第7話 ステラの力
古よりの死臭漂う密室で、無慈悲にも今まさに一人の少女の命が絶たれようとしていた。
その少女の名はドロシー。
人形に魂と生命を与え、これを使役するという神秘の業ギフト、「人形使い」の担い手である。
その様を、肩を震わせて見つめるしかない、無力で小さな人型があった。
その名は「ステラ」。
ドロシーにより魂と生命を与えられた、妖精のように愛らしい少女人形である。
ステラの美しい顔は、目の前で起こった惨劇により、恐怖と絶望の色に染まっていた。
わたしに生命と名前を与えてくれた恩人が、今まさに目の前で死のうとしている。
それなのに、自分にはどうすることもできない。
眼前の敵に抗おうにも、少女は戦うすべを知らぬ。
このまま見ていることしかできないのか?
ステラは目をふせ、己の非力を呪った。
星の輝きのような瞳には涙が浮かび、流れ落ちた涙がぽたぽたと、乾いた地面に染みをつくる。
ふと、地面に目をやると、床に転がっていたあ・る・も・の・が目に留まった。
それは、マスターが彼女に与えた、古びたステッキだった。
ステラはとっさにステッキに走りよると、それを拾い上げた。
自分でもなぜ、そんなことをしたのかはわからない。
心の奥底からこみ上げる、形容しがたい衝動に身を任せただけだ。
ステラは瞼を閉じ、ステッキを掲げ持つ。
その瞬間、ステッキの先端から虹色の光がほとばしり、周囲を白く染め上げる。
光の本流に驚いた蜘蛛が、暴虐の手を止め、ステラの方を見やった。
「これは……なに?じょうほう?しょうかんじゅつ?ステラのなかにいっぱいながれこんでくる……?」
ステッキを通して、ステラの魔導回路に膨大な量の情報がインストールされていく。
剣術、弓術、格闘術、砲術、攻撃魔法、回復魔法、召喚魔法、支援魔法、錬金術、etc、etc、……。
膨大な光の奔流が収まり、広大な暗室に瞬間、静寂が訪れた。
ステッキに記録されていた全ての戦闘データのインストールが今、終わったのだ。
ステッキになお残る淡い光に照らされ、一つの小さな人型が佇んでいた。
それは、「人形使い」ドロシー・アプリコットにより、ステラと名付けられた一体の魔導人形だった。
その表情からは、かつての童女じみた無垢さはさっぱりと消え失せていた。
そこにあったのは、命を懸けて己の仕える主人を守ろうとする、勇猛な少女騎士の顔だった。
「マジックアプリ起動!アルケミーアプリケーションを選択!」
ステラは錬金術アプリを起動させ、手に持った魔法の杖をなぞる。
すると、杖が光の粒子に分解され、、徐々に構成情報が書き換えられてゆく。
数秒後、そこにあったのはもはや杖ではなく、一丁の美しい魔銃だった。
「錬成完了。対象をマジカ・ブラスターと命名。砲撃を開始。」
ステラは無機質にそう呟くと、魔銃を構え、鋼鉄蜘蛛への砲撃を開始した。
BLAM!BLAMU!
銃口から高密度の魔導弾が発射され、ドロシーを掴んでいた蜘蛛の脚を木っ端みじんに打ち砕く!
ほんの数秒前まで杖だったそれは、高威力の魔弾を連続発射する恐るべき魔銃と化していた!
「GRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!]
またもや脚を奪われ、蜘蛛野郎は激昂する。
残る三本の脚で、ぐらつく身体を器用に支え、ステラに向き直る。
「対象の戦闘能力の低下を確認。剣術アプリ、及びエンチャントアプリを並列起動!」
ステラは魔銃の砲身を折りたたみ、マジカ・ブラスターをソードモードへと変形させた。
結晶化した魔力が刀身を形成し、水晶めいた怜悧な刃を形作る。
ステラは刀を上段に構え、一呼吸おいてから蜘蛛めがけて斬りかかった!
刹那、雷光のごとき速さで蜘蛛野郎の懐に潜り込み、蜘蛛野郎の残りに脚を一気に切断する!
しかしそれだけでは終わらない。
ステラはさらに、刃を一閃、また一閃と閃かせ、蜘蛛野郎の身体を微塵に切り刻んでいく!
ステラが刃を振るうたびに、馬小屋ほどもあった鋼鉄蜘蛛の身体は次第に小さくなっていく。
そして、最後に残った蜘蛛の頭が、ガチャリという音を立てて地面に転がった。
「G……R&#%$%#…………!」
複眼から血涙めいたオイルを流しながら、蜘蛛野郎は不明瞭なうめき声をあげる。
「これで、終わり!」
ステラは冷たい声でそう呟くと、蜘蛛野郎の眉間に刃を突き立てた。
「%&#$%&$&%$#!!!!」
頭だけの蜘蛛は、くぐもった断髪魔の雄たけびをあげた。
そして、二度三度痙攣すると、複眼から光が失せ、二度と動かなくなった。
「……。」
ステラは、冷たい眼で、しばらくその様を眺めていた。
やがて、蜘蛛の息の根が完全に止まったことを確認すると、踵を返し、主人のもとへと駆け出して行った。
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