第156話 イケてる教師と三カ国の三人娘
今回のオーシレイの旅は、ヴァイスシュタットにいるという旧友を訪ねる目的があったようだ。
アカデミーの入り口で、バスカーとピーターを預ける。
大きいけれど人に友好的で愛嬌をふりまくバスカーに、職員たちがみんな笑顔になった。
小さいピーターが、バスカーの頭上で得意げにしているのも受けたらしい。
これなら安心。
私たちはアカデミーの中へ。
当然みたいな顔をして、シャーロットもついてきた。
「どうしてラムズ侯爵令嬢がついてくるんだ」
「あら、わたくしも王立アカデミーの講師ですわよ? ここにやって来る大義名分はありますわ。それにわたくし、殿下よりも先にアカデミーの図書館で調べ物をしていましたの」
「そうか……」
オーシレイが嫌そうな顔をしたなあ。
表情を隠さない人だ。
だがそういう空気は絶対に読まないのがシャーロットでもある。
彼女は平然とついてきた。
凄い胆力だ。
オーシレイが向かったのは、アカデミーの教授棟。
ここでは賢者ではなく、教授という教師のような役割を持った人が教えているらしい。
「おっと、失礼!」
すぐ横を、大柄なリザードマンの人が通り過ぎていった。
亜人でも普通に教授をやっているなあ。
尻尾が出るタイプのスーツってあるんだ。
「ジャネット、こっちだ。俺の友人を紹介しよう。これからの調べ物には彼の協力が不可欠でな」
「はーい」
オーシレイの招きを受けてやって来ると、そこは広々とした研究室だった。
「ようこそ、殿下!」
私たちを待っていたのは、亜麻色の髪をポニーテールに結んだ、眼鏡の男性。
すらりと背が高くて、なるほど顔立ちはオーシレイと並ぶくらい整っている。
「殿下はやめろ、ケイ。俺とお前の仲じゃないか」
二人は歩み寄り、がっちりと握手を交わした……。
するとだ。
研究室から、キャーッと黄色い歓声があがるじゃないか。
「誰かいるの?」
私がちょろっと研究室の中を覗いたら、三人いた。
一人は、金髪碧眼で白い肌をした小柄な女の子。
エルフェンバインでちょこちょこ見るタイプの見た目だ。
一人は、赤毛のショートカットで、活発な印象の長身の女の子。
一人は、褐色の肌に黒髪の大人っぽい色気のある女の子。
彼女たちは私がじーっと見ていることに気付くと、ハッとした。
「ちょっと、何よあなた」
「サンドーリ教授に色目を使わないでくれる!?」
「よそ者は及びじゃありません!」
「ひどい言いようだ」
私は大変驚き、同時に面白くなってしまった。
これは、イケメンの教授を三人の生徒が取り合うという状況なのではないだろうか。
「そうですわねえ。ジャネット様のご想像の通りでしょうね」
「わっ、口に出てた?」
「なんとなく視線と表情から推理しましたわ。当たっていたようですわね? 彼らは、エルフェンバインと、イリアノスと、アルマース、三国それぞれのご出身のようですわ」
「ほうほう、分かるの?」
「はい。外見もですけれど、身のこなしが違いますもの。金髪の彼女はわたくしたちが見慣れた動き方。精霊教は自由ですからね。赤毛の彼女はイリアノスですから、ラグナ新教ですわ。快活な見た目ですけれど、足運びが静かでしょう。本国ではローブを纏って侍祭などをされている方なのでしょうね。どたどた歩いては、ローブに引っかかってしまいますから。そして最後の彼女は、アルマース帝国のザクサーン教徒でしょう。最近は女性の格好も自由になったとは言え、今も手袋に長いタイツを履いて露出を避けていますわ。"女性はみだりに肌をさらすものではない。アルマースの強い日差しはたおやかな肌を焼くものであるからだ”という教えがあるのですわよ」
「語るわねえ……!」
長々とシャーロットが語ったけれど、全て三人の女生徒の立場を推理したものだ。
これを聞いたケイ教授は目を丸くし、「ほおー! やはり、ラムズ侯爵令嬢は噂通りの方だ!」と大変に感心する。
三人の女生徒は、愕然とし、見事に自分たちの立場を言い当てられてわなわな震えている。
「あ、あなた人のことをずけずけと言い当てて失礼ね! 何者……って、侯爵令嬢……?」
スーッと金髪の彼女の顔が青くなった。
「偉い人なのですか?」
アルマース出身の彼女が尋ねる。
「セレーナの国風に言うなら、一つの都市を治める市長の娘、みたいな」
「偉い方ではありませんか!! た、大変なご無礼を……」
赤毛の彼女に教えられて、アルマース出身のセレーナと言うらしい女生徒が恐縮した。
「そしてオーシレイ。君が先程から気にしている彼女のことを、僕にも紹介してくれないかい?」
「ああ」
オーシレイが不敵に笑った。
なんだその笑みは。
「彼女はワトサップ辺境伯令嬢にして、名代のジャネット。これより王家との仲を深くしていく人物だ」
「おお、噂の!! 彼女がそうなのかい!? いや、自ら戦場に出て荒くれ者たちを従え、蛮族の攻撃を幾度も凌いだ女傑という評判の割に、繊細そうなとんでもない美少女が現れたので、僕は目を疑っているのだけれど」
「その噂には一つも嘘がない……」
「本当かい!?」
ケイ教授のテンションが上がった。
何を興奮しているんだろう。
彼はハンカチで手を拭ってから、私に握手を求めてきた。
ケイ教授の、後から後から手汗が出てくる手を握っている私を、三人娘がすごい目で睨んでいるのが分かった。
取らないから。
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