第13話 ソロンの戦い
俺は宝剣テトラコルドを構えた。
一方のテオドラも後ろの二人にチラりと目配せをした。
戦闘開始の合図だろう。
テオドラの後ろに控える魔術師たちが攻撃魔法を放った。
紅蓮に燃え盛る火の波がこちらに襲いかかってくる。
このままではフィリアも危ないけれど、慌てる必要はない。
俺は宝剣を一閃させ、一歩前へと踏み込んだ。
俺が剣を振るうのと同時に、周りの炎が消えていく。
魔術師たちは驚愕の表情を浮かべた。
俺は魔術師の片方との間合いを詰め、彼の喉元を剣の柄で突いた。
ぐえ、と苦しげな音を立て、その魔術師は崩れ落ちた。
魔法剣士の最大の特長は一人で防御と攻撃を同時にできることだ。
宝剣テトラコルドを振りかざして敵の魔法を払い、そしてそのまま敵に切り込んでいく。
それが俺の戦闘のスタイルだった。
こうやって、昔はそれほど強くなかった聖女ソフィアと聖騎士クレオンを守りながら戦っていたんだ。
くるりと剣を反転させ、もうひとりの魔術師には炎魔法をお見舞いする。
彼の身体の周りは青白い炎がまとわりついていた。
魔術師が燃える自分の服を見て絶叫する。
「ぎゃああああ!」
「大丈夫。死ぬほどの威力じゃないさ」
俺はつぶやくと、魔術師の男の腹にすばやく蹴りを入れた。
ぐふっと、口から変な音を立てて、魔術師は気を失った。
残るは一人。
短剣を握ったテオドラだけだ。
テオドラは顔を真っ青にして、それでもこちらをまっすぐに睨んだ
仲間が四人倒されて、最後は自分だけになっても抵抗の意思を失わないのか。
大したものだとは思うけど、正直言って、さっさと降参してほしい。
「もうやめにしない? 君たちが死なないように手加減しながら戦うのって、けっこう疲れるんだよ」
テオドラは怯えたように後ずさった。
「これで、これで手加減しているの!?」
「殺すつもりで戦えば、もうとっくにテオドラさんは死んでいるよ」
俺はなるべく冷淡に言った。
テオドラが戦意喪失するまであと一歩。あと一押しのはずだ。
けれど、テオドラは急に笑みを浮かべた。
「どうせ勝てないなら、私も手段を選んではいられませんね」
「どういう意味?」
「こういうことですよ!」
テオドラはすばやく短剣を投げ放った。
綺麗な弧を描いた凶器はまっすぐにフィリアの方へと飛んでいく。
「ソロン!」
フィリアが悲鳴をあげると同時に、俺は剣を振るい、短剣を叩き落とした。
しかし、次の瞬間、テオドラが二本目の短剣を握ってこちらに飛び込んでくる。
「フィリア殿下には生け捕りにしておく予定でしたが……こうなった以上、ここで死んでいただきます!」
テオドラは叫ぶと、短剣をフィリアへと向けて突き出した。
俺はフィリアの正面に立ち、短剣を剣で受け止めた。
そのまま短剣を弾き返す。
テオドラの狙いは外れた。もうフィリアを殺すのは不可能だ。
テオドラは悔しそうな顔をして、一歩下がって逃げ出そうとする。
俺はそれを追い、剣を一閃させた。
テオドラは短剣で俺の攻撃を受け止めようとしたが、失敗した。
宝剣テトラコルドの斬撃を支えきれず、短剣は砕け散ったのだ。
「終わりだ」
俺は短く言うと、テオドラに魔法をかけた。
テオドラは意識を失ってその場に倒れた。
簡単な昏睡魔術だ。しばらくは目を覚まさないだろう。
ほっとした俺は剣を鞘にしまった。
それから後ろを振り返る。
フィリアは泣きそうな顔でこちらを見つめていた。
俺はにこりと微笑む。
「ご無事ですか、フィリア様?」
「う、うん。平気だよ。ソロンのおかげだね」
「怖くありませんでしたか?」
「怖かった。すっごく怖かったよ」
小さな身体を震わせて、フィリアは言った。
万に一つもフィリアには危害が及ばないように配慮していたし、テオドラが短剣を投げたときだって、俺の目線では何の不安もなく攻撃を防げていた。
けれど、フィリアにとっては違ったはずだ。
殺意を持った相手が、自分を狙ってくる。
目の前に人を殺すための凶器が迫る。
それを目にするのは、14歳の女の子にとっては、とてつもなく恐ろしかったはずだ。
「でも、もう大丈夫です」
「うん。ソロンがわたしを守ってくれたおかげだね」
フィリアは深呼吸をすると、やがて落ち着いたのか、柔らかく微笑んだ。
「わたしはね……ソロンみたいになりたい」
フィリアはそう言うと、ゆっくりと俺に近づき、そして抱きついた。
ぎょっとした俺は慌ててフィリアを押し留めようとしたが、それより先にフィリアの小さな手が俺の背中に回る。
フィリアはぎゅっと俺を抱きしめたまま、頬を赤く染めて、上目遣いに俺を見た。
「ありがとうね。ソロン」
「ええと、どういたしまして」
困惑する俺を見て、フィリアは顔を赤くしたまま、くすくすっと笑った。
「こんなところ、クラリスに見られたら、『大胆ですね』ってからかわれちゃう」
「あー、フィリア様。非常に言いにくいのですが、クラリスさんになら見られていますよ」
「え?」
俺はフィリアの後ろを指差した。
メイド服の少女がそこには立っていた。
亜麻色の短髪をした、小動物っぽい雰囲気の子だ。
メイドのクラリスだ。
クラリスは顔を真っ赤にして、そしてつぶやいた。
「フィリア様、それにソロン様。大胆ですね!」
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