スージィヴェルノー

エリー.ファー

スージィヴェルノー

 扇風機を使って殺すタイプの殺し屋なんていないだろう、と思った。

 殺し屋というのはまず、何よりも先に、個性が重要なのだ。

 何故なら仕事が来ないから。

 名前を覚えてもらって仕事が来るというのが普通だ。

 仕事の精度なんて、正直殺してくればいいだけの話なので余り関係はない。殺し屋の中でもその精度というのをウリにして仕事ができるのはほんの一握りしかいない。

 その他大勢の中にいるのであれば、まずは悪目立ちでもいいので注目されることは何よりも優先されるのだ。

「で、扇風機で人を殺すのってどう思う」

「馬鹿だと思う」

「馬鹿ってことはないだろう」

「いや、馬鹿だろ。どうやって殺すんだよ。冷静に考えれば分かることだろう。それくらい」

「この扇風機を改造して高速にして、日本刀をつけて近づける」

「日本刀で殺せよ」

「それだと個性が出ないだろ」

「個性で人を殺せると思うなよ」

「殺すのが目的じゃないんだよ」

「じゃあ、殺し屋やめちまえよ」

「違うんだって。いいか、今や殺し屋なんて誰もがやってる仕事だ。殺し屋を殺し屋が殺すように殺し屋に依頼されるなんてよくある話だろ。ということは、個性が重要なんだよ」

「個性の前にまともに仕事ができるかどうかだと思うけどな」

「まともに仕事ができるの定義が怪しいだろ」

「正確には、まともそう、という部分についてだけどな」

「まともそうだろ」

「扇風機に日本刀をつけて、高速で回して殺しますって依頼主に説明してみろ。逆にふざけてるのかって殺されるぞ」

「その時は、依頼主を殺すよ」

「殺せるのかよ」

「大丈夫だろ。扇風機で殺すような殺し屋に依頼するようなヤツだからな、絶対に俺でも殺せる」

「じゃあ、いいよもう」

「ただなあ」

「なんだよ」

「扇風機で本当に人って殺せるのかな」

「疑うなら諦めろって。凄いな、お前の馬鹿さ加減って」

「慎重なんだよ」

「扇風機で人を殺そうとするくせにか」

「実力だけじゃ売れないと思って、戦略をたてるくらいに真面目で慎重ってことだよ」

「お前、ちょくちょくそれっぽく反論してくるよな」

「どうしたら仕事が来るのか分かったもんじゃねぇなあ」

 それから数日が経過し、扇風機を使って八人ほど殺した。

 意外とうまくできたので、自分でも驚いたほどだ。

「扇風機で人って殺せるんだな」

「凄いな、お前」

「いや、俺もびっくりだよ。新しい仕事も来てるし、正直万々歳だ」

「依頼料とかは上げたのか」

「いやいや、上げる気にならなくて。もしかしたらそれで仕事が来なくなるかもしれないし」

「そんなことないだろう。というか、むしろ今が稼ぎ時なんじゃないのか。そういうのは特に話題性で勝負するタイプだから、稼げるときに稼いでおかないと後がきついぞ」

「それは、そうかもしれないな」

「マネージャーとか雇った方がいいんじゃないのか」

「確かに、そうかもしれない」

 そのうち、殺し屋を管理する側になり、最終的には、扇風機と殺し屋、という題名で自己啓発書を出版することになった。サイン会

もやったし、テレビにも出て半生についても語った。

 もう、殺しはしていない。

「扇風機で人を殺す。何故そんなアイディアを思いついたのでしょうか」

「本来、殺しに使われるべきではない道具であることから」

 言えない。思いつきだなんて言えない。

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