第3話 ニコとロイと【腐】属性な魔法女子たち
テミス君と別れた後、ボクたちは「銀の乙女亭」へと向かった。
ボクは今、週に5日、冒険者ギルドのクエストをこなし、週に3日、「銀の乙女亭」のお仕事のお手伝いをしている。
今日はこれから夜の飲食店営業の給仕係のお手伝いだ。
「銀の乙女亭」の給仕係の制服は、お店の三角屋根と同じ深緑色をしているバンダナ――コットン地でリーフ柄をあしらったもの――、同じくコットン地でできたピンクベージュ色の七分袖ブラウス、後はバンダナと同じ深緑色をしたギャルソンエプロンだ。
バンダナは髪が食べ物に落ちないように三角折りにしたものを三角巾みたいに頭に巻いている。
屋根の色も特徴的だし、バンダナやエプロンの色にも採用しているから、この深緑色はエルフにとって何か意味のある色なのかもしれない。
ボクはブラウスに付いている自然素材で出来た大き目の白いボタンがお気に入り。
何かの魔物の角で出来ているちょっと大き目の白いボタンには、シンプルで素朴な樹のデザインの柄が彫り込まれていた。
ボクは着替え終わると、お店の方に出る。
ロイは今日はテーブル席の方についたみたいだ。
ロイは他の給仕係さんにだと緊張してしまうのかうまく注文ができないみたいなので、早く注文を聞いてきてあげなきゃ。
そして早く食べてもらい、早く帰ってもらおう。
【腐】属性魔法女子トリオが来る前に……
ボクが注文を取りに行ってあげると、ロイは端的に「いつもの」と料理を注文してくる。
いや、「いつもの」で良いならボクじゃなくても良いじゃん!とは思うんだけど、「銀の乙女亭」はボクを除けば他の従業員さんはみんな女性なので、ロイはちょっと気をつかってしまうのかもしれない。
美人な人が多いしね?
でもボクも女性であることを考えれば「銀の乙女亭」の従業員は全て女性なのであった……
ちなみにロイの言う「いつもの」とは「バジリコとナッツのピラフとディナーセット」のことである。
「バジリコとナッツのピラフ」はみじん切りにした玉ねぎ、5mm角に刻んだニンジン、スライスしたマッシュルーム、細かく刻んだミックスナッツをニンニクといっしょにオリーブオイルで炒め、それをお米に加え、香味野菜をじっくり煮込んで作ったブイヨンで炊き上げたピラフで、仕上げにケレブリエルさん秘伝のバジリコソースをさっくりと混ぜて完成の一品。
バジリコソースを最後に加えて混ぜることでピラフは目にも鮮やかな緑色に染まり、バジルの爽やかな香りが食欲をそそるお料理。
ボクも大好きなお料理、お好みで香辛料を加えてお召し上がりください♪
そう、ボクも大好きなんだけど……
それがなんと大皿に小高い山のように盛られている……
大好きだけど、この絵を見ると食欲が湧かない……
だって緑色なのも相まって奈良の若草山みたいになってるんだよ!?
お皿が重すぎて片手では持てない……
お皿だって普通のピラフ用のお皿じゃなくてグループでシェアする料理を盛る大皿だし!?
ケレブリエルさんはロイが初めて来た時、「ニケちゃんのボーイフレンドが来てるんだったらサービスしなきゃね?」とボクをからかいながら、普段のお客さんに出すより大盛りでこの料理をロイに出した。
それをぺろりと食べるロイを見て、ケレブリエルさんの中の何かにスイッチが入った。
日増しにどんどんボリュームが増していくバジリコピラフ。
まるで体育会系の学生がよく通う街中華が、学生に喜んでもらいたくてどんどんボリュームが増えていき、最終的に大食い大会が開催されるくらいの勢いである。
ボクはそれを横目に見て、「少しは遠慮しなよ?ロイ」と最初思ったが、ケレブリエルさんも楽しそうにしていたし、あれだけの食いっぷりならいっそ清々しいし、あんなに美味しそうに食べてもらえたら作っている方としても嬉しいんだろうな、と考えを改めた。
ちなみに今日の「ディナーセット」は、三色野菜のピクルス――黄色パプリカとキュウリ、ベビーキャロット――にオニオンスープ、メインが鳩の香草焼き…… あっ! この鳩美味しいやつだ!
これは鳩のお肉をニンニク、ローズマリー、セージなどのハーブと一緒にオーブンで焼いたやつです。
鳩も表面の皮がサックサクな食感で、ローズマリーの香りも効いてて美味しかった!
今日もケレブリエルさんは良い仕事をするな~と思いながら、ロイの方を見たらすでにバジリコピラフは半分くらいまで減っている。
いやなんか、最近、ケレブリエルさんに鍛えられてか、ロイの大食いレベルも上がっている気がする。
今のロイのステータス画面を見たら、職業が「戦士」から「フードファイター」にクラスアップしているかもしれない……
「あら? やっぱり今日もロイくん来てるのね?」
と声が聞こえ、振り返ったらバジリコピラフに負けないくらいの緑色をしたツインテが目にうつる。
ああ、やっぱり今日も間に合わなかった……
エスメラルダさんは【腐】のオーラを嗅ぎ分ける敏感なセンサーでも付いているようで、普段はそんなに早く帰ってこないのに、ロイが来るときだけは必ずその時間に帰ってきた。
その後からやってきたモルビアさんはすでに怪しげな半笑いを浮かべている。
「やっぱりあなたたちBLな関係でしたのね?」という心の声が聞こえてきそうだ……
二人の後ろに控えるアマラさんは「
こうやってアンヌンの女性冒険者たちの間では、「ロイがニコに会いに来る口実で『銀の乙女亭』に通っているらしい」という噂がまことしやかに囁かれ、そういうカップリングを楽しむ【腐】属性魔法女子たちで今宵も「銀の乙女亭」は賑わうのであった。
【腐】属性魔法女子トリオはロイにほど近い席に陣取り、ニヤニヤとロイを眺めている。
エスメラルダさんは、
「あんた、最近、鉄等級に上がったらしいじゃない? まだ冒険者を始めたばかりなのにやるわね?」
とか、
「もっとしっかり食べて、魔素を蓄えて強くなりなさい! ほら、私のお肉もあげるわ!」
と言って、自分の料理のお皿をロイのテーブルに置いたりする。
そうすると周りの他のテーブルについている【腐】属性魔法女子たちも、「あっ!エサあげても良いんだ?」みたいな雰囲気になり、ケレブリエルさんの元に注文が殺到する。
そうやってあれよあれよという間にロイのテーブルはお料理のお皿で埋め尽くされ、大食い大会が開催されるという訳である。
でもみんなただ食べ物をロイにあげてるだけじゃなく、先輩冒険者としてもあれこれアドバイスをしているみたいで、「銀の乙女亭」には戦士系の職業の人が宿泊することはあまり無かったけど、魔法職として前衛にはどう動いて欲しいみたいなことをロイにアドバイスをしているようだった。
魔法職は戦士系や騎士系などの前衛職と比べて
呪文の詠唱中に突っ込んでこられると詠唱が中断されもするし、前衛の人がちゃんと敵の
最近、ロイはこういった行動をスムーズに取れるようになってきていて、そのお陰かボクとロイの連携もうまくいくようになってきている。
今ではボクとロイの二人で魔野菜の
ロイはロイで先輩冒険者からアドバイスをもらうと、「勉強になります!ありがとうございます!」と素直に答えていて、こういう素直さも彼女たちにウケている理由なんだと思う。
彼女たちからすると、「まだ収入が少ない初級冒険者の実直な少年が、自分が好きな冒険者仲間の少年に会いに来る為にちょっと背伸びして良いお店に通っている」というシチュエーションが「ほほえま~」な感じらしい。
誤解されているのはちょっとあれだけど、これはこれでロイの実力アップにつながってきているし、ボクとしてもロイとの連携が取りやすくなってきているからまぁ良いかと思ったりもする。
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