第121話 ダンジョンでバーベキュー 2
前話のタイトルを変更しました。内容に変わりはありません。
―――――
インベントリの中から肉と買ってきた野菜を取り出す。
肉はダンジョンアタックの時に手に入れたもので、野菜はこのコンロを購入した街で手に入れたものだ。
このゲーム内で料理をしたことはないが、このべーべキューコンロは料理スキルを持っていなくても調理ができる便利アイテムだ。まあ、便利な分結構な金額だったわけだが。
あの金額なら普通にできた料理を買って食べたほうが安上がりだよな。ああでも、複数で使うことを前提とすればそこまででもないのか?
「あ、やべ。テーブル出すの忘れてたわ」
インベントリの中から食材を出したところで、この食材を置くためのテーブルを出すのを忘れていたことに気づく。
一応この場所には前に購入した机も置かれているが、バーベキューをする際にその机では使い勝手が悪いだろうと思い、コンロを買うついでにそれに合わせたテーブルも買っていたのだ。
インベントリから急いで出したテーブルを設置し、その上に肉と野菜を置く。このテーブルはシュラ達に合わせて少し背の低いものにしたので、上に置かれている食材がシュラ達の視界にも映るようになっている。そのため、テーブルに載っている食材にワクワクした視線を向けていた。
うーむ。こういうのは自力で肉や野菜を焼いて食べる方がいいんだと思うが、実際にシュラ達がそのような行動をできるのか、その辺よくわからないんだよな。
俺が焼いてそれを取り分けたほうが安全というか失敗はないから、よほどシュラ達がやりたいとせがんでくればやらせるくらいでいいか。
コンロを購入した際についてきた下処理用の道具(バットと調理用のはさみ)を使い、モンスターから手に入れた肉をバーベキューコンロで焼ける状態にする。
本来なら料理スキルと道具の包丁を使って肉を切るわけだが、このアイテムを使えばスキルも道具も使うことなく、バーベキュー用の食材として加工することができる。
かなり便利なアイテムに見えるが、当然スキルを使って加工したものに比べればクオリティは落ちるし、この道具で加工するとバーベキューコンロ以外で調理することができなくなるので、万能というわけではない。
コンロに乗せることのできるサイズになった肉を焼いていく。肉をコンロの上に移動させる間ずっとシュラが嬉しそうでわくわくした表情をしていた。特に手を出そうとしてこなかったので、おそらく自分で焼く焼かないは気にしていないようだ。
「シュラ。もうちょっと待ちなさい」
「です」
焼いている肉に待ちきれないといった様子で手を出そうとしていたシュラを窘める。
肉を焼いている横の開けていたスペースでナスや玉ねぎのような野菜も同じように焼く。こっちにはシュラはあまり興味がないようだが、ぷらてあは気になるのか少し離れた場所からこちらを見ている。
「さて、こんなものか」
いい感じに焼けた肉を取り分ける前に一度大皿に移していく。するとそれを見ていたシュラ達が俺の前に並び始めた。
「どうした? これから取り分けるからそんなことしなくても……、もしかして俺から直接ほしいってことか」
「そ、です!」
「シュシュ!」
先頭に並んだシュラと朱鞠が返事をする。その奥に並んでいたぷらてあ達も頷いて同意していた。
よく考えてみれば、シュラ達が箸やフォークをうまく使えないよな。使わせたこともないし。そもそも朱鞠やキャラメルは人型ではないから使う以前の問題だ。
それに普段、シュラ達に与えている食事は俺が直接手渡ししているし、それと同じ感じなのかもしれない。
「うーんまあいいか。いちいち分けるのも手間だし、それをしなくていいと考えよう」
俺がそう独り言ちている間もシュラ達はキラキラした目で俺が持っている皿、正確には肉を凝視している。
「それじゃあ、渡すからちょっと待ってくれな」
「はい! です」
俺の言葉にシュラ達はいい返事を返してきた。
今取った分では足りないのでコンロから追加で肉を取り、ぷらてあ用の野菜もいい感じで焼けていたので皿に移す。
「今から渡すけど熱いから気を付け……」
「あー」
「直接口に入れろってか」
シュラがどの程度熱さに強いのかわからず注意しながら肉を差し出そうとすると、シュラは親鳥から餌をせがむ雛鳥よろしく口を大きく開けて、俺が肉をくれるのを待っていた。
そう来るのかと思いつつ、手で直接持つよりはましかと思いなおす。
「それじゃあ口に入れるけど、まだ熱いからダメそうなら吐き出していいからな」
そう忠告して焼肉用のたれをつけ、その肉をシュラの口に運ぶ。
もごもごと口の中に入ってきた肉を味わっている間、熱がっているそぶりはないので、このくらいの熱さなら問題ないようだ。
「うま! ですー!」
感動を表しているのかシュラはにっこにこの笑顔で両手を大きく上げそう声を上げた。
「うまかったならよかった。それでまだ食べるか?」
「ん!」
俺がそう尋ねるとシュラは二口目を要求せず、俺の前から退き朱鞠に順番を譲った。そしてそのまま列の一番後ろに移動した。
朱鞠たちが後に並んでいたから譲るのね。何を教えたわけじゃないが行儀がいいな。
並んでいた順に焼けた物をあげていき、最後に並んでいたやちゃるが小さな口で差し出された肉を食べると他の子と同じように列の後ろに並びなおした。これで一巡したのでまた先頭のシュラの順番になり、もう一度同じようにシュラの口に肉を運んだ。そしてそれを食べ終えるとまたシュラは列に並びなおしに向かっていった。
シュラのことを見送り、次の朱鞠に肉を上げているところでふとあることに気づいた。
……あれ? ちょっと待て、もしかして俺はずっとシュラ達に雛鳥よろしく焼けた物を与え続けないといけないやつか?
それからシュラ達が満腹になるまで俺は肉と野菜を焼き続け、ようやくその作業から解放された。
「そういえばおぬし」
「うん? なんだ?」
焼いた野菜よりも生の方が好みということで生野菜にそのままかぶりついていたアンゴーラが、食べていた野菜がなくなったところで俺に話しかけてきた。
「ダンジョンにたまった経験値はいつ受け取るのじゃ? 結構たまっておるのじゃが」
「うん?」
何の話ですかそれ。聞いていませんよ。
―――――
テイムモンスターの食事方法は、基本的にテイマーが教えればいろいろできるようになります。シュラ達は今までパンなど直接手に持って食べられるものを多く与えていたことにより、シュラ達が足り分けてもらった物を食べるという思考に至らなかったため、今回の形になりました。
ちゃんと説明して教えればお皿から食べ物を食べますし、人型のモンスターであればフォークくらいは使えるようになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます