ちびっこ公爵令嬢の恋愛事情

なのの

第一幕 ルーカス様

第1話 再会と絶望

 アルヴァレズ家が独立した公国であった頃、お爺様は先王と戦争状態にあった。

 そこに到来した魔王に対しお爺様と先王は力を合わせ、どうにか倒したもののお互いの戦力は酷く疲弊していまった。

 そこで周辺国の猛威からお互いを守る為、一つの国となった。

 国土の面積は対等だったが、私達の国は土壌に恵まれていなかった為、人口比では二倍にもなっていた。

 その為、私達の国が併合されるという形態をとり、私達は公爵家という位に就いた。

 それと同時に王位は現王に移り、平和な時代が訪れたのだった。


 この時、平和の象徴として五歳だったわたくし、シャーロット・アルヴァレズは相手国の王子と婚約した。


 相手に選ばれたのは同い年のルーカス・ベリサリオ。

 会ったのは併合式典の時の一度だけだったけど、彼の姿はいつまでも鮮明に覚えていた。

 華奢で今にも壊れそうな細身、天使の様な笑顔、風に揺れてキラキラと光る眩い金髪といった容姿に一目惚れをした。

 完璧な理想像このみのタイプから加護欲をそそられたのだ。


 相手がどう思ったのかはわからない。

 アルヴァレズ家は遺伝的に黒髪に深紅の瞳で、魔族だとか言われ恐れられていた。

 あながち間違いではないかもしれない、この特徴を受け継いだ者はもれなく、強大な魔力を持っていた。

 人口比二倍がそのまま兵力差にもなっていたにも拘らず、王国と対等以上に戦えていたのはこの力のお陰だ。

 わたくしも魔法は少々得意で終戦寸前に魔法を打ち放った事がある。

 その時の王国の被害は一個師団(約一万人)がほぼ壊滅し、その被害と魔王到来が重なり終戦に至る事が出来たと聞いた。



 併合から九年。

 わたくしは十四歳となり、王都にある学園に通う事となりました。

 学ぶ事があるのかと言われると、殆ど無いと言える程に教育を受けている。

 そのわたくしが学園に通う理由はただ一つ、ルーカス様との仲を深める為でした。


 ですが学園側は配慮の欠片も見せない対応をした。

 そう、ルーカス様とわたくしは別々のクラスとなってしまったのです。

 そんな怒りを堪え、お昼休みを待ちました。


 手作りのお弁当を持ち、待ちに待ったルーカス様との再会です。

 心が躍らない訳がありません、まるで足に羽根がついたように軽い足取りで会いに行きました。


 九年の月日が経ち、さぞ美男子に育った事でしょう。

 眼鏡をかけた知能派?体を鍛えた細マッチョ?美形を体現したイケメン?それとも幼き容姿を今も保ち続けたショタ風?

 姿を見るのが楽しみで仕方がありません。

 それに見た目より中身です。

 わたくし、ルーカス様がどのタイプでも受け入れる覚悟が出来ています!


 ルーカス様の教室の前に到着しました。

 心の鼓動が他人に丸聞こえではないかと心配する程に高まっています。

 この国では金髪と言えば王家だと言う程に珍しいので一目でわかる筈。

 ですが、焦りません。

 自ら探すような事はせず、屋上に呼び出して二人きりでの再会を記念としてを彩りたいのです。


「そこの貴女、ルーカス様を呼んでいただけないでしょうか」

「あ、シャーロット様ですね、私、ファンなのです、是非ご活躍のお話をお聞きしたく」

「いえ、後でいくらでもお話してあげますので、ルーカス様を呼んで頂けないでしょうか?」

「はい、申し訳ありません、呼んできますね」

「あの、わたくし、屋上で待っていますので、そう伝えて頂けますか?」

「わかりました」


 やった。

 呼び出しましたわ。

 ああああああああああああああああ、もうっ、早く会いたいですわ。

 わたくしは、急ぎ足で屋上に移動し、周りに誰も居ない事を確認しました。


 ついに再会できるのです。

 ぐへへ…。

 おっと、よだれが。

 いけません、いけませんね。

 平常心です。


 ガチャ


 屋上のドアが開く音です。

 九年の歳月を経て、感動で抱き着かれたらどうしましょう。

 勢いで接吻なんてされちゃったらどうしましょう。

 死んじゃうかもしれません。

 そんなの幸せ過ぎです。


 思わず、背を向け。

 顔の火照りや高ぶる気持ちを抑え込もうとしました。

 思考もまとまらなくなってきたとき、声を掛けられました。


「シャ、シャーロット姫ですね、ぼ、僕、ルーカスです」


 緊張のあまりどもっちゃって、なんてかわいいのでしょう!

 ですが、わたくしは強靭な精神力があるのでどもりません。

 はやる気を落ちつけて、振り向き、挨拶するのです。


「はい、わたくしがシャーロットです。お久しぶりですね、ルーカス…………様?」


 ゴトッ


 手作りのお弁当を落としてしまいました。

 だって、目の前に居たのは背の低いわたくしと同じくらいの身長に、膨れ上がったお腹、髪の毛は金髪だけど、顔の半分が隠れる程にぼさぼさで、膨張した顔面に瓶底のような眼鏡で不気味な笑顔をしていました。


 がわたくしの婚約者?


 理想像がガラガラガラと崩れ去る音がした。

 わたくしの好みの正反対のそのお姿に、この時のわたくしは絶望しか感じていませんでした。


 こんなのは嫌です!

 見た目より中身なんて言ったのは誰よ!?

 お父様…、いえ、お爺様に言って婚約解消をして頂かないといけません!

 この国の継承権第二位の王子があんな姿なんて、ありえません!

 王様や王妃様、教育係は一体何をしていたのですか!?


 もし婚約解消できないのであれば、王国を火の海にして堂々と帰ります!


 わたくしは、お弁当に少しつまづきながらも走り出していました。

 このあんまりな再会に午後の授業の事なんて忘れ、寮の自室で泣きじゃくってしまいました。


 落ち着いた頃に魔道通信でお爺様と顔をつきあわせての通話が始まりました。


「シャーロットや、そんなにおめめを赤くしてどうしたんじゃ」


 瞳が赤いだけに泣いて白目部分まで真っ赤になると目が肥大化した様に見えて、一般比人からは少し怖く感じるらしいのです。

 ですから、人前で泣く事は絶対にしないようにしています。

 それゆえに私が目を赤くする事なんて滅多になかったのです。


「それが、婚約者の──」


 容姿をそのまま伝えた。

 その状況に、お爺様は困った顔をしています。


「シャーロットや、辛いかもしれぬが我慢するのじゃ、先王が土下座までして築いた平和じゃ、こちらからその婚約を解消する事は難しいのう…」


「土下座って初耳ですわ、プライドの無い王族なのかしら?ですが、あちらから破棄するのであれば良いのですね??」


「ま、まぁそうじゃが」


「わかりましたわ!ご心配には及びません、わたくしの恐ろしさを見せれば一発ですわね」


 こうして、わたくしの婚約破棄計画が始まったのです。

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