第11話 イーヴィル種

「「「ゴンサクさん! ごちそうさまでした!」」」


 ボクたちはお昼ご飯におにぎりをごちそうしてくれたクエストの依頼主であるゴンサクさんにお礼を言った。


「良いべ、良いべ。野菜たちも美味しそうにいっぱい食ってもらえたから喜んどる」


 そう言って、ゴンサクさんは屈託なく笑った。



 午後に入り、お昼休憩を終えたボクらは、また魔野菜討伐作業を再会した。

 とは言え、午前中にあらかた魔物化したものは討伐済みなので、あとは見回りをしつつ、農家さんの収穫のお手伝いをするだけだった。


 ゴンサクさんの畑は川縁かわべりの草原のような平地にあり、春の陽光が穏やかに照らしている。

 吹き抜けていく風が草原の草や花々をゆらゆらと揺らしながら優しくなでていく……

 その風の感触が農作業をして汗をかいているボクたちにはとても心地好く感じられた。



 日が傾き始めて、ボクたちがそろそろ作業を終わりにしようと話していた時に異変が起きた。

 ゴンサクさんのところの従業員の青年が悲鳴を上げる。


「ひーっ!! 邪悪イーヴィル種だっ!!」


 慌てた彼は足をもつれさせて転がり込むようにこちらに駆けてくる。


「あっりまぁー、ありゃ毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイト邪悪イーヴィル種だべ。よそからこっちに移動してきたべなぁ」


 と、ゴンサクさんは少し悲しそうな顔をする。


 ゴンサクさんは魔物化した魔野菜が他の野菜を捕食して駆逐しないように定期的に駆除していると言っていた。

 それが畑を維持する為に必要なことだと。


 よそから移動して来た邪悪イーヴィル種は、このまま放置していたらゴンサクさんのところの畑の野菜をことごとく捕食しつくしてしまうかもしれなかった。

 ボクはせっかく良くしてくれたゴンサクさんに何とか報いたいと思い、邪悪イーヴィル種のステータスを『鑑定』する。


 ――――――――――――――――――――――――――

 名前:邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイト

 種族:ナス科ナス族ポテイト種


 Lv12

 ◆HP:300/300

 ◆MP:60/60

 ◆STR:16

 ◆DEX:13

 ◆VIT:14

 ◆AGI:7

 ◆INT:3

 ◆MND:4

 ◆LUK:8

 ◆CHA:6


<スキル>

 毒術Lv3、蔦攻撃Lv2


<魔法適性>

 『鑑定』レベルが低い為、閲覧不可


<称号>

 『鑑定』レベルが低い為、閲覧不可

 ――――――――――――――――――――――――――


 どうしよう?

 昨日バロラといっしょに討伐した小・邪樹妖レッサー・トレントよりも強そうだ。

 毒術Lv3はけっこう厄介かもしれない……


 ボクは自分では判断がつかないので、臨時パーティーのリーダーをしてくれているテミス君の判断を仰ぐことにした。

 テミス君もなかなか判断が付かないのか、下唇を嚙みながら少し難しそうな表情をする。


「テミス君、やっぱりここは撤退するべきでしょうか?」

「セオリーでいけばそうなるな…… オレたち3人が協力すれば討伐できないことも無いのかもしれないが、少しレベルが離れている……」

「大丈夫ですよ! 俺たち3人が力を合わせればあんなヤツ倒せますって!」


 さっき、冒険者としての初討伐を果たした少年ロイが、勢いづいて前のめりの発言をする。

 確かに三人がかりでなら倒せなくも無いのかもしれないけれど、おそらく冒険者の基本としては危険を避けるべきなのだろう……


「なあ、ニコ。さっき君が自分に使っていた『剛力の盾フォース・シールド』って、オレにも張れるか?」


 テミス君が真剣な面持ちとハスキーボイスでボクに尋ねてくる。


「えっ、いや、出来なくはないみたいですけど、やったことないですよ?」

「よし、なら『剛力の盾フォース・シールド』をオレに張ることが出来たのなら討伐をしよう。オレに張った後はロイにも張ってあげてくれ。シールドを張ったあと、ニコは後方待機で様子を見ながら『混沌魔弾ケイオス・バレット』で援護をしてくれ」


 作戦が決まってボクたちは動き出す。


 ボクは魔法の短剣で宙に六芒星を描きながら詠唱する。


「混沌よ、力の根源よ、彼の者の盾となりて、敵を退けよ! 剛力の盾フォース・シールド!」


 初めてのことでうまくいくか少し心配だったけど、なんとかテミス君にシールドを張ることができた。

 でもシールドはボクが敵の攻撃を認識していないと自動追尾の防御をしてくれないので、敵に意識を向けながら急いでロイの分のシールドも展開する。


 ボクがロイのシールドを展開していると、テミス君はおもむろに首飾り――獣の牙に紐を通して作られたお守り――を左手で握りしめながら呪文を詠唱する。


「偉大なる森の女神ケルヌンナの眷属たる金熊ウルサよ、汝がすえたる我に力を授けよ! 金熊強化術ベア・リーンフォース!」


 詠唱が終わるとテミス君の身体を金色の光輝が包む。

 テミス君の身体は筋肉が隆起し、ボクは実際に身体が大きくなったのではないかという錯覚を覚えた。

 先ほどの詠唱はどうやら肉体強化系の魔術のようだ。


 ――ダっ!


 テミス君が今までの1.5倍くらいのスピードで敵に猛突進していく。

 シールドを張り終えたロイも後を追ってテミス君の援護に向かう。


 ――ズバっ! ザシュっ!


 テミス君は左手に鉈、右手に手斧を持って邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトに斬りかかる。

 迎撃しようと、邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトは禍々しく紫に変色した蔦でテミス君に襲い掛かった。


 ――ズババババっ! ガンっ! バキっ!


 テミス君は群がる毒蔦の多くを切り裂いたが、いくつか打ち漏らしもあり、それらはシールドによって弾かれる。

 途中、テミス君のあまりにも速い動きにボクの意識が追い付かず、一発、頬に命中してしまったがそれに構わずテミス君は猛攻を続ける。

 毒攻撃は大丈夫なのだろうか?と心配になったが、ロイが少し距離を取りながら投擲術Lv1を使って近くの石を投げつけ援護をしてくれる。


 ――ガンっ


 テミス君の猛攻に意識を取られていたのか、邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトにロイの投石が命中する。


 ダメージはさほど通らなかったようだが、本体が少しぐらついた。


 ――グワっ! ザンっ!


 テミス君がその隙を見逃さず、本体に鉈を叩きつける……が、邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトも必死に身をよじってなんとか直撃は避けた。


 ――シュルルルルルっ


 本体にダメージを負わされた邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトは、状況を不利と判断したのか逃走を計ろうとした。


「混沌よ! 力の根源よ! 我が眼前に弾となりて、敵を穿て! 混沌魔弾ケイオス・バレット!」


 ――ビュンっ! ドゴっ!


 逃げようとする邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトの進路をふさぐべく、ボクは混沌魔弾ケイオス・バレットを放つ。

 目の前に力の塊を弾丸として撃ち込まれた邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトは、着弾の衝撃で少し後方に吹き飛ばされた。


「よくやった!! ニコ!!」


 ――ドギャっ!!


 テミス君の渾身の手斧が邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトの本体に直撃する!

 致命の一撃を負わされた邪悪・イーヴィル・毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトは、伸ばしていた毒蔦を力なく落とし、絶命した。



 戦闘を終えたボクたちの下に慌ててゴンサクさんが駆けつけてくる。


「おめえたち! 邪悪イーヴィル種を倒しちまっただか!? いや、そんなことよりも毒蔦をくらって毒にかかってるんでねえか? オラがちょっくら見てやる!」


 毒蔦の一撃をもらっていたテミス君を心配してゴンサクさんが治療をしようとする。


 テミス君は、


「ゴンサクさん、大丈夫です。肉体強化の魔術を使っていたのである程度、毒も打ち消せているはずです。それにオレは獣人族だからヒト属より回復は早いんですよ。貴重な毒消しの治療薬ポーションを使ってもらわなくても大丈夫です」


 と謙虚に辞退しようとするも、ゴンサクさんは、


「バーカ言ってんでねぇ! オラの畑さ、守ってくれたおめえに毒消し治療薬ポーションを使うことなんてもったいなくも何ともねえだ!」


 と引かず、テミス君は諦めてゴンサクさんの治療を受けた。



 ボクは格上の邪悪イーヴィル種を倒せたことが嬉しくて思わず、ロイとハイタッチしてしまう。


「やったね! ロイ! ボクたち邪悪イーヴィル種を倒せたよ! やったーっ!!」


 ピョンピョン跳ねて喜んでいるボクを見て、ロイは少し顔を赤くした。


「ニコ、お前そんな風にしてるとまるで女の子みたいだな……?」


 ボクは邪悪イーヴィル種を倒せた嬉しさのあまり、少しはしゃぎすぎてしまったみたいだ。


 無事、邪悪イーヴィル種を倒したボクたちは魔晶石を回収し、魔晶石が形成されていた種イモ以外の芋も収穫した。

 やっぱり魔素が濃い方が美味しいらしく、邪悪イーヴィル種のポテイトはお昼に食べた毒蔦馬鈴薯ポイズン・ポテイトよりも美味しいらしい。


「倒してくれたお礼だ!」


 と、ゴンサクさんは気前よく邪悪イーヴィル種の芋をボクたちにも分けてくれた。


 農作業を終えたボクたちは、収穫した馬鈴薯ポテイト赤茄子トメイトを積んだ荷車を押してアンヌンに戻ることにした。

 アンヌンに着くと、ゴンサクさんはボクたちについてきて冒険者ギルドでクエストの達成を報告してくれる。


 これでボクたちもクエスト終了だ。


「ニコ。ロイ。今日は助かったよ。またクエストで被ったらよろしく頼むよ!」


 と、テミス君が握手を求めてきたので、ボクは喜んで握手をさせてもらった。


「おっ、俺もまたいっしょのクエストになったら……よろしく頼むな? シールド助かったぜ!」


 と、ロイも顔を赤くして少しもじもじしながら握手をしてきた。


「ボクの方こそ、今日はいっしょにクエストを受けてくれてありがとう! また一緒に受ける時はよろしくね!」


 と、ボクも元気に答え、それぞれの家路についた。

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