118話 たのしい王様ゲーム

 ~王様ゲーム2戦目~



「「「「「「せーの、王様だーれだ!」」」」」」



『王様:立花マコ

 命令:5番が尻文字で自分の名前を書く

 5番:音瀬小絃』



「(ふりふりふり)…………マコ師匠、恨みますよ。つーか普通こういうちょいエロ系(?)って徐々にエスカレートしていってからやるものでは……?初っぱなから飛ばし過ぎだと思うんですがね……?」

「す、すまん我が弟子……どうしてもコマにやって貰いたくてワンチャン賭けてみた……」

「あら。別に姉さまが望まれるのであれば、尻文字だろうがなんだろうがどんな命令でも聞きますのに私。なんならスカートも下着も脱いでやってあげても良いんですよ♡」

「ぶわっはっはっはっ!!!こ、小絃……あんたサイコーよ!あんたのその間抜けな格好……もといあんたの勇姿はちゃんとこのカメラで永久保存しておいてやるから安心しなさい!」

「ぶちのめすぞアホあや子ォ……!つか、撮るな貴様ァ……!」

「ハァ……ハァ……ッ!こ、こここ……小絃お姉ちゃん……!ああ……そんなに淫らにお尻を振るなんて……それは誘ってるの……!?誘っているんだよね私を……!?フーッ、フーッ!!!こっ、これは……応えなきゃ逆に失礼ってやつだよね……ッ!?」

「こ、琴ちゃん落ち着いて……!?だ、ダメだよあくまでゲームなんだしお触り禁止…………あ、ダメ力強い止めらんない……!?こ、小絃さん逃げてぇ……!?」



 ~王様ゲーム3戦目~



「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」



『王様:伊瀬あや子

 命令:2番がふりっふりロリィタ衣装を着てセクシーポーズ

 2番:音羽琴』



「…………あや子ちゃん。もしかしなくても私を狙い撃ちしようとしたでしょ」

「……な、何の事かしら紬希。私にはさっぱり……」

「まあ、私に当たらなかったから良いけどね。それに……今回ばかりはある意味ファインプレーだったみたいだし。良い事したねあや子ちゃん」

「ん?それってどういう……」

「…………あや子」

「うぉ!?な、なによ小絃……?もしかして『琴ちゃんになんて命令してるんだ』ってキレてるわけ?罰ゲームなんだしこれくらいは別に——」

「今、この時だけは……お前を真の友と認めよう……!ありがとう、我が心の友よ……!」

「は……?」

「あ、あはは……ど、どうかなお姉ちゃん?さ、流石にちょっとこの歳でふりふりは引いちゃう?歳考えろって感じ?」

「可愛いとエロいが絶妙にマッチングしてて、大好物です……!琴ちゃんエロ可愛い……!も、もっとポーズお願いします……!目線こっちに……!しゃ、写真撮っても良いですか……!?」

「コイコイ……興奮しすぎてコトたんに敬語使ってるよ」

「ふふっ……まるでアイドルとその追っかけみたいですね」



 ~王様ゲーム4戦目~



「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」



『王様:音瀬小絃

 命令:3番と4番が好きな人の好きなところを挙げる

 3番・4番:立花コマ・音羽琴』



「そうだね。一言では表現できないけど、敢えて挙げるならやっぱり私のために文字通り命をかけても守ってくれるところとかかな。それは勿論身体だけじゃなく私の心も守ってくれるところが本当に素敵で……今も昔も変わらないそのどこまでも優しいところも好き。私が辛い時悲しい時を誰よりも早く察知して、ほっとするようないつもの笑顔を私に向けてくれて、私を慈しんであたたかく抱きしめてくれるところとかも……大好き。小絃お姉ちゃんのなにもかもが私好きなの。ああ、そうそう。抱きしめると言えばその柔らかい抱擁を生み出すお姉ちゃんの身体も勿論最高で——」

「姉さまのどこが好きか……ですか。難しいですね、端的に述べるのは。姉さまの全てが好き……と言うと安っぽく聞こえるでしょうが本当に全てが好きなんですよ。幼い頃から一緒にいてくれて。姉として常に妹の私を大事にしてくれて。私にとって姉さまは私のピンチには必ず助けに来て下さる最高のヒーローで。それでいていつもは誰よりも愛らしい私の最カワなヒロインで。とにかくマコ姉さまの全てが好きなんです。純粋無垢なその心も、私を惑わす魅惑のその身体も……あらゆるものが輝いていて見えて——」

「…………ねえ、アホ小絃……あんたなんて命令をしやがったのよ。一体いつ終わるのよこの好きな人自慢大会……かれこれ30分は語りまくってるわよあの二人……」

「そりゃこっちが聞きたいわ……!?う、うぅぅ……な、なんで命令出した王様である私の方が恥ずかしい思いをしなきゃいけなくなるんだ……寧ろこっちが罰ゲーム受けてる気分なんだが……!?」

「この誰も彼もが愛が重い面子で不用意にそんな命令を出すコイコイが悪い。…………ぐぅ……いつもの事ではあるけれど、他の皆がいる前でこれは……つらい……恥ずかしぬ……」

「こ、琴ちゃんもコマ先生も愛が凄い……こ、これは私も見習わなくちゃ……!」



 ◇ ◇ ◇



 ——と、まあこんな感じで。最初のうちはワイワイと王様ゲームを楽しんだ私たち。始まる前まではなんでまた突然王様ゲームなんて始めたんだと内心思っていたけれど。いざ始まってみれば、アホっぽいやつからちょいエロなやつ。はたまた恥ずかしい系の罰ゲームで、参加している全員が盛り上がっていた。

 未だにあや子とマコ師匠はギクシャクしている感はあるけれど、王様ゲームのお陰でファーストコンタクトの際の嫌な雰囲気はちょっとずつ払拭されつつある感じだ。変に拗れないかと少し不安だったけど結果的にはよかったかもしれないね。


「——あら、今度も私が王様ですか。それでは命令です。1番と4番がお互いに爪を切り合ってくださいな」

「「……うっ」」

「ふふふ……1番がマコさん、4番があや子さんですね。爪切りならちゃんと用意していますので頑張って下さい♪」

「(…………また王様がコマさん……?おまけに罰ゲームの対象がマコ師匠とあや子だと……?)」


 ……なんて、脳天気に考えていた私だったんだけど。5戦目以降から流れが……空気が突如変わった。

 5,7戦目が琴ちゃんで、6,8戦目はコマさんが王様を立て続けに引き当てる。あんまり確率とかそういう難しい話は頭の悪い私にはよくわからないけれど……こんなに王様の比率が偏るなんておかしくないか……?

 そして更にいうなら王様の命令も何かおかしい。


『4番(マコ師匠)と5番(あや子)が1分間見つめ合う』

『1番(琴ちゃん)が5番(私)の胸を揉む』

『2番(あや子)と3番(マコ師匠)がツイスターゲーム』

『4番(私)が王様(琴ちゃん)に投げキッスしながら愛の告白(※気持ちを込めて♡)』


 ——と、いった具合に。王様が命じるのは私・あや子・マコ師匠がピンポイントで困るような命令ばかり。


「あ、あの……コマ?何と言うか……その。ごめん疑ってるわけじゃないけど……この王様ゲームって……」

「姉さま、ほら早く準備なさってくださいな。王様の命令は絶対ですよ」

「あ、うん……わ、わかった……」

「ね、ねえ琴ちゃん?なんかさ、気のせいだったら悪いんだけど……さっきからあんたら……示し合わせたように命令を……」

「ふふ、あや子さんも準備してくださいね。はい、爪切りどうぞ」

「……わ、わかったわよ琴ちゃん。……あー、立花さん。爪切っていいですか?」

「う、うん……」



 パチン……パチン……



「「…………」」

「うわぁ……なにこのシュールな光景……」

「あや子ちゃん良いなぁ……立花先生に爪切って貰えるなんて……ファンがどれだけお金を積んでも出来るような事じゃないのにいいなぁ……」

「ふふふ、これでまた一つお二人は仲良くなれましたね」

「ですです。マコさんとあや子さんが仲良しになれて友人として本当に嬉しい限り」


 事ここに至り流石にマコ師匠もあや子もこの王様ゲームの異質さに気づいている様子。ただ確たる証拠がないせいで、琴ちゃんとコマさんに強く指摘できないでいるみたいだ。


「さ、次々行きましょう。せーの」


「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」


「あ、王様私だ。んーと……よし。なら命令するね。3番が1番に壁ドンしてね」

「3番は私ですね。1番はどなたでしょう?」

「い、1番……わ、私ですコマ先生……」

「お相手は紬希さまでしたか。ふふふ……宜しくお願いしますね」

「わ、私の紬希に壁ドンですって……!?」

「こ、コマが……紬希ちゃんに壁ドン……!?」

「(また琴ちゃんが王様……)」


 9戦目。やはりというべきか王様を引いたのは琴ちゃんだった。おまけにコマさんが紬希さんに壁ドンという命令を与えてきた。


「あ、あの……あの……!コマ先生……わ、私……マコ先生も尊敬していますが……実はその……こ、コマ先生の事も凄く尊敬してて……せ、先生がお書きになった本……私の愛読書で……そ、そんな先生に壁ドンして貰えるなんて……ど、どうにかなっちゃいそうで……!」

「あら……♪嬉しい事言ってくださいますね。ふふ、そう緊張なさらないで。ちゃんと私が……リードしますから」

「は、はひ……」

「「(ギリィ)…………ッ!!」」

「(おおぅ……あの二人凄い顔になっとる……)」


 イケメン女子であるコマさんに壁ドンされ、紬希さんは恋する乙女のようにポッと頬を染めてアタフタしている。そしてそんなかっこいいコマさんと可愛らしい紬希さんの反応を、血が出るほど歯ぎしりしながら羨望の目で見つめるマコ師匠とあや子の二人。

 …………やっぱりこの王様ゲーム、明らかにおかしい。なんでこんなにさっきから狙い澄ましたように……師匠やあや子、ついでに私にだけダメージが入る罰ゲームばっかりチョイスされてるんだ……?


「(マコ師匠、ついでにあや子……ちょっといい?)」

「(……作戦会議だねコイコイ。OKだ)」

「(……私も行くわ)」


 3人でアイコンタクトを飛ばして頷き合う。いつも殴り合ってる私とあや子、妙に気が合わないマコ師匠とあや子。お互いに思うところはあるけれど……今はいがみ合っている場合じゃない。このままじゃあの二人に嬲られっぱなしだ。


「あー楽しかった♪さてさて。それじゃあ記念すべき10戦目に行きましょうか——」

「あ、ちょっと待った琴ちゃん!ごめん、良いところで悪いんだけどちょっとお姉ちゃん喉渇いちゃった。飲み物取ってきても良いかな?」

「ああ、それなら私も行くよコイコイ。ちょっと休憩入れようか」

「なら私も行こうかしら。紬希、悪いけどちょっと席外すわね」


 タイミングを合わせ10戦目が始まる前に席を立つ私たち。さあ、作戦会議の始まりだ。



 ◇ ◇ ◇



「——で、どう思う?」


 琴ちゃんやコマさんたちから離れ、キッチンでコソコソと作戦会議を始める。


「どうもこうもないでしょ小絃。確率的に普通にやってたら王様があんなに偏るハズないわ。おまけにあんなに露骨に私たちを狙っているとしか思えない罰ゲームの内容を考えると……」

「信じたくはないけれど……十中八九イカサマしてるんだろうね。コマ……お姉ちゃんは悲しいわ……そんな悪い子じゃないはずなのに何でこんな事を……」


 全員の意見は一致した。マコ師匠同様、私も信じたくはないんだけど……琴ちゃんとコマさん、理由はわからないけどあの二人は何かしらの方法でイカサマしているみたいだ。琴ちゃん……素直で良い子なキミがどうして……


「理由はどうでもいいわ。問題は……どうやってイカサマしているのかよ。あの二人はどうやってピンポイントに王様のくじを引けるの?王様のくじだけじゃないわ。あの罰ゲームだって……全てのくじの番号を把握していないと指定なんて出来るハズないでしょ」

「そこが私もわかんないんだよね……」


 あや子の言うとおり、明らかに琴ちゃんとコマさんは王様を含む全てのくじを引く前に把握しているとしか思えない。けど……だったらどうやってそれがわかるんだ……?

 考えられる可能性は、くじに何らかの細工をしたとかだけど……割り箸で作ったあのくじを作ったのは他でもない私とあや子だ。だからくじ自体に細工するのはほぼ不可能。ならばくじを引く前に自分たちに都合のいいくじにすり替えた?いいや、引く時も特におかしな仕草とかは見受けられなかったし、なにより引いたくじの番号は私の字だったからすり替えもあり得ない。


 ……だったら……どうやって……?


「…………恐らく、の域を出ないんだけど」


 と、しばらく無言で何かを考えていたマコ師匠が不意にそう呟き始める。


「立花さん、何かわかったんです?」

「あくまで推測だけどね。……ねえ二人とも。あのくじってさ、割り箸で作ったくじだったでしょ。割り箸を割って、その先端に番号を振っていたよね」

「え、ええ。それがどうかしましたか師匠?」

「あの二人さ。もしかしたら……、全てのくじを見分けているんじゃないかなーって思ったんだけど……」

「「…………は?」」


 割り箸の、割れ方で……?


「い、いやいや師匠……あり得ないでしょ。そりゃ確かに不器用なあや子が割った割り箸でしたし、多少歪な割れ方をしていた感は否めませんけど……そ、それだけで判別出来るはずは……」

「そ、そうですよ。小絃が下手くそに割ったせいで綺麗には割れていませんでしたが、パッと見ただけではどれも一緒にしか見えませんでしたし……」


 いくらなんでもそれはないだろうとあや子と一緒に乾いた笑いを溢すけど、師匠は真剣な顔で首を振りこう続ける。


「コトたんがどうかはわからないけど……少なくともうちのコマならそれくらいやっても不思議じゃないよ。何せ恐ろしく記憶力良いからね。ほんのわずかな欠け具合、ほんのわずかなささくれの出来具合で……くじの種類を判断しているとしたら……」

「「…………」」


 師匠の推察に青ざめる私たち。あ、あり得る……普通にあり得る……というかそれしかない。記憶力抜群な琴ちゃんなら一つ一つの割り箸の特徴を瞬時に記憶することくらい朝飯前だろう。


「そ、そう考えると全ての辻褄が合うよね。あの二人が4戦目までは普通に王様ゲームをやってた理由もわかったかも……」

「そ、そうね……立花さんの考察が合っていたとしたら。全てのくじの番号が出そろう4戦目まで息を潜めていたって事になるわね……」


 王様のくじ、そして1番から5番までのくじが全て場に出たのは4戦目。だから5戦目以降から琴ちゃん&コマさん無双が始まったって事か。……わずかな違いを見極め、そして全てのくじを記憶するなんて……末恐ろしい妹たちもいたもんだ。


「さて……琴ちゃんたちのやり口も分かったところでだ……これからどうする?」

「どうするって……どうしようもなくない?このイカサマの恐ろしいところって、細工しているワケじゃないから……イカサマを指摘したところでしらを切られて終わるわよね」


 あや子の言うとおりだ。仮にあの二人を問い詰めて全てのくじを覚えているって認めさせても『だったら皆さんもくじの特徴を覚えれば良いだけ』とか開き直られたら私たちに為す術はないわけで。対抗しようにも対抗しようがないのである。


「こっちが対抗するには一度くじを作り直してこのゲームを白紙に戻すのが1番なんだけど……」

「作り直す正当な口実がないと厳しいかもね。『どうしてわざわざ作り直すのですか?』『もしや私たちを疑っているのですか?』って二人に泣き落とされたらそれで終わるわよ」

「だよねぇ……」


 あや子と二人ため息を吐く私。そんな中マコ師匠は決意に満ちた目でこう告げる。


「…………任せろコイコイ、そして伊瀬さん。私に考えがある」

「師匠……?」

「立花さん……?」

「簡単な話さ。向こうが搦め手を使ってくるなら……こっちは力業でいこう」

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