第6話 泣いてないでしっかり、最期を見ろ。
「ん……」
その時、死亡確認をされてここに横たえられていた政明が……。
──呼吸を始めた。
「おじいちゃん……?」
未来は目の前で見ている光景が信じられずに、政明に声をかけた。
「ウメを置いて先に逝くわけにゃいかんな」
政明ははっきりとした口調で言う。
「おばあちゃん……?」
未来はウメに話しかけた。
死んだはずの政明が生きていたのだ。どうしても今、寝ているウメを起こしてでも伝えたかった。
「おばあちゃん!」
ウメは目を覚さない。
「未来……」
好美がそっと、座っている未来の肩に両手を乗せた。
「え……? 嘘……さっきまでおばあちゃん歩いてたじゃん!」
「未来、夢でも見てたの? おばあちゃんのことは、もう見守ることしかできないのよ」
未来の目からは涙が溢れていた。
その時、目を覚さなかったウメの口元が動いた。
ウメはニコッとわらって、入れ歯を外された口で言う。
「未来ちゃん、泣いてないで、しっかりばあちゃんの最期を見なさい。今しか見られないんだからねぇ」
未来はその言葉を聞いて、また泣いた。
*
ウメは、未来が頷いたのを確認して、スッと意識を遠くへやった。
笑っていた口元から力が抜け、ウメの魂は天井を突き抜けて、高く高く空へ昇っていった。
「おばあちゃん」
「ふ……」
未来がウメのことを呼んだ時、窓側のベッドで横たわっていた政明が小さく笑った。
「おじいちゃん……?」
ウメの魂がまだウメの身体に宿っていた時、政明は死亡を確認されたはずだ。その政明が生き還ったことをウメに伝えようとしたら、さっきまで元気だったウメが生死の間を彷徨っていたのである。
未来にとっては、もう意味がわからない。
「ウメ、今、行くよ」
政明は、未来が見たことのないような優しい顔で、ウメに語りかけていた。
愛するウメが天国に旅立つのを見送って、政明も再び……。
──息をすることをやめた。
「おじいちゃん……!」
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