シャンパンに氷、泡沫にピアス

星雫々

月暈ピアス

月暈ピアス:序曲




この世には不思議なことに、飄々と存在する。






東京タワーの高さをも超え、ムサシとかいう羞恥を顧みぬ語呂合わせを象徴した塔が出来ることも、今年の梅雨は長いことも、明日天気が急変することも、なにもかも知っているみたいに夢幻を体現した、そんな人間が。











─── やがて、貴方は、幻だったのだとも言うかのように消えてしまうの?





 夢夜に擬態した扇情的な朧月を思わせるあの瞳と、哀を闇夜に溶かした笑みを携えて。












「…ねえ、」











 呼びかけては言葉を、喉元へと返す。

 

 放ってしまうことで手放すのが怖い。




 呼びかけるそれに直接的な答えを与えてはくれない。


漆黒の細長い睫毛を静かに伏せる、ただそれだけ。


ああ、なんて、酷薄なんだろう。




 おぼろに揺れる春でも、銀河なんて見えない夏でも、知性に震う秋でも、混沌に凍える冬でもない、シュンカシュウトウの概念から逸し、水を注いだ砂上の楼閣。





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