第18話 アリスとのデート(前編)

アリスから電話がかかってきた日の午後。


ドロシーたちは、アリスに指定された約束の場所へと向かっていた。




「確かこの辺なんだけどなぁ……。」


ドロシーは懐から地図の書かれた紙片を取り出し、場所を確かめる。


「ほんとにここであってるロボ?」


ロボ丸がコートの胸ポケットからひょっこりと顔を出し、訝しげに訪ねた。




「そのはずなんだけど……。」


ドロシーはキョロキョロとあたりを見渡した。


ここは共和国にある城下町の一角。


ジンボ・ストリート。


人呼んで『図書館街』。


数多くの古書店が立ち並ぶ古い通りである。




レアな魔導書や絶版になった小説など、掘り出し物が多く取り揃えられているため、古本マニアの御用達の一角だ。


しかし……。




「こんなところにほんとに喫茶店なんてあるのかしら?」


右を向いても古本屋、左を向いても古本屋。


前を向いても後ろを向いても古本屋だ。


どこにもそれらしい店は見当たらない。




「うぅ……。なんだか怖くなってきちゃったよ……。」


土地勘の無い場所で右往左往しているうちに、ドロシーの胸に一抹の不安が込み上げてきた。




実はドロシーは、あまりこの通りに来たことがない。


すぐ隣にあるオータムリーフ・ストリートには、ロボ丸の予備部品や、ジャンクパーツの買い付けなどの理由で足繁く通っているのだが……。




「おーい、こっちじゃ!ドロシー殿‼︎」


ドロシーの背後から聞き覚えのある声が響いた。


アリスの声だ。


振り返ると、小さな影が手招きしているのが見える。




「アリスさん!よかった〜!もう少しで迷子になるところでしたよ〜‼︎」


まるで、母親を見つけた迷子の子供のように、ドロシーはアリスのいる方へと駆けて行った。




「ここらは混み入っててわかりづらいからのぉ。さぁ、こっちじゃ。」


ドロシーはアリスに導かれるまま、狭い路地を歩いて行く。




歩き始めて数分後、ドロシーが立ち往生していた場所のすぐ近くにその店はあった。


巨大な二つの古書店に挟まるように、その店はひっそりと佇んでいた。




『梵天堂』と書かれた古い看板が掛けられているその店は、一見するとただの裏ぶれた古書店にしか見えない。


しかし、アリス曰く、一階は普通の古書店だが、2階部分に喫茶店があるのだという。




どうりでわからないはずだと、ドロシーは心の中で愚痴ながら、アリスに続いて店の中へと入って行った。


店内で席に着くと、二人は紅茶とケーキを注文した。




「この店のガトーショコラは絶品でのぅ、よく来るんじゃよ。」


「ほんとに美味しいですね、これ。わたしもまた来ようかな?」


運ばれてきたケーキを食べながら、二人はしばらく他愛のない会話を楽しんだ。




「さて、そろそろ本題に入ろうかの。」


上品な仕草で紅茶を飲みながら、アリスは話を切り出した。


「この前の実験の件ですね。あと、他に何か依頼があるとか。」


「うむ、順を追って話そうぞ。」


アリスはニコリと笑うと、優雅に語り出したのだった。

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