第53話 荒ぶるウサギ

 

「ウサギ?」


 毛の長いウサギ。確かアンゴラウサギだったか? 俺が知っている奴は顔まで毛で覆われているやつなのだが、このウサギは顔の毛はそこまで長くないな。そういう種類か? それともアンゴラ以外の種類かもしれない。


 ああいや、そうじゃない。何でここにウサギが居るのかとか、今まで話しかけて来ていたのはこいつなのかとか、いろいろあるだろ。


『おい。聞いておるのか!?』

「……なのです」

『何するんじゃ!? 止めるのじゃ!』


 どう対応すべきか悩んでいる内に、シュラがウサギを持ち上げる。持ち上げられたウサギはシュラの腕から逃れようと藻掻いているが、どうやらかなり非力らしく逃げられそうもない。


 シュラがウサギを抱きかかえていると、小学生がウサギを可愛がっているみたいで微笑ましくはあるのだが、ウサギの方は完全に嫌がっているんだよな。これ、止めさせた方がいいだろうか。


『あ、ちょっ、近付くでないわ!』


 シュラの腕の中でもがいているウサギに興味を引かれたのか、ぷらてあも指先でウサギをつつき始めた。


「ん?」


 先ほどまでウサギが居た場所に何か丸い物が落ちていることに気付いた。今まで気付かなかったという事は、あの丸い物はウサギの下にあったのか後ろにあったのか、とにかくこの空間の入り口からでは見えない所にあったのだろう。

 そして、あの球体を俺は見たことがある。と言うか、今インベントリの中にある。


 何十回、いや何百回とダンジョンを攻略する中でこの前ようやく10個集まり完全な球体となったあのアイテム。


 そう、ダンジョンコアだ。


 最初のゴブリンダンジョンで手に入れたから、割と簡単に集まると思っていたのだが、想定外に集まらなかった。


 それでようやく集まった訳なのだが、こうやって目の前に転がっているという事は、別に集めなくても良かったのか?


『ほぬぁ!? そち何をしようとしておる!? それに触るでないわ!』


 俺が地面に落ちていたダンジョンコアと思われる物を拾おうとしたところで、ウサギがさらに暴れる。シュラもさすがに抱え続けるのは無理と判断したのか、ウサギを放す。


 まあ、シュラの腕から逃れたからといって俺が拾うのを阻害できる訳もなく、ウサギが俺の行動を止める前にそれを拾った。


『あぁぁぁああああ!?』


 急いで駆け寄るもダンジョンコアを俺に取られて絶叫するウサギ。なんかその姿を見ていると申し訳なくなってくるが、それよりもこれの確認が先だ。


[(アイテム)ダンジョンコア レア度:7 Fs:‐]

 ダンジョンを形成するために必要なコア。コアの主を決めることでダンジョンを作り出すことが出来る。ただし、何処でもダンジョンを作り出すことは出来ないため、特定の場所に持って行かなければならない。1度決めたコアの主は変更できない。

 現在、このコアはダンジョンを形成しているため、このコアが破壊されると紐づけされたダンジョンが崩壊する。※このアイテムはインベントリにしまうことが出来ません。

 マスター:アンゴーラ


 ふーん。説明の内容は微妙に違うがおおよそ同じか。ただ、俺の持っているダンジョンコアはレア度が6だから別物扱いなのだろうな。

 少なくともコアがあればダンジョンが出来るこれとは違い、元ある洞窟をダンジョンに変えたり、別のダンジョンを乗っ取ったりしなければならないので、0からダンジョンを作り出すことは出来ない。


『それは妾のじゃ! そちが触るでないわ!』


 ダンジョンコアを取り返そうと、ウサギが俺に対して体当たりを仕掛けているが痛くはない、と言うかダメージを受けていないので攻撃判定にはなっていないのか。

 しかし、ウサギは構わず俺に体当たりなどの攻撃……のようなものを続けている。


 鬼気迫る感じで俺に体当たりをかましているウサギに、どうしたらよいかを迷っているシュラたちは俺とウサギに視線を迷わせていた。

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