第12話 ニケとお風呂と「隠蔽」の魔法
「
アルトリウスとランスはその勢いで次の店にも飲みに行くと言い、ボクも誘われたけどあんまり遅くなるとケレブリエルさんを心配させるかもしれないと思ったので、先に帰らせてもらうことにした。
「銀の乙女亭」に着くと受付にケレブリエルさんが居た。
ボクが帰りが遅くなったことを詫びるとケレブリエルさんは、
「別に気にしなくて大丈夫よ! 冒険者さんはみんな帰りが遅いもの。特にクエストの後は打ち上げとかもするしね。むしろもっと仲間と交流して人脈を広げた方が良いわよ?」
と優しく返してくれた。
「
とケレブリエルさんが言ってくれたので、ボクはお風呂に入ることにする。
ケレブリエルさんは
ケレブリエルさんは指で、「防護、ヘラジカ」を意味するルーン文字『ᛉ(アルギズ)』を宙に刻みながら呪文を詠唱する。
「霧たちこめる森の中、鹿の鳴き声は聞こえども、姿はそこにあらじ。速き風、深き水、固き大地よ。邪な者の声に応えてはならぬ。鳴かずば姿も見られまい。
ケレブリエルさんが「隠蔽」の
人はそこに誰かいるのは分かってもそこに意識が向かなくなり、相手を見過ごす形になる。
これは「魔術」ではなく「魔法」の領域の術で、本来は
認識外からの強襲、暗殺や敵地への潜入調査、強い敵や数的不利がある場面での撤退などに使える他、魔法職としては逆に敵から強襲され、狙われる立場にある為、この魔法を使っておくことで敵から狙われずに安全に術式を展開できるというメリットもある。
大きな声を出したり、大きな音を立てたりすると解けてしまうという弱点はあるものの、それでも絶大な効果を発揮する魔法である。
ボクは冒険者を始めてから自分の性を男性と偽って暮らしている為、「銀の乙女亭」に居候させてもらうようになってすぐお風呂をどうするかが問題になった。
女湯に入って性別がバレてもまずいし、かと言って男湯に入る訳にもいかない……
このことをケレブリエルさんに相談したら、ケレブリエルさんがとっておきの魔法があるからと使ってくれたのがこの「
おかげでボクは今も安心してお風呂に入れるので非常に助かっている。
確かに今日の
早くお風呂に入って疲れを癒したい。
ボクは女湯の更衣室で手早く服を脱ぐとそのまま浴場に入った。
話し声が聞こえるし、誰かいるみたいだけど「隠蔽」の魔法もかかっているし、問題は無いだろう。
先客は湯舟に浸かっているみたいだし、まず先に身体と頭を洗ってしまおう。
「――――だから、私は『ロイ×ニコ』でも『ヘタレ攻めロイ×誘い受けニコ』ならありだと申しておりますのに……」
「あんたね! 同カプでもそれは解釈違いよ! やっぱりロイには男らしくリードしてもらって、可愛らしいニコくんは最初は嫌がるのに次第にロイに引かれていってメロメロの甘々になる展開が良いんじゃない! 却下よ!」
「同カプ解釈違いの闇は深い……
あれ?
この声、この話題……
さては【腐】属性トリオだな!!
ボクは思わず「チっ!」と舌打ちしてしまう。
ああ、お風呂場では絶対遭遇したくないとこれまでずっと避けてきた相手たちだ。
「隠蔽」の魔法もかかっているから大丈夫だとは思うけど、もしバレでもしたら一大事になる気がする。
嫌だなぁ、早くお風呂上がってくれないかな。
ボクが三人の様子を見ようとチラリと視線をそちらに向けるとなぜかアマラさんとだけ目が合う……
あれれ? 魔法効いてるよね?
まぁたまたま目があったような気がしただけかもしれない。
「隠蔽」の魔法が効いているから仮にここに人が居ると気づいても、こちらには意識が向かずに見過ごしてくれるはずだ。
とりあえずボクは何かあった時の為に頭をシャンプーでモコモコの状態にし、顔を見られてもボクだと気づかれないようにした。
「それじゃ、私はもう上がるわね!」
「じゃあ、私も上がりますわ! アマラさんはどうされますの?」
「私は今日けっこうMP消費したからもう少しお風呂に浸かっています……
「あれ? あなたそんなにMP消費してたっけ? まぁ、良いわ! じゃあ私たちは先に部屋に戻ってるわね!」
どうやら先にエスメラルダさんとモルビアさんはお風呂を上がるようだ。
あとはアマラさんさえ上がってくれれば、ボクは気兼ねなくのんびりお風呂に入ることができる!
エスメラルダさんとモルビアさんは更衣室でもCP解釈についてああでもない、こうでもないと議論を続けている。
ほんとあの人たちBL好きだよなぁ。
残りはアマラさん一人だからボクも頭を洗っちゃおう。
ボクはそう思い、シャンプーでモコモコにしていた頭をゴシゴシ洗い始める。
するとアマラさんもどうやらお風呂を上がるみたいで、湯船から出て後ろをひたひたと歩いていく。
はぁー、これでようやくのんびりできるよぉー。
――ガバっ! ムニュ……
「ニコくん、男の子が女風呂に入ってきちゃダメじゃないですか?
あれれ? アマラさん、後ろからボクに抱きついてきてない??
背中に何か柔らかいものが二つ接触している……
これは…… Cかっ!?
あんまり大きすぎるのアレだし、むしろこのくらいの手に収まるサイズ感がちょうど良い……
――――ハっ! ソムリエプレイをしている場合じゃない!
「アっ、アマラさん!? 」
「もぉー、ニコくんは悪い子だぁー。
ボクが背後を振り向くと、そこには蠱惑的な笑みを浮かべたアマラさんが居た。
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