夜の国をてらすもの
その年のある日、ブルーパークのクリスマスツリーの銀の星が盗まれた。銀の星は本物の星くずで出来ていて、僕の住む一日中真っ暗な夜の国を、そのツリーのてっぺんの銀の輝きが、いつも照らしていた。町で暮らすみんなは、光がなくなって困っていた。僕の学校でも、銀の星を盗んだ犯人は誰だ? という話題で持ちきりだった。
この街には、何人かの魔法使いがいる。魔法使いたちは、大昔に別の世界から来た魔法使いたちの末裔なのだ。銀の星は、彼らとの友愛の証に、夜の国に光をもたらそうと渡された魔法の星だった。魔法使いたちも、銀の星がなくなって悲しそうだった。
僕のクラスの
ある夜、ふと目を覚ました僕は、窓から見えるブルーパークの真ん中、銀の星をとられて寂しくなったクリスマスツリーを見つめていた。やけに闇が澄みきっていた。僕はその噴水の上に立っている人影を見つけた。人影は僕の学校と同じ制服の上にコートを着て、噴水の上で手のひらのものを眺めながらげらげら笑っていた。その声を聴いて、それが知翠くんだと悟った。僕はベッドから跳ね起きて、コートを羽織ってブルーパークまで急いだ。
知翠くんは僕がパークに辿り着いたとき、噴水の上で両手を広げて笑っていた。手には銀の星が握られたままだった。
「知翠くん、何してるの?」
「誰だ? お前」
夜の町ではクラスメイトの顔でさえ紛れる。仕方ないので名乗った。
すると彼は、
「ここにおいでよ」
といって、杖をひと振り、僕の身体は宙に浮いて噴水のてっぺんへ運ばれた。そこからは夜の国を一望できた。中心街の色とりどりのライトも、僕たちの学校の屋上のランタンも見えた。
「ここに座ると、この街を全部手に入れたって感じがする」知翠くんが言った。「セントラル・タワーの飛行灯も、ブルーパークの銀のクリスマスツリーも。この夜景、隅から隅までおれのものなんだって」
「知翠くん」僕は彼に話す。「みんな、その星がないと困るんだよ」
すると知翠くんは笑うのをやめて、小さな声で言った。
「この星は、魔法の国の宝石なんだ」
銀の星は、魔法使いがいないと光らなかった。この夜の国との友好を築いた魔法使いたちは、光を灯す役割を買って出て、魔法の国へは二度と戻らなかった。
「すぐに返すよ」知翠くんは言った。「触ってみたかっただけだ」
「あったかいんだな」知翠くんは寂しそうな声で言った。「おれの国も、あったかいのかな」
知翠くんは泣いていた。僕は彼のそばを離れることができなかった。
「このこと皆に言う?」
「言わないよ」僕は言った。「約束する」
翌日、クリスマスツリーの星が無事にかえっていた。銀の星は今日も明るく、この夜しかない町を照らしている。
そして知翠くんは、今日も変わらず意味のない呪文を言って、みんなを悪戯で笑わせている。
(了)
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