第211話 事の顛末

 結局、船に乗り移った憲兵隊とナイツによって、騎士はあっという間に捕らえられてしまった。

 実戦で鳴らした騎士も、多勢に無勢。

 普通、三人以上に一度に飛びかかられたら、人間は勝てないものなのだ。


「俺も十人くらいいたら危ないですな」


「ナイツはちょっとおかしいからねえ」


 そんな話をしつつ、甲板に転がされた三人の騎士を見る。


 シーディアスは、怒りに満ちた目をしていた。


「どうして兄を殺した!」


「お前、騎士爵の息子か……!? もうひとりいたのか……。見せしめのつもりだった……! 将軍も騎士爵も、アウシュニヤ王国に財宝を戻そうなんて言ったんだ。だが、俺らはあいつらがちょっとずつ財宝を山分けして、本国に送ってたのを見た」


「いいことをしているように見せて、てめえらだけ甘い汁を吸いやがって……!」


 どうやら、妬みから来る話だったようだ。

 モーダイン将軍は殺されたわけではなく、アウシュニヤの風土病に掛かって亡くなったらしい。

 ジョルト騎士爵は、将軍の死後に財宝をなぜかアウシュニヤに返さず、アルマース帝国まで持ってきていたのだと言う。


「ジョルト騎士爵はどうしてそんなことを……?」


 イーサーが首を傾げた。

 確かに不思議だ。

 モーダイン将軍といた時は、財宝をアウシュニヤに返そうと考えていたんでしょ?


 ちょっとは着服したみたいだけど。


「父はまあまあ欲深かったので、一人になったら急にもったいなくなったんだと思います。それでこちらに持ち帰ってきた……。ま、まさかお前たち、父まで……!」


「違う! 騎士爵をやってはいない!」


「そうだそうだ! あの男は財宝を持ち出してバザールに入り浸っていて……」


「あいつが隠れ家に戻ってくるときに、息子が殺されているのを見せつけようと思ってやったんだ!」


 ……ということらしい。


「えっ? つまりジョルト騎士爵は普通に生きてるの?」


「そうなりますわねえ。わたくしたち、騎士爵をアルマース帝国に置いてきてしまいましたわね!」


 なんということだろう。

 あの場でちょっと待ってたら、事件の渦中にある人物が現れたかも知れなかったとは。


 シーディアスも、アルマース帝国に騎士爵いたことは知らなかったらしい。


「遊び歩いてたのか、あの人は……」


 と頭を抱えている。

 なんとなく気持ちは分かる。


 後日、のこのこと王都にやって来たジョルト騎士爵は捕らえられ、憲兵や国のお偉方から色々な尋問を受けることになったのだが、自業自得ではある。


 さて、事件は解決してしまったわけだけれど……。


 翌日の我が家の居間にて、イーサーとシャーロットとお茶をした。

 というのも、オーシレイがイーサーに用があると言うのだ。


 多忙を押してやって来た王子は、イーサーを見るなり、


「お前がモーダイン将軍の息子か! お前には責任がある」


 などと言い出した。


「責任ですか!?」


「そうだ。海底にばらまかれた財宝は、今、マーメイドたちの協力を得て拾い集めている。我が国はアウシュニヤ王国との正式な国交は存在していない。あくまでアルマース帝国を通じ、ああやって視察の軍人を送り込む程度だった」


 そこまでまくし立てると、オーシレイは大きく息を吐いた。


「殿下、こっちに来て紅茶でも飲んだら? 急いでやって来て喉が乾いてるでしょ?」


「ああジャネット! ありがたい!」


 彼はノシノシやって来て、私のすぐ近くに座った。

 そして淹れられた熱い紅茶を、冷ましながら飲む。

 ちょっと猫舌なのだ。


「そ、それで殿下、僕に責任というのは一体……!」


「ああ、すまんな。話の途中だった。モーダイン将軍は、アウシュニヤでもそれなりに人望があった。現地人との繋がりも持っていてな。お前はそれを引き継げ」


「へ!? 僕がですか?」


「他に誰ができる。財宝は引き上げる。これをアウシュニヤへ返還することで、かの国との正式な国交を作るのだ。その際、現地で仕事をする人間が必要になるだろう。それはポッと出の何者かではなく、かの土地と縁があるものがいい。アウシュニヤはそういう人の繋がりを重んじる国でもあるからな」


 オーシレイの専門は遺跡学だが、世界中に散らばる遺跡を調査する関係で、各国の情勢や文化にも詳しいのだ。

 彼は今回の事件をきっかけに、エルフェンバインが新たな時代へと向かっていくビジョンを描いたのだろう。


「イーサー・モーダイン。略式だが、この場でお前をアウシュニヤ大使に任命する。不服か?」


「い、いえ、そんなことは……。むしろ光栄です。それってつまり」


「お前は男爵の地位を与えられることになる。モーダイン将軍の果たした仕事が、我が国とアウシュニヤを結びつけることになるだろう。永代の爵位を得るには十分な成果だ。ああ、そう言えばお前は教師をしていたな。かの国では、まともに教育を受けられぬ民も多いと聞く。大使の仕事をしながら、暇があれば教師をやっても構わん」


 オーシレイは胸ポケットからくるくる巻きにされた羊皮紙を取り出すと、それをおざなりにイーサーへと手渡した。

 任命書だ。

 オーシレイのサインまでされているから、これは国家からの正式な書類である。


「そんな、我が家の居間でさらっとやられても」


「格式張ったやり取りは後で王宮でやる。だが、取り急ぎな。万一にも断られるかも知れなかったからな」


 なんと性急な。

 私がそう思っていたら、シャーロットがこっそり囁くのだった。


「ジャネット様の前なら、殿下は胸を張っていなければなりませんもの。不退転の思いでやって来たのではありませんこと?」


「それにしたって、どうしてうちで?」


「あら。このご縁はジャネット様が招いたようなものですわ。殿下にとって、あなたは幸運の精霊女王なのかも知れませんわね」


 な、なんだってー!?

 そんな恥ずかしい思われ方をしてるのか。


 だけど、目の前でイーサーと、楽しげにこれからの展望を話すオーシレイを見ていると、まあいいか、とも思えてくるのだった。




 第二部 終わり


 ご愛読ありがとうございます。

 推理令嬢シャーロット、完結まではあと40話前後。

 

 ここからしばらく、充電などのためにお休みいたします。

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