目覚めると私を慕うロリっ娘が、超絶タイプな大人の女性になっていました

みょんみょん

プロローグ

序章 それは突然の出来事

「―――コイトお姉ちゃん、はやく!はやくいこっ!」


 ギラギラと太陽がまぶしく輝くある夏の日。そんな太陽に負けじと、キラキラと輝く笑顔を振りまいて元気いっぱいに駆け出す可愛い女の子は……私の従姉妹の音羽おとはことちゃん。


「あはは、琴ちゃん。待ってよー」


 私、音瀬おとせ小絃こいとは、そんな可愛い妹分に手を引かれ。苦笑いをしながら彼女について行く。


「琴ちゃん琴ちゃん。そんなに急がなくてもお店は逃げないよ?」

「だって!だって!かわいいお洋服がなくなっちゃうかもしれないもん!急がなきゃ!」

「あらー、そりゃ大変だ。なら急がなきゃいけないねー」


 小さな手足を一生懸命上下に動かして、身振り手振りで私に急ぐ理由を教えてくれる琴ちゃん。見ているだけで微笑ましい。


「あ、でもあんまり急ぐと転んじゃうから、お姉ちゃんと一緒に気をつけて行こうね」

「はーい!」


 うんうん、素直な良い子で大変よろしい。琴ちゃんは私と8歳も年が離れた従姉妹だ。家も近いって事もあって、多忙な母や琴ちゃんのお父さんお母さんに頼まれてよく面倒を見させて貰っている。休日になるとこうして一緒にお出かけしたりお家で遊んだり。赤ん坊の頃から一緒にいるから、近所のお姉さん――というよりもホントの姉妹みたいな関係といってもいいかも。


「えへへー、楽しみにしててねコイトお姉ちゃん!かわいいお洋服着て、お姉ちゃんを今日こそノーサツしちゃうんだから!」

「ふふ、悩殺しちゃうんだ?」

「うん!ノーサツする!かわいくなって、お姉ちゃんにどきどきしてもらって!それで、琴はお姉ちゃんのおよめさんになるんだ!」

「おー、それはお姉ちゃんも楽しみだなぁ」


 私にじゃれつきながら、琴ちゃんは鼻息荒くそう言ってくる。最近はちょっぴりおませさんになってきて、しかもお洒落に目覚めたようで。お小遣いを貯めては私を連れてファッションショップへお洋服を買いに行くのが彼女のブームらしい。ほんと、可愛いなぁ琴ちゃんは。

 ふふっ……それにしても、お嫁さんかぁ。信号待ちをしながらチラリと私は琴ちゃんの姿をこっそりのぞき見る。腰まで伸びた綺麗な黒い髪。まん丸でくりくりしていて澄んだ瞳。幼いながらもお人形さんみたいに整った顔立ち。


「(琴ちゃんのお父さんもお母さんも綺麗な人だし……絶対綺麗になるだろうなぁ)」


 しみじみそう思う。琴ちゃんのお父さんはどこぞの俳優かと思うくらいメチャクチャイケメンさんだし。お母さんは人気の女優さんかって思うくらいスタイル良い美人さん。琴ちゃん自体はまだまだ発展途上というか……女性らしい起伏とかはまだまだみたいだけど。あのご両親の娘さんな訳だし将来性抜群だろう。

 ……琴ちゃんが成長したら、あのお母さんみたいになるんだろうなと思うと……今から楽しみすぎる。大きな声じゃ言えないけど、琴ちゃんママ……すっごい私のタイプだし。すらりと長い手足に、ボインバインと豊満な胸&尻。白い肌に凜々しい瞳――あんな風に琴ちゃんが成長したら、冗談じゃなくマジでヤバいって……琴ちゃんの言うとおり悩殺されちゃうわ。うへへへへ……


「???お姉ちゃんどうかした?琴の顔になにか付いてる?」


 っと……いかんいかん。可愛い妹分を変な目で見るんじゃないよ私。舐めるようにやらしい目で見続けていたのを気づかれて、何でも無いよと琴ちゃんに返しつつ思う。そのうち大きくなって反抗期が来て。お姉ちゃんのことも邪険にされちゃうんだろうなぁ……今はこんな風に私の事を懐いて慕ってくれてるけど、今だけなんだろうなぁ……

 まあ、それならそれで仕方ない。姉離れが来るときまで、私は全力でお姉ちゃんとして琴ちゃんを可愛がるだけさ。


「…………ん?何だあれ?」


 ――なんて事を考えてながら琴ちゃんから視線をあげたまさにその時。私の目に右方向からおかしな挙動をしている車が映る。

 酔ってんのかって思うくらいふらりふらりと右に左に蛇行運転。そして遠目からでもわかる猛スピード。すでに信号の色は赤になっているというのに、一向に減速する気配がない。お、おいおい……これ危なくないか……?


「お姉ちゃん、青になった!」

「あ、待っ……!」


 そんな車に気づかずに、目の前の信号機が青になったからと……一歩前に踏み出す琴ちゃん。私は……直感的に、ヤバいと察する。


「琴ちゃんっ!」

「ふぇ……?」


 爆弾でも爆発したような……そんなけたたましい嫌な衝撃音と同時に。ふわり、と華奢な彼女の身体が浮く。琴ちゃんは……何が何やらわからない顔で――横断歩道の手前で、愛らしく尻餅をついていた。


「(よ……かった、まに……あった……)」


 暴走車と琴ちゃんの身体が重なりかけたその刹那。私は咄嗟に琴ちゃんの腕を掴み、そして自分と身体の位置を入れ替えるように……思い切り、半ば投げ飛ばす勢いで琴ちゃんを引っ張った。

 ちょっぴり強引に引っ張ったけれど……どうやらぱっと見た感じ怪我らしい怪我はないようだ。


「コイト……おねえちゃ……?」

「ぁ……ぐ……」


 …………琴ちゃんが無事なのに心から安堵しながらも。そんな私は地べたに這いつくばり。つま先からてっぺんまでほとばしる今まで体験した事のない身をもだえる激痛に、声もまともに出せないでいた。

 ……しくった……咄嗟だったから、琴ちゃん投げ飛ばすので精一杯だった。あー……ちくしょ……いったいなぁ……もう……


「お、ねえちゃん……お姉ちゃん!コイトお姉ちゃん……!?いや、なにこれ……いや、いや……いやぁああああああああああ!?!!?」


 今まで聞いた事もないような、琴ちゃんの錯乱した声が聞こえてくる。慌てて駆け寄り、私にすがり付いて悲鳴をあげる。……はは、だめだよ琴ちゃん。汚いよ?今の私に抱きついたら、綺麗なお洋服が血で汚れちゃうよ?

 そんな軽口もうまく出てこない。目の前が真っ暗になってゆく。これは……うん、もうだめかもしれない……


「こと、ちゃ……びっくり、させて……ごめんね……」


 少しでも琴ちゃんが気に病まぬようにと、なけなしの気力を振り絞り。息も絶え絶えにそれでも笑いながら言ってみる。……上手く笑えたかしら私?不細工が、さらに不細工に映ってないかしら?

 意識が遠のく、その刹那。最後に見た光景は大好きなあの子が泣きじゃくる姿。……あーあ。泣かせちゃったなぁ……本当に、ごめんね。驚かせちゃって。そして……ごめん。お姉ちゃん……一緒に琴ちゃんのお洋服、買いに行けそうにないや……


 そんな悔いを残しながらも、そのまま私の意識は闇の中へと沈んでいった。

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