第209話 罠に掛かった騎士
記事が出た日の夜。
あちらさんは相当慌てていたらしい。
我が家に忍び込もうとしたのだ。
わふわふという鳴き声で目を覚ました私。
素早く部屋に常備されている簡易な鎧を着込むと、外に飛び出した。
「曲者!」
練習用の槍を手にして声がする方を見回すと、バスカーが何者かを取り押さえていた。
恰幅のいい中年男性である。
「ウ、ウグワー」
一見したところ、それなりに心得はありそうな体つきをしているのだけれど……。
普通の人がモンスターであるガルム相手に一対一は、まあ無理というものだ。
『わふ~』
バスカーが、見て見て、と私に振り返った。
目がキラキラしている。
「えらいバスカー!」
彼の首を抱きしめてなでなでしてあげた。
嬉しそうにペロペロ舐めてくるバスカー。
さーて。
いきなり侵入者を捕まえてしまったわけだけど。
「早速罠に掛かりましたわね」
我が家からシャーロットもやって来た。
ナイトガウン姿だ。
私も彼女も爆睡してたわけね。
「じゃあシャーロット、彼がシーディアスの兄を殺した騎士の一人ってわけ?」
「ええ、間違いありませんわ。属性は水。ネフリティス出身の方ですわよね、あなた?」
男はギョッとした。
目を見開き、口をパクパクさせる。
あー、これは図星だな。
そう言えば肌は浅黒く、日焼けしている感じがする。
うちのズドンと一緒だ。
「な、な、なんでそんな事が分かるんだ!」
バタバタ足掻きながら、男が口を開く。
「簡単ですわ。ワトサップ家に忍び込もうなんていうお馬鹿さん、騎士の位を持つものでは早々いるはずがありませんもの。ましてや、エルフェンバインの生まれなら、ワトサップ家がどれだけ恐ろしいか分かっているのが当然。イリアノスやアルマースにもそれなりに名が知れ渡っている、現代最強の武闘派貴族ですのよ?」
「だ、だが、知らないこと言うこともあるかも知れない……」
「ええ。ネフリティス王国とはそこまで密接な交流があるわけではありませんものね。最近、エルド教を通じて貿易が始まったばかり。ですから、あなたがワトサップ家をよく知らず、新聞の記事に踊らされて飛び込んできたのも仕方がないことなのですわ」
シャーロットがさらりと推理を述べたら、男は顔を赤くしたり青くしたり黒くしたりした。
カラフルだなあ。
すぐにナイツがロープを持ってやって来て、男をぐるぐる巻きに縛った。
「冬も近いですし、外に寝かせておいたら凍えて死ぬかも知れませんな。兵舎に転がしておきましょう」
「そうね」
ということで、尋問は朝。
玄関から、イーサーとシーディアスが青い顔をして覗いていたのだが、
「早く寝なさいな!」
と一喝して客間に追い返した。
翌朝。
朝食を終え、デストレードを呼び、どこで聞きつけたのかターナまでやって来て、ネフリティス出身の騎士の尋問が始まった。
バスカーがご褒美の骨付き肉をもりもり食べている横で、騎士はすぐに素性を吐いた。
「俺は悪くない! 悪いのはモーダイン将軍とジョルト騎士爵が、財宝をアウシュニヤ王国に返還すると言ったから……!」
この辺の物言いで大体わかった。
将軍と騎士爵は、発見した財宝をアウシュニヤに返そうと考えた。
だが、四人の騎士はそれに反対した。
ついに仲違いが起こり、将軍と騎士爵は命を狙われるまでになったのだ。
彼らは財宝を持ってアルマース帝国まで逃げ延びたが、そこで殺された……らしい。
だが、その時には財宝は隠されていた。
四人の騎士が財宝の在り処を探しだしたのが、私たちがシーディアスと出会った少し前。
彼らは、後からやって来るであろう私たちに見せつけるべく、あの紋章を書いた紙を残したのだった。
「なんであんな証拠になるようなものを残しましたの」
「ううっ……。財宝をついに手に入れてテンションが上がっていたんだ」
水の騎士はがっくりと項垂れた。
「まあ、気持ちは分かる」
ナイツがうんうん頷く。
それに対して、イーサーとシーディアスが吹き上がっている。
「こいつが父さんを!? 許せない!」
「父と兄が殺されたんだ! 黙ってられませんよ!」
うおーっと盛り上がる二人。
「まあ、気持ちは分かる」
ナイツがうんうんと頷く。
「だがな、ここでこいつを殺したら、あと三人が逃げちまうだろう。おい、なんでお前、一人で動いた」
「三人が何故かブルっちまったからだ。財宝に残りがあっても、ここは相手が悪いから諦めようって言いやがった……! とんだ腰抜けだぜ! ……と俺もその時は思っていました」
シュンとする水の騎士。
私は彼に語りかけた。
「ねえ。あなただけ捕まってていいの? 他の三人は逃げ延びて、財宝で一生面白おかしく暮らすかも知れないのに。あなたはこの後確実に縛り首になるけど、他の三人のための犠牲になるのは全然だいじょうぶなの? 自己犠牲精神の塊だったりする?」
「ぐや"じい"!」
「でしょ? あとの三人の居場所も教えてもらえない?」
「……流石お嬢、人間の汚い性根を利用する術を熟知しているぜ。これで幾人の蛮族が誘い出されて討滅されたことか」
「これだからジャネット様と一緒にいると退屈しないんですのよねえ」
「見なかったことにしておきますね」
「記事にしなければ……!」
こうして、ついに状況は三人の騎士の追跡に移る。
事件は最終局面なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます