閑話 ニケの勉強ノート:『魔法基礎理論~元素の属性について~』

 ボクがセフィラ級『王国マルクト』ダンジョンで目覚めてから、すでに二カ月が経っていた。

 ボクは相変わらず「銀の乙女亭」で居候をさせてもらいながら、冒険者を続けている。


 最近、Lv6に上がった時に冒険者ギルドのアイシャに呼び出され、等級審査があるから面談をさせて欲しいと言われた。

 面談でアイシャはボクのステータス画面の閲覧を求め、ボクは自分の『ステータス』を開き、アイシャへの閲覧許可を行った。


 通常の『鑑定』では本人が持っている『鑑定』のレベルが低かったり、相手が『鑑定』されることを防ぐ魔術や魔法、スキルを発動させている、あるいはアイテムの装備などによって『鑑定』を防いでいるといった場合に十分な閲覧ができない。

 だから相手が『ステータス』を開いた上で、『ステータス』閲覧の許可を認めてもらう必要がある。


 バロラも『王国マルクト』ダンジョンのセーフティ・スポットでボクの『ステータス』について話していた時に『ステータス』の閲覧許可を求めたが、彼女は意外と『鑑定』のレベルが低かったりしたのだろうか?

 それとも難関ダンジョンの深層の封印された箱からよみがえったボクをまだ警戒していて、自ら『ステータス』の開示をするように求めたのだろうか?


 アイシャはボクの魔術LvがLv3に上がっているのを確認すると、現在使える魔術がどのくらいあるかを確認してきた。


「そうですか、ニコさんはもう火、風、水、土、闇の全魔法属性の初級魔術をマスターされているんですね。そこまで魔術が扱えるようになっているのでしたら、鉄等級に上がっていただいても問題無いでしょう。私の方からギルド長に上申させていただきますね? 最終的な決定はギルド本部から降りてきますので一週間くらいかかるでしょうけど、Lv6で鉄等級に上がるのはなかなか異例の早さですよ!」


 確かにロイはすでにLv7まで上がっているけど、まだ木等級だ。

 もうそろそろ等級審査があるかもしれないとは言っていたけど、彼が鉄等級に上がるにはLv8くらいまであげないといけないかもしれない。


 ボクはアイシャに等級審査のお礼を言うと、「銀の乙女亭」に戻ってケレブリエルさんの仕事のお手伝いをした。


 ボクは今、週に5日、冒険者ギルドのクエストをこなし、週に3日、「銀の乙女亭」でお手伝いをさせてもらっている。

 ケレブリエルさんはお手伝いをしてもらっているお礼と言って、ボクに闇属性以外の4属性の初級魔術を教えてくれた。


 ボクは、


「安く住まわせてもらっているお礼でお手伝いをさせてもらっているので、そこまでしてもらったら申し訳ないです……」


 といちおう申し出たのだが、ケレブリエルさんは、


「娘が冒険者になってここを巣立って行ってから、私もこうやって誰かに魔術を教えたりとかするのも久しぶりだし、楽しいのよ。だから気にしないで私の好きにさせて」


 と言い、結局ボクはケレブリエルさんのご厚意に甘えさせてもらうことになった。


 冒険者ギルドのクエスト後に「銀の乙女亭」の飲食店営業のお手伝いをさせてもらった後、ボクはケレブリエルさんから従業員用の賄いご飯をいただき、魔術のてほどきを受ける。

 仕事を終えた後は自分の部屋に戻り、ケレブリエルさんから借りていた本『魔法基礎理論 ~元素の属性について~』を読んで魔術の勉強をする。


 この本もあと少しで読み終わる。

 この本に書かれていたことをまとめるとだいたいこんな感じの内容だった。



 ――【勉強ノート:『魔法基礎理論~元素の属性について~』のまとめ】――


 魔法元素について:

 魔法や魔術を行使する際にその元になる最小構成単位の魔法物質。

 人や幻獣の心の働きに反応してその願望を実現させる性質があり、基本的なものとして4つの元素、火、風、水、土が存在する。

 魔法元素の発生についてはダンジョンや世界樹が関連しており、そこで生み出されたものが世界中に充満し、人間はどこでも魔法や魔術を使えるようになっている。


<四元素の特徴>

◇火◇

性質:温にして乾

形相:燃焼・反応・変化

運動:上昇↑

質量:最も軽い

シンボル:正三角形

色:赤

有利・不利:風に強く、土に弱い


◇風◇

性質:温にして湿

形相:大気・拡散性

運動:上・横←↑→

質量:軽い

シンボル:底辺の少し上に線一本引いた正三角形

色:緑

有利・不利:水に強く、火に弱い


◇水◇

性質:冷にして湿

形相:液・流動性

運動:下・横←↓→

質量:重い

シンボル:逆正三角形

色:青

有利・不利:土に強く、風に弱い


◇土◇

性質:冷にして乾

形相:固体・凝縮性

運動:下↓

質量:(四元素で)最も重い

シンボル:底辺の少し下に線一本引いた逆正三角形

色:黄

有利・不利:火に強く、水に弱い


※物質の三態(固体・液体・気体)と火は燃焼(化学変化・反応)と関連すると考えられている。

※「形相」は「能力」みたいなもの。「どんなことが出来るか?」ということ。

※「運動」は魔術士にはあまり関係が無い? 前衛や中衛の職業にも魔法適性はあり、「運動」は前衛・中衛の武技などと関係があるらしい……

※シンボルは魔術の行使の際に術式の一部として描くものでもあるけど、合成魔術とか魔法のような高度なものになってくると、呼び出す力の性質やそれによって引き起こされる現象も複雑になる為、他のシンボルやルーン文字などを描くこともあるようだ。


【魔法適性について】

 魔法適性には火、風、水、土の四元素属性に準ずるものと、それ以外に光と闇の合計6種類が存在する。

 魔法適性とはされているが、いわゆる魔法として捉えられているのは火、風、水、土に闇を加えた5つの適性だけであって、光適性はこれとは全く違ったものとして考えられている。

 実際、魔法系統の5属性の適性と光属性の適性は同じ人物に同時に発現することはない。

 火、風、水、土と違って光と闇の魔法元素は発見されていない。



【属性元素の合成について(合成魔法・合成魔術)】

 四元素を2種類以上合成することで新たな性質の属性を生み出せる。

 合成元素というのは発見されていないが、魔物の体内では複数の四属性元素が混ざることによって合成属性の魔晶石を形成していることがある。

 詳細は『魔法応用理論 ~合成属性について~』を参照。


<四性質の特徴>

 温・冷:エネルギーを熱として捉えたもの。温は熱を高め、冷は熱を下げ、抑制する。

 湿・乾:エネルギーを運動として捉えたもの。湿は運動を促進させ、乾は運動を抑制し、停止させる。


――――――――――――――――――――

性質 |物質への働きかけ |特徴


温  |上昇させる    |熱量を高める

冷  |上昇する力を   |熱量を下げる

    抑制する

湿  |横に流れる、広がる|物質を運動

    物質はゆるむ    させる

乾  |横に向かう力を抑制|物質を停止

    し、停止させる   させる

――――――――――――――――――――



<光属性と闇属性>

 光:

 光属性は聖神教の神官が用いる神聖術に対する適性のことを指す。

 あらゆる魔法と相克する為、魔法を弱めたり、消滅させたりする防御法術なども存在する。

 神聖術は治癒、バッドステータス解除、蘇生、結界、魔法防御などが主な役割。

 光の魔法元素が発見されていない為、無属性元素と関りがあるのではないか?とされているが結局よく分かっていない。

 聖神教は神秘を暴く行為を神への叛逆としている為、神聖術のメカニズムを研究すること自体あまり良く思っていない。

 神聖術=聖神教と考えられがちだが、他にも奉火教、ミドラ教などのマイナー宗教でも使い手がいる。※ただし聖神教の神聖術とは微妙に異なる。



 闇:

 光同様、闇の元素は発見されていない。

 ただ光と違い、闇属性の魔晶石は存在することから、合成属性と考えられている。

 無属性なのではないか?とも言われていたが、四元素合成(四種合成)だということが最近分かってきた。

 結局、四種合成することで無属性になる(※温と冷、湿と乾の四性質がお互いを打ち消しあうので)のではあるが、他の合成魔術と一緒で無属性を無属性のまま運用している訳では無いと考えられている。


 他の合成魔術と違うのは、

①二種合成は冒険者レベルで言うと銅等級クラス以上、三種合成は白銀等級クラス以上と成長して魔術レベルが上がらないと使えないのに対し、闇属性は適性があれば魔術レベル1から使用が可能である点

②闇属性だけは火、風、水、土の四属性の全てに適性があっても使えず、別途、闇属性の適性が必要であること。(逆に四元素全てに対する適性が無いのに闇属性に適性を持つ者もいる)

※他の合成魔術は、その元となる四元素に対する魔法適性があり、魔術Lvが足りていれば身に着けられる。


 闇属性の初級魔術は混沌魔弾ケイオス・バレット剛力の盾フォース・シールドなど、中級で重力操作、上級・最上級で時空を操る。


<光>

性質:秩序

形相:法・掟

運動:不明

質量:不明

シンボル:円

色:無

有利・不利:闇と相克、他属性に優位


<闇>

性質:混沌

形相:力・可能性

運動:全方向←↑↓→

質量:あらゆる属性の中で最も重い

シンボル:六芒星

色:暗緑色

有利・不利:光と相克


※おそらく闇は究極の「有」で光は「無」。だから光の質量や色も厳密には「無」であり、対応元素も無し。元素に作用する魔法というより魔法を働かせるシステムそのものと関連がある?


 ――――――――――――――――――


 合成属性の魔術や魔法についても勉強したかったが、それは『魔法応用理論 ~合成属性について~』という本に書かれてあるらしく、「銀の乙女亭」には置いてなかった。


 ケレブリエルさんに質問しても、


「合成属性の魔術は銅等級以上の中級冒険者になってからだから、今は基本をしっかり身に着けた方が良いわよ?」


 と言われてしまい、銅等級に上がれるようになるくらいまではお預けとなった。



 そう言えば、中級冒険者の銅等級まで上がるとダンジョンにも潜れるようになる。

 そうしたらいつか『王国マルクト』ダンジョンにも潜れるようになるんじゃないか?


 ボクが目覚めた場所だから、そこにも何かヒントがあるかもしれない。

 ボクはふとそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る