ナイフを持つ私の手に今にも届きそうな状態は、体中から冷や汗をかかざるを得なかった。
そんなこんなでサソリとの勝負に勝利し、安眠を勝ち取った私は、翌朝ナイフに刺さったままのサソリをおはようのあいさつ代わりにみんなに見せる。
「おぉ…!」
みんなからは驚きと感嘆の声。
誰かが勝利をたたえるとともに、私をスコーピオン・キングと命名してくれた。
朝食の後はカカドゥ国立公園のジムジムフォールズや、ツインフォールズなどのメインスポットを目指す工程に。
久しぶりに歩く本格的な山道はかなりつらい。
途中汗だくになった体をシャワー代わりに川で泳いでリラックスしながら先を目指す。
そしてツインフォールズへ向かうボートの前で、ツアーメンバーであるフランスの女性たちがなにやらもめている。
どうやらツアー代に含まれていると思っていたボート代が別料金なことに腹を立てて猛抗議しているようだ。
しばらくの押し問答の後、結局は払わざるを得なかったようだが、自分の意見をあのようにはっきりと物申す感性は日本人はなかなか持ち合わせていない。
少なくとも、私はあれほど自己主張ができない。
パースのカイトくんのやり取りを思い出した。
季節は乾季の今、ツインフォールズ名物の滝は水量が少なく、ガイドブックに載るような景色ではなかった。
それでもすごい景色に圧倒された。
手つかずの自然が残るオーストラリアの濃い部分が反映されたような、大自然。
改めて感動した。
夜は今日も野営で、夕食はTボーンステーキ。
うまい。
しかし、英語の壁は相変わらず高く、みんなの輪に入ることを躊躇させる。
せめてアルコールでもあれば、少しは潤滑油になったのに。
出発前に、酒代はケチった。
そのため、潤滑油すら心もとない。
逆に酔っぱらってきたドイツ人のマークスがやたらと話してきてくれた。
しかし、ほぼ何を言ってるのかわからず、話も長い。
シラフの人が酔っ払いの話を聞くツラい気持ちがよく分かった。
みんなも疲れていたのか、今日は昨日より早く就寝。
サソリが出ないことを祈りつつ、テントに入る。
見上げた空は、今晩も満点の星空だった。
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