【漫画10月発売!】追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる@カクヨム

軽井広💞キミの理想のメイドになる!12\

第一章 ソロンと皇女の出会い

第1話 器用貧乏の魔法剣士、追放される

 トラキア帝国は大陸最大の覇権国家だ。しかし、帝国の人口の急激な増加は深刻な資源不足と土地不足をもたらした。

 

 そこで注目を集めたのが、帝国の無数の地下遺跡。それは、財宝や資源の宝庫で、増えすぎた帝国臣民の移住場所ともなる、夢の場所だ。

 

 しかし、遺跡には手強い人間の敵たちがいる。

 彼らは、魔族と呼ばれる遺跡の住人で、普通の人間では歯が立たない。

 

 そこで地下遺跡攻略のために、冒険者パーティーが派遣される。

 実力ある冒険者パーティーは、魔族を殲滅して地下遺跡攻略を次々と成功させ、人々から英雄として熱狂的に迎えられていた。


 そのなかでも、帝国最強と言われる冒険者集団の一つが、聖ソフィア騎士団だ。

 

 騎士団を結成したのは、聖女ソフィア、聖騎士クレオン、そして俺、つまり魔法剣士ソロン。


 聖女ソフィアは騎士団の団長。パーティーの切り札であり、団員の結束の象徴でもある。飛び級で魔法学校を卒業して、しかも首席だった。治癒の力と超大型の攻撃魔術を使いこなせる天才美少女だ。

 

 クレオンは若き聖騎士として聖剣を使いこなし、規格外の攻撃力を持っている。

 

 そして、俺は副団長である魔法剣士ソロン。剣と魔法を切り替えながら使い、攻守・回復・支援のすべてをこなしてきた。


 騎士団は、もともと、魔法学校の同級生だった俺たちが、魔法学校卒業とともに作った小さな冒険者パーティーだった。

 

 けれど、わずか数年で俺たちのパーティーは、難関地下遺跡の攻略に次々と成功。帝国政府からも騎士団の勅許を受け、冒険者の憧れの的となっていった。

 

 騎士団の幹部も十三人に増えた。そのそれぞれが帝国最強クラスのスキルの持ち主でもある。

 

 いまや騎士団の団員になるのは、冒険者にとっての最高の名誉の一つとさえ言われているのだ。

 

 だから、副団長である俺の名前も、どこの町でも誰もが知っている。


 けれど――。


「悪いけど、君は追放だ。ソロン」


「…………へ?」


 戸惑う俺の肩を長身の青年が叩いた。聖騎士クレオンだ。

 ここは帝国東方の港町にある騎士団本部。

 その会議室に呼び出されたら、どういうわけか騎士団幹部十人が揃いも揃って彼の後ろに控えている。

 聖女ソフィアを除けば、栄誉ある聖ソフィア騎士団の幹部の全員が集まっていた。


 俺はひととおり彼ら彼女らを眺めて、それからクレオンに尋ねた。


「クビってことかな?」


「そういうことだ。副団長を解任し、団員の身分も剥奪する。理由を言ったほうがいいか?」


「へえ、教えてくれるのか。さすが聖騎士様、親切だね」


 クレオンは俺の軽口に答えず、目を伏せた。

 代わりに仲間の女賢者アルテが進み出る。黒髪黒眼の美少女で、聖女ソフィアと並ぶと絵になると帝都では評判だった。

 帝立魔法学校での俺たちの後輩であり、学校を首席で卒業した秀才でもある。

 そのアルテの言葉はかなり辛辣だった。


「あのですね、追放の理由なんて、ソロン先輩が役立たずだからに決まってるでしょう?」


「役立たず? 俺はいつも剣で戦い魔法で攻撃し、盾で味方を守って仲間を回復させていたよね?」


「それがダメなんですよ」

 

 吐き捨てるようにアルテは言った。


「たしかにあなたは魔法剣士だから、剣の腕も悪くはない。攻撃魔法の腕もそこそこ。盾で敵の攻撃を受けることも一応できるし、回復魔法もちょっとは使えます」


「それが俺の役割だったからね」


 聖女ソフィアと聖騎士クレオンが担当できないスキルをすべてバランスよく使いこなせるというのが俺の強みだった。

 聖女も聖騎士も能力は圧倒的に高いが、特化型なせいでスキルが偏っている。

 

 だから、仲間が俺とソフィアとクレオンの三人だけだったころは、魔法剣士である俺が万能型でなければ、パーティーは成り立たなかった。


「だけど今の騎士団のメンバーとレベルでは、あなたのスキルってどれも中途半端なんですよね。器用貧乏ってことです」


「俺だって努力してスキルのレベルを上げているよ」


「そんな努力は無駄なんです。攻撃魔法は先輩じゃなくてあたしが使えばいいでしょう。だって、賢者であるあたしの方がずっと強力な魔法が使えるんですから。盾役はもっと高い防御力のある人がふさわしいんです。剣で戦うなら、聖剣使いのクレオン先輩の方がずっと技量が上。回復はあの規格外の聖女様がやればいい」


 俺は反論しようとして……反論の言葉が見つからなかった。

 部屋の隅の鏡を見ると、そこには引きつった笑みを浮かべた俺の姿があった。

 アルテはため息をついた。


「こないだの遺跡でも高位の魔族と戦うときは、先輩は何もできてなかったです。自分の身を守るのに精一杯。ほんの一欠片だって戦闘に貢献できていませんでしたよね?」


「……たしかにそうかもしれないけどね」


「あなたは何の役にも立ててない。あなたはあたしたちの誰かの劣化版なんです。もっと優秀な代わりはいくらでもいるんですよ。あなたみたいな中途半端な人が仲間にいて、しかも副団長だなんて、迷惑なだけ」


 アルテが言い切ると、他の幹部たちもうなずいていた。

 彼ら彼女らを代表して、クレオンが無表情のまま告げた。


「君の追放は幹部全員で決めたことだ」


「俺も幹部だったよね? 俺の意見は無視するってことかな」


「今日からは君は幹部じゃない。足手まといは、いらないんだよ」


 俺の知らないところで、すべては決められていた。

 もう俺は、彼らの仲間ではないという。

 幹部の誰も、俺の味方ではなさそうだ。


 騎士団幹部たちは俺を無能だと言って追放するらしい。

 なるほど。彼らの言葉にも一理ある。

 俺は戦闘面では騎士団の役に立てていない。

 けれど。


「なあ、誰がこの騎士団をここまで育て上げたと思ってる? クレオンじゃないよね。俺が騎士団に強いメンバーを集めて、資金を集め、最適な攻略対象を調査してきた。だから、今の騎士団が帝国最強と呼ばれているんだ」


「そんなふうに恥ずかしげもなく自画自賛できるんですね、先輩は」


 アルテが蔑むように言った。俺はクレオンを見据えた。


「事実だからだ。そうだろう、クレオン?」


「ああ、ソロンの言うとおりだろうな。これまでのソロンの貢献には感謝している。だけど創設メンバーだからって特別扱いするつもりはない」


「これからだって、俺なしではこの騎士団はやってけないはずだよ」


「違うさ。ソロンなしでも大丈夫だ。団長のソフィアと新しい副団長の僕、そしてアルテたちで協力すれば、問題はすべて解決だ。だから君は追い出されるんだ」


「俺にはそうは思えないけどね」


「君はそう思っても、僕たちは君を必要ないと判断した。それは間違いない」


 俺とクレオンはしばらく睨み合った。やがて俺はため息をついた。


「追い出されるのは別にいい。だけど、事前に俺に一言、相談してくれても良かったじゃないか」


 俺のささやかな抗議には、誰も答えなかった。

 幹部の大男、ガレルスが席を立った。彼は騎士団の防御の要だ。そして、ガレルスは伯爵家の生まれで、平民出身の俺を事あるごとに見下していた。

 ガレルスは俺を蔑むように見て、そして部屋から出ていった。

 

 それを合図に、アルテたち幹部はみんな黙って、部屋から退出した。

 後に残されたのは俺とクレオンだけだ。

 クレオンは立ったまま、俺を見下ろしていた。

 俺は立ち上がり、クレオンに右手を差し出した。

 クレオンが怪訝そうな顔をする。

 俺は言った。


「別れの握手だよ」


「ソロン、もう僕と君は仲間じゃない」


「だから握手もできないって? なら言い方を変えよう。魔法学校以来の長い付き合いだ。最後ぐらい、友好的に別れようよ」


 クレオンは少しためらった後、黙って俺の手を握り返した。


「君は変わらないな、ソロン」


「そういうおまえは強くなったな、クレオン」


「昔の僕は弱かったからな」


 クレオンは目をそらして、ため息をついた。


「だけど今は僕のほうが優れた冒険者だ。これから僕たちは今までより強大な敵が支配する地下遺跡へと向かう」


「成功を祈ってるよ」


「ああ。僕たち騎士団なら、きっとできる」


「ソフィアのことだけが心配だな」


「君が心配することじゃない」


 俺は肩をすくめた。

 聖女ソフィアも、クレオンと同じく、俺とは魔法学校時代以来の友人だ。

 ソフィアは帝国侯爵の娘で、一方の俺は貴族の使用人の息子。

 

 本来なら身分がぜんぜん違うのだけれど、同じ魔法学校にいるかぎり、貴族も平民も平等だ。

 それに学校を卒業した頃は、俺はそれなりに頼りになったと思う。ソフィアは飛び級で首席の天才だったが、逆に言えば俺より五歳も年下だし、しかも病弱だった。世間知らずで実戦にも弱かった。

 

 だから、ソフィアは事あるごとに「ソロンくんがいないとダメなの」と言って、俺を頼ってくれていた。

 ところが、聖女となったソフィアは、俺なんか足元にも及ばないほど優秀になった。十分に強い仲間もいる。おまけに俺と違って、彼らはみな貴族。

 一方の俺はたいして能力も成長しなかった。貴族と平民の才能の差なのかもしれない。


「なあ、クレオン。ソフィアは俺の追放に賛成しているの?」


「言っただろう。幹部全員で決めたことだって。ソフィアも賛成しているよ。会って確認してくるか?」


 俺は首を横に振った。

 俺はソフィアからも、もう必要とされていないということなんだろう。

 それに、ソフィアがこの場にいないということは、俺に追放を言い渡すのがつらいということなのかもしれない。

 それなら、ソフィアに会えば、気まずい思いをさせるだけだ。


「一応言っておくが、ソフィアは君のためを思って、パーティーから外すことに賛成したんだ」


「俺のため?」


「これから僕たちの敵はもっと強くなる。だから、君が怪我をしたり、死んでしまったりするかもしれない。ソフィアはそれが心配ということだ」


「なるほどね」


 パーティー結成してまもない頃に、そういうことがあった。

 実力不足の少女を仲間にして、そのせいでその子を失った。

 俺もソフィアもクレオンも、二度と同じ間違いをしないように気をつかってきた。

 クレオンが言う。


「ソロン。これからはソフィアを守るのは君じゃない。公私ともに僕の役目だ」


「公私ともにって、それって……」


「僕とソフィアは婚約したんだよ」


 俺は少し驚き、それから納得した。

 前から、クレオンとソフィアが付き合っているという噂は騎士団内部でも町でも流れていた。

 

 そういうことがあるのなら、二人のどちらかから俺に打ち明けてくれるだろうと思って聞き流していたけれど、どうやら事実だったようだ。

 追放のことといい、二人が付き合っていたことといい、俺はいつでも除け者にされていたということなんだろう。


「おめでとう」


 俺はそれだけ言って、立ち上がった。


 クレオンもソフィアも天才肌の実力者。家柄も良いし、美男美女でもある。

 お似合いだ。

 

 俺は自分の部屋に戻って荷物をまとめた。

 

 仮にも創設以来の団員である俺には、騎士団からかなりの財産が分与されるということになる。

 騎士団員時代に蓄えた金も、帝都の商会の出資金にしてあるけれど多額にのぼる。

 だから、金に困るということはない。


 けれど、金はあっても共に戦う仲間はいない。目標もない。

 ソフィアはもう俺を必要としていない。

 

 これから、俺はどうすればいい?

 俺は深呼吸をした。

 

 これから考えればいいさ。

 しばらくは一人で楽しくのんびり暮らしたい。

 それなら行き先は帝都にするのが良さそうだ。あそこはあらゆる種類の職がある。

 きっとなにかいい選択肢があると思う。

 

 俺は帝国最強の騎士団の副団長なんかじゃない。

 ただの普通の魔法剣士ソロンとして、出発だ。



☆あとがき☆

器用貧乏な万能な魔法剣士と、皇女様たちのハーレム物語です。


また、新作ラブコメ×ローファンを投稿中です!


タイトル:【悲報】限界社畜な冒険者(27)、少女賢者たちの師匠となってしまう ~うっかり無双して女子高生ダンジョン配信者たちを助けた結果、彼女たちを最強冒険者にプロデュースすることに!?~

キャッチコピー:少女配信者たちをダンジョンで助けたら、バズった上に彼女たちと同棲した

URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330660347482893


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