少し先の一場面 Aルート ガルド

 

 キュリアのパーティーがミヨガダンジョンの10層目に到達した少し前、ほんの少し先に別のパーティーが第10層に到達していた。


 ◇


「ガルド、先に進む前にHPとMP回復しておけ」

「そうだな」


 パーティーメンバーの六星に指摘されて自身のHPMPが減ったままだったことを思い出し、インベントリからポーションを取り出して回復させた。


 先ほどのゲートキーパー戦では、ディノプレンテという樹木属性の初見モンスターに不意を突かれ、大きなダメージを受けてしまった。

 普段だったら問題なく回避できていたはずだが、どうやら知らない内に状態異常を食らっていたらしく、その所為で上手く動けなくなっていたのが原因だ。


「ここまでのパターンで言えば、10層のゲートキーパーも樹木属性だと思うが」

「私もそう思いますが、8層と9層の違いを考慮すると絶対ではないですね。それに5層にミヨガの壁が居たので、10層でも似たようなゲートキーパーが居る可能性も高いです」

「ああ、そうだな」


 5層に居たゲートキーパーは近・中距離高火力型のモンスターだった。そのため、バインドを仕掛けて遠距離からの狙撃でどうにか倒すことが出来た。しかし、バインドが出来なかったら、おそらく倒すことが出来なかった程度には格上の相手であることは間違いない。


 故に、この階層で同じようなモンスターが出て来た場合、俺たちが勝つことは出来ないだろう。


 そうして俺たちはこの層のゲートキーパーの予測を立てながら先に進み、この層のゲートキーパーと対峙した。



「よく来ました。わたしが、ここのゲートキーパーとなります。次の層へ、進みたいのであれば、わたしを倒さなければなりません」


 ゲートキーパーとして出て来たモンスターは緑色をした女性のような存在だった。今までモブモンスターとしてこのような存在は出て来た記憶は無いので、モンスターとして上位の存在か、それともここ限定の存在なのかもしれない。


「やっぱりか」

「AIも上位っぽいから壁確定では」

「だろうな。看破は効いたか?」

「殆ど弾かれた。種族不明、ネーム不明、辛うじて上の桁だけ見えてそれが6だから、レベルは最低でも60だ」


 5層のゲートキーパーでも59だったんだ。このゲートキーパーが60以上なのは変ではない。むしろ下がる訳がないので、当然と言えば当然だろう。


「無理ゲー」

「俺、見た目の所為で攻撃したくないんだが」


 目の前に居るゲートキーパーの見た目は肌の色が緑ではあるが完全に人型だ。さらに言えば、女性らしい体つきをしている上に服を着ている訳ではなく、局部を蔓で隠しているだけという、正直直視すべきではない格好なのだ。


 俺は気にせず攻撃できるが、人によっては攻撃を躊躇うのは無理もないだろう。特にスケベな男だったり、PVPが好きではないプレイヤーだったりすれば、率先して攻撃を加えるのは嫌だと思っても仕方はない。特に、こうも会話が成り立つほどのAIが組み込まれた相手となればなおさらだろう。


「攻撃、してこないようですので、こちらから、行きますね」


 ゲートキーパーがしびれを切らした……訳ではなさそうだが、こちらが攻撃しないことを気にしてか、先手を取る気がさらさらないと言った様子で声を掛けてから攻撃に移ってきた。


「最初は各自対処しろ!」


 戸惑いはあったものの攻撃されたことで躊躇いが薄まり、何時ものように戦闘態勢に入る。


「ぬおっ!? おあっ!?」

「ディガル!?」


 タンクとして前に出たディガルが声を上げると同時に、ゲートキーパーから伸びて来た蔓に囚われた。


「おいちょちょちょ!? えぇ、嘘だろ!?」

「どうしたディガル!」

「状態異常だ! 麻痺と毒! それとはぁっ!? このHPの減りはどうな……」


 言葉を発している途中にディガルのHPが全損しアバターの動きが止まり、それ以上言葉を発しなくなった。


 まて、ディガルは純粋なタンク職として、初期からこのパーティーに所属していたプレイヤーだ。そのため、このパーティーの中では一番HPが高く、状態異常耐性も持っていたはずだ。それにも関わらずものの10秒足らずでHPを全部削られたのか?


「六星とコールは下がれ! 回復魔法を使える奴を先に死なせるわけにっ!?」


 俺はそう言って2人が後退するための時間を稼ごうと前に出ようとした瞬間、体を思うように動かせずに足が縺れそのまま転んだ。すぐに起き上がろうとするも体を上手く動かせず立ち上がれなかった。


「これ……は、ディノプレンテと同じ……いや、あれよりもさらに強いタイプか」


 ディノプレンテが与えて来た状態異常では、多少動き辛くはあったが完全に動けなくなるほどではなかった。


 気付けば他のメンバーも地面に倒れ伏している。六星とコールは既に蔦に絡み付かれ、俺よりも多くの状態異常エフェクトを纏っていた。


 やはり、5層のゲートキーパーと同じような存在か。初見とはいえ何も出来ずじまいとは、なんて情けない終わり方だ。


 そうして第10層のゲートキーパーとの初めての戦いは、一度も攻撃を与えることが出来なかったどころか、一度も攻撃することが出来ないまま俺たちは敗北し、ダンジョンの入り口に戻された。

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