第13話 仮想現実の魔法
夕食を食べ終えた後、ボクは「銀の乙女亭」の屋根裏部屋で一人で過ごしていた。
ケレブリエルさんが「今日はクエストで疲れたでしょうから、部屋でしっかり休みなさい!」と言ってくれたように、まだクエストに不慣れなボクはけっこう疲れていたらしく、夕食を食べたらすぐに部屋に戻ってベッドで横になった。
疲れていて眠たかったはずなのになぜか全然眠れない……
やっぱりこれまで隣に居てくれたバロラが居なくなってしまったからだろうか?
やっぱりボクは不安なのだろうか……?
ボクはバロラからもらった迷宮遺物の指輪をぎゅっと握る。
この指輪は
握っていると少し暖かいような感じがする。
ボクがこの世界に取り込まれてすでに3日が経過しようとしていた。
もはやボクにとっても、感覚的にはこの世界は
ボクをこの世界に取り込んだ犯人からのアクションは何もなく、解決の糸口は未だつかめていなかった……
昨日の魔術特訓の帰り道、バロラはボクの魔術の習得の早さを褒めてくれた。
「やっぱりあなたって魔法系の才能があるのね? 初級魔術とは言え、たった半日で使いこなせるようになるとは思わなかったわ! 普通は二週間くらいかけて身に着けるものなのよ?」
と彼女は言っていた。
通常、冒険者ギルドの初級冒険者養成所で提供されている魔術講座でも、二週間のプログラムを組んでいる。
二週間の間に魔法と魔術の基礎理論を教え、初級魔術の使い方を学び、実際に発動できるところまで持っていって、最後に実戦で使えるかをテストする。
ここまでで普通は二週間をかけているということだ。
それをたった半日で出来てしまうということは、
バロラは「すごい才能があるのよ、きっと!」と言っていたけど、実はボクは過去にこの世界の魔法や魔術を使ったことがあるような気がする。
いや、使ったことがあるどころか、むしろ精通しているとさえ言える気が……
この世界の魔法のシステムはボクが
『アポカリプス・ワールド』は世界初の
「ようやくアニメや漫画、ラノベで出てきた
遠くの友人や家族といっしょにおしゃべりしたり、食事をしたり、飲み会なんかをすることも出来たので、その機能がユーザ層を次第に拡大していき、ついにはゲームのプレイ人口が歴代最多の10億人超を記録していた。
このゲームは、ゲーム世界内に存在する22のタロットカードの
ボクはこのゲームの中でも魔術師をしており、プレイヤーたちの間でもちょっと話題になるくらいの凄腕プレイヤーだった。
だってボクはこのゲーム世界の魔法システムを構築するプロジェクトに携わっていた人間だからだ。
魔法システムの構築に携わっていたボクは、『アポカリプス・ワールド』の世界で自由自在に魔法を操ることができ、全世界のプレイヤーたちからも一目を置かれる存在になっていた。
▼▼▼▼
ボクがこのゲームの魔法システム構築に携わるきっかけは2026年――ボクが高校一年生だった年――の秋に訪れた。
ボクは高校生にあがってしばらくすると、もう身体が自由に動かせなくなってしまい、病院のベッドに寝たきりの状態になってしまっていた。
ある日、厚生労働省の役人から、ボクと会って話がしたいという連絡を受けた。
ボクが患っていた筋委縮性難病が国の指定する難病でもあったので、ボクはおそらくそのことについての話をしに来るのだろうと、連絡を受けた時は思っていた。
それは半分正解で半分不正解だった。
ボクのところにやってきたのは、厚生労働省の医政局という部署の中にある指定難病担当者の人と、あともう一人まったく別の職業能力開発局という部署の能力開発を担当している人の二人だった。
ボクは最初、彼らがやってきた時に一体何の話をしにきたのかまったく分からなかった。
指定難病の担当者は分かる。
ボクが患っていた筋委縮性の難病は国の指定難病だ。
「どんなご苦労がありますか? 何か国でお手伝いできることはありますか? 国の支援制度でこんな制度がありますよ?」など、ボクの現状をヒアリングしてそれに対するサポートをすることは、彼らの仕事の内の一つでもあっただろう。
だけど、職業能力開発局の能力開発担当者が来たのはまったく意味不明だった。
もはや身体を起こすこともできず、会話もままらなないくらいに筋肉が衰えた状態のボクに、今更何の能力を開発し、どんな仕事をさせたいのか?
最初はボクもそう思っていた。
「これからの時代、VRの中であればあなたと同じ病で苦しんでいる人でも自由に活動し、働くこともできる時代になってきます。我々と一緒に新たな可能性を広げる為のプロジェクトにご参加いただけませんか?」
彼はボクにそう提案してきた。
ボクとしても医療用のVRを活用しはじめていたところで、VR技術そのものに興味を持ち始めていた時期だったので、良い機会だと思い、このプロジェクトに参加させてもらうことになった。
それが『VR魔法研究プロジェクト』という日米共同のVR研究プロジェクトに、ボクが被験者として携わるようになっていくきっかけだった。
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