第11話 悪魔の娘を見せしめに
夜闇に紛れて、俺と皇女フィリアは皇宮を抜け出した。
クラリスの監禁場所へと向かうためだ。
フィリアにとって、皇宮の外に出るのは久しぶりらしい。
そのせいか、少し落ち着かない様子であたりをきょろきょろと見回していた。
フィリアはふたたびメイド服を身に着けていた。
身分を隠さなければ自由に外出できないからだけれど、皇女の銀色の綺麗な髪はやたらと目立ち、いつ正体がバレるんじゃないかとビクビクものだった。
もしバレれば、俺が皇女を皇宮から勝手に連れ出した誘拐犯だと誤解されかねない。
クラリスを助けるための非常事態とはいえ、ちょっと気が引ける。
帝都のハズレのあまり治安の良くない地区に足を踏み入れる。
「このあたりで別行動をとることにしましょう」
俺が言うと、フィリアは不安そうにうなずいた。
敵は皇女一人で来るようにと言っている。
だから、フィリア一人を交渉の席につかせ、俺はそれを隠れた場所から見る。
敵の戦力が把握できたとき、またはフィリアに危害が加えられそうになったら、俺が飛び出して戦闘に参加。
そういう手はずになっている。
ついに指定された廃屋の前に来た。
いまは深夜二時。
あたりには誰もいない。
フィリアは交渉相手の指定した場所に立ち、俺は隣の建物の物陰に身をひそめている。
小さな足音がした。
「まさか本当に皇女殿下が自らいらっしゃるとは」
現れた女性は言った。
黒い地味な普通の服装に身を包んだ女性は、俺も見たことのある相手だった。
そばかすが特徴的な、わりと美人の女性。
今日の昼間に、クラリスがいないことを告げに来たメイドだ。
やはり内部の人間が実行者だったのだ。
「あの手紙を置いていったのはテオドラだったんだね」
フィリアは言った。
テオドラ、とあの女性の名前は言うらしい。
「ええ。殿下が皇宮の衛兵に相談しにいけば、それを口実に殿下の周りに私の息のかかった衛兵が固める手はずでした」
「そうすれば、わたしを簡単に誘拐できるってことだね」
「でも、こうして殿下がここに来た以上は、そんな回りくどいことはしなくてすみます。殿下が家臣思いで助かりましたよ」
言葉とは裏腹にテオドラの声には嘲るような響きがあった。
フィリアは端正な顔を曇らせ、言う。
「クラリスは無事?」
「傷一つ負わせていませんよ。安心してください。私達は悪党ではありませんもの。あの娘は駄目メイドですけれど、殿下と違って汚れた血が流れているわけではありません」
フィリアが怯えたように後ずさった。
汚れた血?
帝国でその言葉が意味するのは――。
「皇女フィリア殿下。私は知っているんです」
「ダメ、言わないで、お願い……!」
「あなたは悪魔の娘だ」
俺は息を呑んだ。
悪魔。
遺跡に巣食う魔族と近い性質をもちながら、人間と同じ容姿を持つ存在。
彼ら彼女らは強大な力をもちながらも、人間から蔑まれ、奴隷にされ、迫害されてきた。
そして、彼ら彼女らは人間と子を作ることもできる。
「我らが皇帝陛下は本当に節操のない方ですね。悪魔の奴隷娘に手をつけ、孕ませてしまったのですから。その悪魔が殿下の本当の母親でしょう? 帝室は必死でそれを隠していますが、皇宮では知っている人も多いんですよ」
「わたしをどうするつもり……?」
「これを見てください」
テオドラは服の袖をめくった右腕を見せた。
彼女の右腕には禍々しい入れ墨が入れられていた。
俺は知っている。
その入れ墨は、人間至上主義の秘密結社「義人連合」の構成員の証だった。
義人連合の構成員たちはエルフ、獣人、そして悪魔といった人ならざる種族を憎み、彼らの抹殺を目的としている非合法団体だ。
テオドラは言う。
「私はですね、どうしても許せないんです。悪魔は人類の敵である魔族の仲間。それが平気な顔をして人間のふりをしているわけですよ。そんなのがそこらじゅうで人間と子どもを作り、挙句の果てに皇族にも紛れ込んでいるなんて、おぞましいことです」
「わたしのことを殺したいなら、なんでこんな面倒なことをするの?」
フィリアの言うとおり。
危険を犯してここに呼び出すよりも、宮廷にいるときに毒殺するという手もあったはずだ。
けれど、テオドラはにやりと笑みを浮かべた。
「いいえ。殿下には生きていていただかなければなりません。皇女殿下が悪魔の娘だと世間に公表すれば、悪魔に対する危機感は確実に高まります」
「その証拠としてわたしを生かして捕らえるの?」
「ええ。そして、役目を果たした後はなるべく残酷な方法でいたぶって殺してあげます。そうですね、例えば……殿下は処女ですか?」
「なっ……」
フィリアは絶句して、顔を赤らめた。テオドラはその反応をにやにやしながら見る。
「まあ、その反応で、箱入り娘の皇女とあれば、男の経験はないでしょうね。でも、これから嫌というほど男の相手をさせてあげますよ。陵辱して男に腰を振る娼婦に堕とし、その後に惨めな死を与えれば、世間への良い見せしめになることでしょう」
テオドラは愉しげに言った。背後の男たちも下卑た笑みを浮かべながら、フィリアの体をなめるように見ていた。
……許せないが、まだ動けない。
フィリアとテオドラが対峙しているあいだ、俺は何もしていなかったわけじゃない。
近くにいる敵の仲間の人数を探っていた。
気配からして五人程度。
索敵魔法も同様の答えを出している。
皇女を誘拐するという陰謀にあまり大勢を加えると発覚の危険性が高くなる。
それに皇女がここに来る可能性をテオドラたちは高く見ていなかった以上、大勢の人数を割く必要がない。
五人というのは、その意味でも妥当な数字だ。
俺は深呼吸をした。
そろそろ頃合いだ。剣を抜いて構えに入る。
「さて、殿下。少し眠っていてくださいな」
テオドラがそう言って小型の杖を懐から取り出したのとほぼ同時に俺は飛び出した。
【あとがき】
追放されたテイマーの復讐譚『追放された俺は、勇者のヒロインたちを寝取って性奴隷にすることにしました ~美少女の処女を奪うことでレベルアップするスキルが覚醒し、いつのまにか史上最強のダンジョンマスターに~』も連載しているのでよろしくお願いいたします!
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