第七章 章末・後

 扶桑国の北土はその境界線が非常に曖昧であった。


 千山万水広がる北方の地に扶桑国を除くと国家と呼べる程組織化された集団はなく、あるとすれば広大な土地に点在している精々人口数十から最大でも数千を限度とした三十から四十程の蝦夷の各部族であり、其処に扶桑人の開拓村や流浪する盗賊集団、無数に存在する妖共の巣穴、沿岸では亡命帝国資本の東方貿易公社の居留地等が入り乱れていて明確な国境線を定めるのは困難を極めたのだ。

 

 いや、あるいはその方が扶桑国にとっては好都合であったかも知れない。何せ扶桑国はその建国以来、周辺の小集団をその時々に合わせた硬軟織り交ぜた外交と討伐で取り込み拡大した歴史を持つ。故にその勢力圏の境界が曖昧である事はその拡張の余地が未だ十分にある事の証明であるのだから。


 ……とは言え、少なくとも「明確に此処は扶桑国の領域である」と断言出来る北限の地というものは確かに存在する。


 その内部にも幾つかの蝦夷共の小部族が雑居する氷海邦が最北にして邦都である白泊は扶桑人だけでも人口一万五千人程度、各種の理由から居留する異人共を含めれば二万に迫るだろう。大陸や渡嶋の十二湊館、そして扶桑国各土の港街とも船を行き来させるこの街は同時に行政機関としての邦都府以外に北果鎮台が設けられ特別編成の軍団が駐屯する。朝廷と豪商らの共同出資で港湾設備や街道もかなり充実して整備されていた。


 まぁ、端的に言い表すならば『この街は朝廷の威令は隅々にまで行き届き、交易によって大いに繁栄している』という事である。


 交易の相手は主に蝦夷共、そして大陸の北狄遊牧民とのそれであり、多くの場合には鮭や鰊等の海産物に獣毛皮、大陸馬や乳製品を買い取る。稀に山丹交易を通じて大陸交路から流れ着いた中原や胡地の掘出物が入手される事すらあった。対して扶桑国からは主に扇や屏風、漆器等の工芸品に石鹸、織物、薬品、米、塩、茶、醤油、酒等が売り払われている。南方や天竺から輸入している香辛料や砂糖の転売も行われる。


 ……刀剣類を含む鉄器や妖、人間の売買も一部の商人と部族の間で密かに行われているとも言われているが確証はない。


 取引やその他の商談、契約自体は数十隻の船舶を停泊させられる港湾に隣接した会所で行われている。此処はまた白泊にて出先を置く商会や地元豪商らが協同して成立させている商業組合の拠点であり、議場であった。常時溢れんばかりの人で建物の外と中が満たされている様を見れば、その好況ぶりは明らかであろう。白泊の港街を拠点とする者達はその活気が内地の大都市のそれにも劣らぬ事を確信していた。


 尤も、そんな彼ら彼女らからしても、此度出席する客人には流石に動揺せざるを得ないようであったが。


「私が此方の土地の慣例や事情に無理解な事は承知しています。その上で質問をさせて頂きますね?近頃は取引相手の蝦夷各部族との揉め事が増加しているとお聞きしております。その点について会所としての対応策はどのように考えているのか、是非ともお聞かせ頂けませんか?」


 甘く、可愛らしく、幼さすら感じさせる少女の声音が百人近くが詰める会所の議場に響き渡る。そしてその質問の内容の意味を理解して、出席者達は一様に渋い表情を浮かべては互いに顔を覗き合い、そのまま上座に視線を移す。


 蜂蜜を連想させるような鮮やかな金髪、瑞々しさと弾力を兼ね備えた透き通る程に白い肌、翡翠のように輝く瞳をした南蛮系の美少女が優しく微笑む。その無垢な表情に誰か、出席者の箱入り娘が誤って会議に出てしまったのではないか……そんな事を思わず考えそうになる。


 しかしながら彼女の着こむ羽織を、其処に刻まれた家紋を認めればそんな偏見に満ちた考えも吹き飛ぼう。


「橘の御令嬢殿……」


 場の出席者の内の誰かがポツリと呟いた。


 扶桑国でも有数の豪商で、しかも船舶利用の海外貿易では三本の指に入る橘商会が会長の愛娘にして一人娘……橘商会北土支店が幹部、橘佳世の指摘は場の者達に即答する事を戸惑わせた。


 週に一度の会所における合同集会。普段は情報交換や揉め事処理、港や船舶、荷馬や宿場の予約、今後の事業計画や金策等について各々に報告や交渉を行うこの場において、橘佳世は完全に客人にして貴人であった。


 北土における橘商会の各店舗を巡回する次期会長候補の少女、若いながら中々に遣り手であるとの話も手伝って、白泊の主だった豪商、大店主、支店長らは皆一様に身構えたものであったが……街に訪れてからの数日、その物腰は柔らかく、その態度は謙虚にして穏和であって、無垢にすら思えた。其処に美貌を最大限に活かした満面の笑みを見せつけられれば、警戒心も解けようというものである。


 結果として街の有力者達は三日三晩に渡って丁重に接待を重ねて、彼是と街や交易の詳細を誇らしげに解説して、最終的にこの街を立ち去る前日のこの日、会所での会議に佳世を呼んだ。あくまでも御飾りの客人として。しかし……だからこそ、会議終わりのどさくさに佳世の放った言葉は完全な奇襲であったのだ。


「は、ははは。これはこれは……実に突然の話でありますな、佳世殿」


 場の沈黙からいち早く立ち直った地元に根ざす大店の主人が苦笑いを浮かべながら宣う。子供の悪戯に対応するような態度を見せて、である。


「申し訳御座いません、天正屋の旦那様。ですけれどこのままだと集会が終ってしまいそうでしたので、この議題に触れる事なく御開きになるのは宜しくはないでしょう?」


 丁重に、礼節を弁えて、その上で直球で佳世は豪商の言葉に応じる。余りにも堂々と、当然のような口調で言われたために誰もが彼女の言葉を咎める事が出来ない。


「お、御嬢様。一体……」


 傍らに控えるのはこの白泊に置かれる橘商会支店の店長であった。彼の制止を賑やかな表情で以て黙らせて、佳世は更に続ける。


「この三日間の歓待、大変有り難く存じ上げます。就きましては部外者の立場として、この地の商取引における疑問点について意見させて貰います」


 佳世が指摘するのは主に蝦夷の各部族との関係、その危うさについてであった。


 この三日間、佳世は市中を自ら観察し、あるいは同行させてきた者達に情報収集をさせる事で華やかに繁栄する街の陰について察していた。


 取引における不均衡、不公正もそうであるし、山師共による鉱山の開発や漁業における地元民との縄張り争い。密輸される武器と人狩りの発生……様々な要因が重なって近頃は蝦夷共との紛争が散発していた。中央より派遣されている邦司や鎮台将軍らが度々仲裁に乗り出しているが、根本的な問題は変わらない。


「無論、我々とて問題を軽視している訳ではありません。だからこそ彼らが連携せぬように分断は怠っておりませぬ」


 佳世の疑念に一人の豪商が恭しく答えた。


 元より蝦夷共に共通の同胞意識がある訳ではない。取引する部族ごとに待遇に差をつけて対立を煽り、あるいは妖共を誘導する事もある。友好的な部族に秘密裏に傭兵と武器を支給して敵対的な部族を襲わせているのはあくまでも噂であった。そういう事になっている。


「無論、それは承知しております。ですが最近は友好的な部族とも騒動が起きていると聞きますが?敵対部族からの襲撃も増えているとか」

「妖共の襲撃が増えておりますからな」

「入植事業が停止したのも一因でしょうな。朝廷が決めた政策です。我らには選択の余地がありませんよ」


 ここ一年程増加の一途を辿る妖被害の全国的拡大、そして河童騒動によって壊滅した北土二郡の再建のための北方入植事業の停止は蝦夷の扶桑国への敵意を高めた。


 流通費用の増加は唯でさえ不平等とされていた取引を更に不均衡なものとした。其処にどさくさ紛れに商人達は更に己の利益を上乗せして高値で商品を吹っ掛ける。扶桑国と友好関係にある蝦夷共にとって、最早交易で得られる品々は必需品であり、その値上がりは許容出来るものではない。


 非友好部族にとっては更に死活問題だ。妖の襲撃で彼らもまた物資に欠乏が生じ始めていた。入植事業が停止した事で略奪を行える小村が消えていき、強固に防備を施された大村や街の襲撃はかなりの確率で失敗するか成功しても大きな犠牲を払う結果となった。他部族経由の扶桑国の商品の輸入も困難になりつつある。彼らは少しずつ、しかし確実に追い詰められつつあった。


「後者は兎も角、前者に対しては一時の利益のために無用な対立を生む行為は避けた方が宜しいのでは?」

「ははは。御嬢様、そんな御心配なぞなされずとも宜しいのでは?」

「左様。あのような夷敵共の抵抗なぞ大したものではありますまい」

「寧ろ昨年の会議では態と暴発させようという意見すら有りましてな」


 佳世の提案に対して、しかし参列者らは笑うのみだった。


 確かに近頃蝦夷共の扱う武器に鉄器が多用されるようになっている報告は彼らも受け取っている。しかし所詮は部族単位の集団に過ぎず、主体はあくまでも毛皮の装束に骨の鏃である。野人に過ぎぬ。


 対してこの白泊に鎮台に駐屯している軍団は定数割れも幽霊兵もない、総数千名余りの大所帯。それも鉄の鎧を着込み、数百丁の火縄銃と十数門の大砲を擁する重武装の精鋭である。いざとなれば水夫に人夫、その他の町民共も簡単な武装位は出来る。それでも駄目ならば中央から幾らでも援軍を呼べよう。戦の勝敗は明らかにあるように思われた。

 

「寧ろ明確に屈服させる機会ですらある」

「これを機に敵対する部族共は殲滅ですかな?」

「ははは、それは目出度い。奴らが綺麗さっぱり居なくなれば我らが自衛に掛ける出費も減ろうというもの」

「それなりの規模の遠征になりますから、我らも特需にありつけますな」


 口々にそんな景気の良い軽口を言い合う豪商共。その姿は強がりではなく、明確に勝利を確信している者達のそれであり、もう戦後の利益配分について計算しているようですらあった。


 それは正しく、捕らぬ狸の皮算用そのものであった。


「…………」


 そして、そんな光景に金髪の令嬢はただただ沈黙の内に冷たい視線を向けていた。残念ながらそれに気付ける商人は殆どいなかった……。


 







「御嬢様。先程の会所での行動、本当に宜しかったのでしょうか……?」


 最後は半ば唯の雑談と化した会議が御開きになった夕暮れ時、会所前を出発して橘商会白泊支店前に帰還した馬車から降り立つ佳世は、傍らで不安げに呟く丁稚奉公の金髪の少年に向けて微笑みかける。


「構いません。此方の方々の危機意識が何れ程のものなのかを推し測れましたから」


 そして若干失望はしつつも想定内でもあった。やはり北土有数の港街とは言え所詮は辺境という事なのだろう。何ともまぁ、視野が狭く目先の事ばかりに気を取られる二流商人ばかりであった。


(地元の商人は中央の情報には疎いようですね。出先の者達にも情報は流れていませんか)


 会所にて半ば見世物になった佳世だが、しかし同時に彼女自身もまた出席者達を冷静にかつ冷淡に観察し、値踏みしていた事に何人が気付けたのだろうか?


 此暫くの間全国的に続く妖騒動、それは扶桑国の物流に僅かずつ被害を出しつつもその崩壊には程遠い。しかしながら内裏の考えは違うようであった。


 元々が公家であった事と舶来の珍品を取り扱う関係上、橘商会は内裏の殿上人らとの交流も深い。その誼から佳世は父からの文によって朝廷の政策方針を比較的早期に察知する事が出来ていた。


(此処の軍が上方に引き抜かれると知っていたらあんな余裕綽々としてはいられませんでしょうに)


 父からの文によれば主に右大臣が中心となった派閥が四方の土に駐屯させている軍団の一部を央土、そして都に臨時に進駐させようとしているという。またそれに準じて退魔士家に対する都への上洛と警護の任も一時的に期間延長させる事を企てているのだとか。


 当然ながらこの白泊の鎮台兵もその引き抜き対象の一つとして挙げられている。尤も、あの会所での振る舞いを見る限りそれを知っている者はいないようであった。しかも地元連中なら兎も角、橘商会同様央土に本店のある店の者すらもあの体たらくとは。


(まだ内裏の動向を掴んでいないのか、それとも上役は把握していても出先には伝えていないのか……)


 何にせよ、あの態度では……そして態態馬鹿共と一緒に自分達まで心中してやる義理はない。


「後程、支店長に顔を出すように伝えて下さい」


 佳世は傍らの丁稚に向けて命じる。これまで集めた情報が正しければ蝦夷共の不満は一年、長くても二年程で爆発するだろう。


 最終的に朝廷が負けるとは到底思えないが問題はその過程だ。局地的敗北……それこそ白泊の街が焼き討ちされて灰燼に帰す位は十分に有り得る。駐屯する官軍も他の商人共も頼りにならないのならば自分達で自衛しなければ……費用はかかるが用心棒としての傭兵共の数を増やすとしよう。支店も有事に備えて補強しなければなるまい。


 騒動で街の豪商共の多くが資産を減らすか死ぬ事だろう。港の復興に何れ程時間を要する事か……手間はかかるが仕方無い。どさくさ紛れに街の運営権を掌握してしまおうか?


「……馬鹿共の相手は疲れますね」

「御嬢様?」


 商館の扉を潜ると共に冷たい声音でポツリと呟かれたその言葉を、玲旺ははっきりと聞き取れず思わず主人に声をかける。ちらりと向けられる不穏な視線に思わず背筋に冷たいものが走るが、それも一瞬の事に過ぎない。次の瞬間には眼前の南蛮少女は太陽のように優しげな微笑を浮かべていた。


「北の果てなだけあって、霊脈の上にあってもこの街は寒いですね。玲旺君も身体には気をつけて下さいね?」


 そう語って商館の入口で待ち構えていた館員の一人に着けていた首巻を差し出す佳世。そのまま呆ける少年を無視して彼女は幾つか従業員らに指示をしていき、己が宿泊する客室へとすたすたと足を運んでいく。


「お鶴、居ますか?」

「これは御嬢様。……随分とお早いお帰りで御座いますね?」


 客室に入る直前に付き合いの長い老女中を呼び出す。そのお鶴はといえば佳世の呼び掛けに迅速に応対しつつも怪訝な表情を浮かべていた。もう少し帰りが遅いと思っていたようだ。


「皆さんに夕食にお呼ばれはしたんですけど……全部断っちゃいました。ご飯は部屋で食べますけど、少し休憩するので一刻程は部屋に誰も入れないで下さいね?」


 あっけらかんとした表情で佳世が宣えばお鶴は呆れ返る。商人たる者、付き合い接待は当たり前で寧ろ人脈を繋ぐ機会は逃すべきではないのだが……唯でさえ先日唐突に佳世が下した命令で商会の内に不満が上がっているのだ。此処に来て更に非難の材料を作るべきではないとお鶴は警告する。


「だって!あいつら絶対自分の所の子息とか紹介して来るに決まっているじゃないですか。私、嫌ですよ。こんな辺鄙な田舎の垢抜けない成金が御相手だなんて!」


 可愛らしく舌を出して宣言する佳世。尤も、央土の老舗の若旦那や御公家様の若君相手でも気に入らないといって肖像画を見ただけで見合いを拒否する者が何をいっているのかともお鶴は思ったが。


「そんな事忘れちゃいました!毎日御仕事で忙しいですから!……では私は休憩のために此にて!時は金なりですからね!」


 糾弾された佳世は慌てて視線を泳がせて逃亡を選択する。早口で指摘を誤魔化して駆け足で部屋に突入すると内側から鍵を掛けるのだった。


「あ、そうでした!お風呂の用意も御願いしますね!!夕食の後に入りますから!」


 態態扉を開いて宣言。そして追撃の説教が繰り出される前に慌てて勢い良く扉を閉めて再度施錠する。


「はぁ、何をやっているのですやら……」


 ……お鶴が肩を竦めて深く嘆息したのは言うまでもない。商人としての才覚は鋭くなっても根本的な所で子供の意識が抜け切れていないと憂慮するのだった。


「……もう、煩いですね。小姑じゃないんですから」


 一方で、客室での籠城戦に成功した佳世はうんざりするような表情で深く嘆息。そしてほとぼりが冷めるまで暫しこの部屋に閉じ籠る事を改めて決心する。


 ……どちらにせよ、この面会は他者の目には見せられないのだから。


「ふぅ。……灯りは燭台だけで良いですね。申し訳ありませんが御願い出来ますか?」


 薄暗く人気のない室内を一瞥した後、佳世は誰に言うともなく御願いする。


 途端の事だった。室内に設けられた燭台が前触れもなく一斉に火を灯して和洋折衷な客室を仄かに照らし上げる。


「お手間お掛け致します」


 心霊現象か、狸か狐に化かされていると思えるこの事態に、しかし佳世は微塵も動揺する事はない。にこりと屈託のない表情で微笑み、彼女は近場にあった安楽椅子にぴょいと座り込む。深く、座りこむ。 


『持つべき者は友という事かしらね?今回は色々と手間を取らせたわね?』

『先日の一件、お心遣い感謝致しますわ。ですけど……随分と金銭を御使いになられたようですが宜しかったのかしら?』


 それと同時の事であった。安楽椅子に座る佳世の背後から影が二つ、覗きこむようにして伸びる。優美な雉と白鷺の簡易式が美しい声音と共に現れる。まるでずっと前から其処にいたかのように、姿を表す。


 しかしそれは佳世にとっては想定内の事で、欠片も驚きを見せる事なく賑やかに彼女は応対の笑みを浮かべた。当然のように挨拶を口にする。


「御意見番様、二の姫様。ご機嫌麗しゅう。……はい、問題ありませんよ。どうせ半分はだぶついていた在庫ですので」


 佳世の言葉は事実ではあった。ここ暫く、北土は無論として扶桑国の各地で妖関連の被害が多々発生していた。村が滅びる事自体は良くある事ではあるが、それによる輸送費の高騰と値上がりによる買い控えもあって元々蔵の在庫にはそれなりに余裕があった。


 業者や生産者の生活もある。商品の在庫が余っているので今月は出荷せず、とも行かない。冬となれば交通の便も悪くなり最悪在庫を雪解けまで寝かせておかなければならなかった。ならば此処で朝廷に売り払ってしまうのも悪くはない選択だ。


『そうは言いますけれど、心苦しいですわ。……蛍夜の郷での一件でも汚れ役を押し付けてしまいましたもの。何と御礼を言えば良いものやら……』


 白鷺は、少なくとも形式上は恐縮するように宣う。秋口における蛍夜郷での騒動も公的には佳世が勘違いしてのヤラカシとして処理して世間に噂として流していた。そして今回の一件……此度の案件はまだ朝廷に対しての奉仕と言えない事もないが、商会の内からすれば不当に安く在庫を売り払ったのだ、余り愉快ではあるまい。


『商会の内では不満について、問題はありませんか?』


 故に御意見番は佳世を心配する。佳世の立場を案ずる。佳世の立場は彼を守る上で有用であるから。


「無問題、という訳には流石に行きませんね。ですが其処は私の頑張り次第になります。……これでも頑張っているんですけどねぇ?」


 佳世の応答は、最後には呆れを含んだ愚痴のようになっていた。


 実際、佳世の主張は一面としては正論であった。佳世がこの北土に来てから何れだけの無駄な出費を抑え、何れだけ新たな販路と需要を開拓し、何れだけの者達と顔繋ぎをした事か。彼女がもたらした利益を思えば度々の暴挙による不利益を差し引いてもまだ十分お釣りが来る事は算盤を弾けば直ぐに分かる事だ。にもかかわらず上役や幹部連中の不平不満……白泊の商人共もそうだが、人の欲とは際限がないものだ。


「全体を思えば不必要に蔵に貯め込み過ぎるのも余り良くはないんですけれどね……まぁ、この手のお話は御二方には余り縁のない話題ですし、この辺りで止めましょう。心配されているという事は、もし此方が要請した際には各種の支援はして頂けるという事で宜しいでしょうか?」


 専門的になり過ぎる話を延々としても仕方ない。早々に切り上げて、佳世は端的に確認の問い掛けをする。二羽の式神は優雅に頭を下げる事でそれに応じた。


「ふふふ。心強いお話ですね」


 ころころと鈴を転がすような笑い声を漏らす佳世。笑いながら彼女は謝意を示す。


 何事も金で解決するのならば気楽なものだ。しかしこの世には金ではどうにもならぬ事も極僅かにだが存在する。そしてそういうものは一際厄介で、理性的な交渉が通じぬものだ。


 情で動く人間や妖相手には佳世の権力は無意味で、結局は暴力には暴力で抗するのが一番なのだ。その事を佳世は既に熟知していた。だからこそ彼女は鬼月の女達の約束に心から感謝する。


(まぁ、それだけの事ですけれど)


 ……尤も、相手の性癖に対しては内心でかなり引いていたが。


 特に白鷺を使役する御意見番の背景事情については全てではないにしろ、同盟した二の姫からある程度聞き及んでいた。そして思う。気持ち悪いと。


 当然の事だ。良い歳した婆が拗らせた初恋で彼に恋慕するなぞ……何人も出産した既婚者の癖に何をほざいているのか。二の姫から「多分、彼是理由を付けて媚薬使って筆下ろしとか狙っているわ」と聞かされた時には浅ましさを感じたし、「間違いなく、本番になると幼児退行してお兄ちゃんとか言って甘えだすわよ」等と聞かされた時には鳥肌すら立った。


 止めは佳世がご機嫌伺いのために行っている衣類贈呈での一幕だろう。


 予てより着道楽としての趣味と実益から佳世は被服や服飾のデザインもしており、その内幾つかを定期的に鬼月の二の姫に、近頃は御意見番にも贈呈しているのだが……まさか裏メニューである『兎博嬢接待着・兎耳飾付』を要望してきた時には絶句した。何なら黒地染めのキツキツ寸法布面積少な目調整を要求してきた時には歳を考えろと内心罵倒したものだ。


 自分ですら流石に自重して白地染め網タイツで妥協したというのに!


「姫様と御意見番様の御配慮には、本当に助けられます」


 無論、そんなことはおくびにも出さない。己の歳を履き違えた年増女に向けて佳世は恭しく頭を下げて見せる。元より二の姫に向けて嘆願した際に恥も外聞も全て塵箱に捨てて来たのだから。


『うふふふ、素直で可愛らしい事。……それにお利口ね。我が強くないと、私としても安心出来るわ。気が立つ娘は直ぐに好き放題に勝手にやるでしょ?尻拭いするのも大変なのよ。その点、貴女は慎重だから信用も信頼も出来るわね』

「過分な評価、光栄に思いますわ御意見番様」


 背中どころか鼠径部まで剥き出しだなんてふざけるな糞婆!!と内心で吐き捨てながら佳世は賑やかに御意見番の賛辞を受け入れる。どうせ向こうも形式的なものに過ぎないだろう事は分かりきっていた。


『あら?御祖母様、酷い言い様ですわね?まるで私が大変な我が儘のようじゃないの?』


 二の姫が半分おどけるようにして祖母に問い詰める。おどける振りをして、牽制する。尤も、祖母たる御意見番もその程度の事は百も承知の事で、白鷺の式神はその羽で口元を隠して微笑む。


『本当の事でしょうに。貴女の事だから何か保険は用意していると思っていたわ。それ自体は理解出来るけれど、まさかあの翡翠を使うなんて……貴女の取り分とは言え、派手に動き過ぎよ?』

『仕方無いですわ。彼がどんな姿になろうとも私は愛せるけど、彼自身のためには一時的にとは言えあんな姿に変異しないのが一番ではなくて?』


 何処か態とらしく首を傾げる二の姫の式。


『そのために私が彼是の尻拭いをするとしても?あの翡翠の価値を知らぬ訳でもないでしょうに』

『彼が妖化した場合も後片付けは大変でしょうに。それに、そもそもそれが私達の中における御祖母様の役割でありましょう?』

『…………』


 白鷺の式神は人当たりの良さそうな微笑みを湛える。微笑みながら無言を貫く。佳世も、そして鬼月の二の姫の式もそれに応えるように同じく人当たりの良さそうな微笑を浮かべる。


 分かっていた。この未亡人の狙いは分かっていた。あの稚児を此度の任に半ば無理矢理捩じ込んだ理由は分かっていた。怪物となって暴走するだろう彼をアレを使い潰して人に回帰させる、それは手段に過ぎないだろう事を。


 真の狙いはあの餓鬼を犯し潰して嘆く彼に、師であった事を口実に這い寄ろうとでも思っていたのだろう。罪悪感から彼はそれを断れまい。そしてその後は動揺して無防備な彼の感情を少しずつ誘導し……流石は黒蝶婦と言われるだけの事はある。悪辣だ。


 尤も、その計画は彼自身の選択によって無惨にも頓挫したのだが。


『うふふふ』

『ふふふふふ』

「ふふふ」


 二対一では分が悪いと悟ったのか、胡蝶が煙に巻くように微笑を漏らせば残る二人もそれに続く。空虚に笑い合う。女三人姦しいとは良く言ったものだと佳世は思う。


(確か……『囚人の進退両難論』、でしたっけ?)


 ふと思い出すのは商人としての交渉術を磨くために読み込んだ西方帝国の哲学書の一節である。確か誰もが相手を信じず、己の最適解を得ようとすれば結局は全員が損をするという論法であったか。


 幸いな事に、現状この場にいる三人は同じ方向を向いている。同じ目標に向けて進んでいる。ならば内輪揉めは時間と資源の無駄遣いだ。此処で無意味に追及をして言い争う事はない。


 彼の事をひたすら想う心によって、自分達は醜い足の引っ張り合いから解放されている訳だ。素晴らしいものである。愛という感情は実に偉大だと思う。


 ……棚上げしただけで忘れる事は有り得ないが。


『……それはそうとまさかあの子が、思水が彼処まで積極的に動くのは予想外だったわね』


 そして形勢不利を打開するために御意見番が繰り出すのは話題の変更であった。しかしながらそれを詰るのは先程言ったように無益であり、そしてその指摘は確かに佳世も葵も抱くものであった。


「思水様……伴部さんの上司でしたか?」

『えぇ。今回は中々大立回りをしてくれたものよ。まさか彼処まで積極的に動くなんてね』


 先ず佳世が話題に乗った。すれば続く葵の式は訝るように宣う。其処にあるのは警戒であり、疑念であった。


 どうやら今回の騒動における下人衆頭の行動は、二の姫からして見れば不自然で奇妙な事この上ないようだった。


「確か、元々鬼月家の次期当主候補でしたか?」

『えぇ、そうよ。けれど彼自身はすんなりとその地位を捨てたわ』

『当主の警戒を恐れての事ではないのかしら?私みたいに陥れられるのを危険視した可能性は?』

『有り得ないわね。だったら尚の事、今更動きなんかしないわ』


 それこそ、葵の父である幽牲が床に臥せって何年あったか。それを幽牲が目覚めてから動き出すなぞ、要らぬ警戒を抱かせるだけではないか。


『寧ろ、あの子がすんなりと甥の進言を入れたのが意外だったわ』


 本当に驚くべき事だと胡蝶は思う。幾ら万全の体調ではないとは言え彼処まであっさりと甥の行動を容認するなぞ……実に奇妙な話であった。


『どうせ何か企んでいるのでしょうよ。油断ならないわ。……式神が殺られたのも気に食わないわ。後で彼の身体を調べないと』


 騒動の終盤、彼を見守るための式神が突如裂かれたのは葵の思水に対する印象を一気に悪化させた。直ぐに近くに待機させていた予備を投入したが……ほんの少しの間とは言え彼の危機に際して見守る事が出来なかったのは不愉快そのものだった。


 丸一日中彼の生活を監視するつもりはないが彼を危険に晒している以上、いざという時に彼を守るために、そして彼を傷つけている現実を受け入れるために、その側で彼を見続ける事は己の責務だと葵は確信していた。それを邪魔されれば怒りもしよう。あるいは、彼の身体に何かされている可能性だって……。 


『落ち着きなさい。私が見る限り、彼には何も異変はないわ』

『本当かしら?見過しの可能性はないの?』


 胡蝶の言葉に、しかし尚も葵は噛みつく。事が事だけに、葵はこの事については妥協するつもりはないように見えた。その態度に胡蝶の式は若干困り果てたような仕草を浮かべる。


『呪いも私の領分よ。祖母の目を信じなさい。……そもそも思水は呪いの造詣は深くないわ。私が見過ごすような高度な呪術は使えないわよ』

『だけど……』

『無論、貴女が納得出来ないのなら、出来るまで好きに調べれば良いわ。その代わり、彼を困らせる事はしては駄目よ?』

『…………』


 宥めると共に警告を口にする御意見番の式に、二の姫は黙りこむ。不満はあるようで、しかし祖母の言葉を完全無視する程に自分本位でもない葵は、式神越しでも分かる程に苦虫を噛む。


 暫し、場が沈黙する……それを打ち破ったのは佳世であった。


「……それはそうと姫様、伴部さんが帰還する日取りを教えて頂けませんでしょうか?折角手間を掛けたんです。それくらいは御許し頂けませんか?」


 佳世は頃合いを見て、極自然な態度で此度における己の分け前を要求した。金と影響力を使ったのだ。彼のためならばあらゆる犠牲と出費は許容範囲であるが、やはり御褒美は欲しいものだ。商人とは欲深いものなのだ。偶然を装ってまた道中で彼と接触を試みようとする。


(ふふふ、幸い彼方此方回ってお土産も沢山ありますしね?)


 土産だけじゃない。御馳走も山程用意しよう。着飾って、念のために勝負下着も準備しよう。万が一の二回戦、三回戦に備えて色々衣装も用意しないと。衝撃度もある。年増より先に件の『兎博嬢接待着』を見せてみたい。どんな目で見てくれるのだろうか?どんな風に毟り取ってくれるのだろうか?どんな風に組み伏せて押し潰してくれるのだろうか?


「ふふっ」


 ……想像するだけでムラムラしてきた。取り敢えずこの話が終わったら直ぐに御忍びで買ってきた張形を使おうと決心する。というか、ぶっちゃけ態態この街にまで直接足を延ばした理由の八割位はそれが理由だ。


 大陸の遊牧民なら馬並みの物も作っていると聞いていた。中々の物だった。凶悪な造形、真っ黒に塗られているのも高得点である。これで膜が裂ける寸前まで押し込みながら想像すると堪らない。本番では彼に見せ付けて挑発しようと決意する。矜持を傷つけられて怒り狂った彼に己の純潔をそれと知らずに無遠慮に奪われる……。


『彼は……』


 内心で暴走気味の妄想をして、しかし傍目にはそんな事分からぬような素知らぬ表情を見せていた佳世は、しかし葵の式が歯切れの悪い反応を見せる事に若干首を捻らせる。


「姫様?」

『……彼は、今回は鉢合わせを装うのは少し難しいかしらね。帰路に就くには時間がかかるわ』


 其処に滑りこむように胡蝶が口を挟む。取り繕うような口調であった。その事に何かを隠していると感じた佳世は視線でそれを訴える。


『……余りそんな目で見ないで欲しいのだけれど?』

「確かに私は鬼月の姫様方に最上の席は御譲りしております。お金も、名誉も、何であれ貢ぐ事は構いません。蔑まれても良いです。ですけど、伴部さんに何かあったのでしたらそれを隠される事は不愉快です」


 困惑する式神らに向けて佳世は率直に宣言する。彼の苦難において何も知らずに呑気でいる事を佳世は許容出来なかった。それは許せない。譲れない。商人たるもの、時として単刀直入に己の意志を示す事もまた重要だった。


『……別に、彼自身に何かあった訳ではないのだけれどね』


 佳世の意思表示に折れたのは葵だった。そして葵は若干の躊躇いの後に漸く語る。


 彼が、この場にいる者達が何よりも愛する人が今何処で、何をしているのかを。それは………。








ーーーーーーーーーーーーー

「ここ、だな」


 数頭の馬が雪原を進み、そして止まった。その先頭である俺は地図と眼前の風景を比べると二度、三度と確認して頷く。そして全身の痛みに耐えながら馬から降りようとして……身体を崩す。


「ちぃ、馬鹿!」


 咄嗟に駆けつけた入鹿が雪の上に頭から突っ込みかけた俺を受け止める。


 そして慌てて此方に来た部下の下人二人に白の助けを受けて、ゆっくりと俺はその場に立ち上がった。……穂先を布で隠した槍を杖代わりにして身体を支えながら。


「す、済まねぇな。迷惑をかける」


 俺は歯を食い縛りながら同行者達に向けて謝意を示す。俺の我が儘に付き合ってくれた彼ら彼女らにはこの数日の旅で本当に迷惑をかけていた。


「そ、そんな事……」

「全くだ。口ばかり達者でよ。周囲の事考えろよ」

「入鹿さん!!?」


 白が急いで否定しようとして、しかしそれを遮るように入鹿が毒づく。白がそんな入鹿を咎めるようにして叫ぶが、俺はそんな白を宥める。


「いや、良いんだ。事実だからな」


 弱りきった俺の護衛として、環達の下を離れているのだ。毒も吐きたくなろう。逆ギレする方が間違っていた。


「お前達も、悪いな。大事な時にいられなかったのにこんな事に付き合わせて……」

「いえ、我々は」

「常盤の仇を討って頂き、允職には感謝しかありません」


 入鹿同様に護衛役を勤める下人二人が礼をしながら答える。この二人は此度の任務で死んだ常盤と同じ班出身だった。


「そんな畏まるな。まだ半分……いや、三分の一位だよ。残りは出来るだけ取ってやるから、今少し我慢してくれよ?」


 半ば冗談気味にそんな事を宣って、俺は歩み始める。


「お前達は、此処で待っていてくれ。そんなに時間はかけないからよ」

「一人で行くのかよ?」

『( ≧∀≦)ノオミヤゲヨロシクネ!』


 俺が命じると、入鹿が横槍を入れるように尋ねる。白の懐辺りから変な電波が響いて来たのは無視して俺は頷く。


「俺の受けた仕事だ。俺一人で行くさ」

「……阿保らしい」


 俺の返答に入鹿は心底呆れたように呟く。白や部下連中が咎めるような視線を向けるが……俺はただ苦笑するのみだった。


 そして俺は歩みを再開する。その門前に向けて進む。


 稗田郡門囲村に、訪れる……。






 


 これ迄訪れた村同様に、門囲村もまた裕福な村ではない。強いて言えば比較的敷地が広くて人口密度が高くないという事くらいであろう。


 そんな訳で真正面から村に入るのは比較的容易な事であった。幸い、門番も居眠りをしていたからな。


「おい、ちゃんと仕事しろ」

「うおっ!?」


 柵で囲まれた村の門前、其処の小屋で涎垂らして寝ていた門番の青年の足を蹴って起こさせる。起こしたと同時に驚いて椅子から転げ落ちるが其処は自爆であるので気にしないでおく。


「何やってんだか……」


 俺は尻を痛める門番を一瞥すると肩を竦めて呆れ、そのまま村の奥に進む。


「済まない。少し教えて欲しい事があるんだが」


 季節と時間帯からして、皆内職なり炊事をしているのだろう。外で働く者は殆ど見られず、俺が門番を除いて第一発見者として見つけた村人は外で遊ぶ小僧共だった。見慣れぬ黒づくめの男の呼び掛けに、しかし小僧共は警戒して木々や草藪の影に隠れる。


 おう、良く教育されてるなこの野郎。これならば人拐いが来ても安心だな畜生め。


「……人を探しているんだ。渡す物があってな。教えてくれたら此をやろう」


 そう言って見せつけるのは金平糖であった。妖共によって壊滅した駅から拝借した物資の一部である。


「なにそれ?」

「甘いお菓子さ」


 そう言って一つ口にして、袋の中の残りを見せつけるとその鮮やかな色合いもあって次第に興味津々となって小僧らは此方ににじり寄る。そしてひょいと摘まんで口にすると次の瞬間には分かり易い程に目を見開いて一斉に群がろうとする。


「待て待て。欲しいならくれてやる。その前に質問に答えてくれ」


 狼のように此方を凝視して今にも襲いかかりそうになる餓鬼共を静止して、俺は問いかける。直ぐに答えは返って来た。一斉に目的地に向けて指を指す。


「よし。……言っておくがこのやり取りは他言無用だぞ。お前らも不審者から食い物貰ったなんて言ったら親にしばかれるぞ?」


 そう警告してから俺は袋を差し出した。袋は速攻でふんだくられて、中身を餓鬼共が一斉に食い荒らしていく。その光景はまるでえさに群がる雀みたいだった。俺は苦笑いを浮かべる。


 小僧共の指し示した方向に向けて歩いて行けば、それは見つかった。村の中でも特段大きくも小さくもない小屋であった。竈の白い煙が立ち上っていた。炊事をしているらしかった。


 非礼のないように面を外してから、戸口を叩く。出て来る老婆は俺を見て仰天する。一礼して、俺は名乗る。警戒する老婆は名乗らない。当然だろう。下手に名乗って呪われたくはない。


 それでも俺がその名前を口にすると途端に老婆は絶句した。唖然として、驚愕する。その直後の事だった。恐らく炊事をしていたのだろう、十代の若い娘が祖母に声をかけながら背後よりひょいと顔を出す。顔を出すと共に俺の姿を見てやはり警戒する。


 俺は再度一礼して名乗り、時間もないので端的に用件を口にする。呆気に取られる少女。それに構わず俺は更に説明を続ける。此処に来た目的を。誰の頼みで来たのかを。そして差し出す。それを。


 漆塗りに金箔で絵柄を飾った小さな櫛を差し出す。彼女がねだり、兄が安い給金を貯金して購入したのだろう、嫁入りに備えた髪飾りを。


 差し出された櫛に少女は困惑する。俺の言っている事が分からないというような表情を浮かべる。やはり朝廷である。田舎の行政は動きが遅い。まだ通達が来ていないようであった。


 それでも、俺の言葉を理解した瞬間に少女はその表情をひきつらせる。そして青ざめさせる。直後には罵詈雑言が浴びせられる。泣きじゃくりながら俺の言葉を否定して、罵る。がむしゃらになって物を投げつける。


 櫛を投げつけなかったのは幸いだった。


 此方に殴りかからんとする少女と慌ててそれを制止する老婆。俺は最後に一礼して踵を返す。分かり切っていた反応で、其ほど傷つく事はなかった。


 俺は村を出るために震える足取りで村の門前まで少しずつ進む。


「……困ったな、これは」


 行きは良い良い帰りは怖い、とは何の歌であったか。門前には村長らしい老人の他、二、三十人程の男連中が待ち構えていた。鍬や棍棒、槍を携えて。猟師らしい男までいて弓を構える。


「門番が居眠りしていても気がつかなかった癖になぁ」


 その笊で雑な警備体制に思わず嘆息する。周囲が山に囲まれていて周囲の残る三つの村と連携出来るためか、稗田郡の中でもこの辺りの村は妖や盗賊相手の危機意識は余所よりも低いそうだ。そのせいでこんな対応にもなる。

 

 さて、どうやって道を通して貰おうかと思慮していると、それは起きた。


「おいおい何事だ、えぇ?この村の連中はそんなに何十人も集まらねぇと下人一人も倒せねぇのかぁ?」

「はっ?」

「うおおぉっ!!?」


 そんな声と共に男共が数人、空に投げ飛ばされた。


「ちぃ、背後からかっ!?」


 慌てて弓持ちが振り返りながら矢を放つ。しかし当然のようにそれらは振り払われてしまう。


 専用の鉞を失ったとしても、其処らで調達したような安物の斧でも入鹿には十分過ぎる武器のようだった。


「允職!!」

「今助けます!!」


 続いて盾と刀を手にした部下達が村人達に突っ込む。殺しはしない。ただ棍棒や槍等の武器を切り落とし、盾で殴打して昏倒させる。碌な防具もない村人達はあっという間に戦力を半減させる。未だ無傷の者達も怖じ気づく。


「おら、大将の癖に逃げんじゃねぇ!!」

「ひっ!?」


 そして、いの一番に逃げようとした村長の首元に斧を向ければそれで勝敗は決まる。入鹿が脅迫すれば慌てて村長は村人達に武器を捨てるように命じる。


「……阿保らしいんじゃなかったのか?」

「てめぇのやってる事はな。だからって見捨てるなんて事はしねぇよ」


 俺の指摘に入鹿はけけけ、と笑う。俺ははぁ、と溜め息を吐く。


「礼はするよ。お前らもな。助かった。……もう少し御手柔らかにしてくれると助かるがな」


 倒れたり、呻く村人らを見て、助けられた立場なのを承知で俺は偉そうな事を言う。いや、まぁ対人戦なんて余り教えてないから加減出来ないのは仕方無いが……さてと。取り敢えずは穏便に収拾しないと行かんな。


「ひっ!?」


 俺がそちらに歩を進めれば直ぐ様悲鳴を上げて怯える村長。その姿に内心で呆れつつ、しかし俺は膝を突いて口を開く。


「村長、勝手に村に立ち入った事、謝罪致します。直接立ち入るべき用があったものでして。……此方、償いの品となります。村人の治療も兼ねて差し上げます」


 そんな事を宣って差し出すのはいつぞや商会の御嬢様から受け取った玉楼二朱銀である。それを二枚、一枚は村長への賄賂でありもう一枚は村人への治療費である。


「これは……」

「ここでの事は全て無かった事として、お願い致します。宜しいですね?」


 俺が頼み込めば村長はコクコクと頷く。何ならば最後は少しニヤけていた。金の力は偉大である。それを一瞥した俺は般若面を被ると入鹿達に声を掛けて村を出る。


 ……当然ながら背後から襲う奴はいなかった。


「……良いのかよ?あんな大金なんてやってよ」

「金で解決するなら楽な話だからな。強いて言えばお前がいきなり暴力を使ったせいで一枚で良い所が二枚になった」

「けっ、恩知らずめ」


 俺の皮肉に入鹿は舌打ちする。そして続ける。


「そんなのだったらよ。最初から門番の奴に話通したら良かったんじゃねぇか?」

「考えなかった訳じゃないんだけどな。多分入れてくれないだろうよ。自分が渡すから寄越せって言われたろうさ」


 そして櫛はポッケナイナイされる可能性もあった。同じ理由で郡の役人に送って貰うのも避けた。自分で直接出向くのが確実だった。目覚めて直ぐに紫に頼んだときには中々渋い表情をされたものだが……下人衆頭からの許可を貰えたのは意外であった。


「所詮は死人との約束だろうによ」

「自己満足なのは理解しているよ」


 そもそも此度の案件の何割かは俺の責任だし、彦六郎からの遺言こそ全うしたがそれだけだ。他の連中は遺言を伝える事すら出来なかった。不平等だと俺に文句を言うだろう。良い事をした等と自惚れる事は出来ない。本当に唯の自己満足だ。


「………」 

「何だよ。何か言いたい事でもあるのか?」


 何とも言えぬ表情を浮かべる入鹿に俺は尋ねる。しかし入鹿は直ぐに舌打ちして視線を反らす。「知るかよ」と冷たく返される。何が何なのだか分からない。はっきり言って欲しいものなのだが……。


「伴部さん!大丈夫でしたか!?何か騒がしかったですが……」

『(* ̄∇ ̄)ノヨクヤッタワイモウトヨ!!』


 そんな事を思っていたが、直ぐにその思考は中断される。恐らくは俺達と村人との騒動を遠くで観察していた白が顔を真っ青にして此方に向けて疾走していたからだ。付け加えるならば馬鹿蜘蛛の尊大な言葉に入鹿はげんなりとしていたが気にしないでおく。


「あぁ、大丈夫だ。……寄り道させて悪いな。帰ると……」

『どうして兄さんが帰れないの!?』


 腕に抱きついて心配そうに見上げる白狐の半妖に向けて、俺は返答しようとして、しかし俺は一瞬黙りこむ。此方を見上げる白の姿に、俺は村での一幕を思い出す。


『意味が分からない!どうして兄さんが妖に殺されたの!?』

『どうして遺体すら届かないのっ!?』

『お前達の仕事は化物退治でしょ!?どうしてお前が生きているのに兄さんは死んでいるの!?』

『兄さんを返せ!返せ、この人殺し!!』


 それは決して八つ当たりではなかった。確かに妖退治は俺の領分だった。それなのに彼らを、彼女の兄を巻き込んだのは間違いなく俺のせいで、彼らが死んだのはどう考えても俺の失態のせいで、だから、だから………。


「伴部、さん……?」

『(´・ω・`)?ドーシターノ?』


 その不安げな声音に俺は現実に返る。眼前の白い少女に視線を向ける。俺は面の下で必死に笑みを浮かべる。面をしていて良かったと思う。きっと下手糞な笑みだったから。


 ……、そして俺は言葉を紡ぐ。


「……大丈夫だ。家に、帰るとするか?」


 そうだ。帰ろう。早く帰ろう。家に帰ろう。


「随分と、遅くなったしな」


 空を見上げて、俺はそう呟いた。内心で色々と思う事はある。それでもこの倦怠感と溢れそうな程に混乱した思考を整理のためにも……。


「家に、帰ろう……」


 今はただ、一刻も早く戻るべき場所に、戻れる場所に、戻る事を許されているあの温かい空間に帰りたかったから………。











ーーーーーーーーーーーーーー

 北土の奥地、某所、洞窟……正確には石室の入口にその黒い影は漸くの思いで辿り着く。


「はぁ…はぁ……ぐっ!?流石に洒落にならねぇな。おい?」


 不定形な影は己の姿を次第に人のそれへと還元していく。そして再生した神威は疲弊仕切った表情を浮かべた。唯でさえ神格持ちの妖に何度もぶちのめされた上に、下人共にも手酷く不意打ちや反撃を受け続けたのだ。特に霊気を乗せた一撃で顔面を殴り付けられたのは辛い。今だって半ば脳震盪状態だ。


 止めはあの光……それなりに距離はあった筈だがそれでもかなりの妖力を持って行かれてしまった。今人形に戻ったのだって正直残る体力を振り絞ってのものである。愚痴の一つも言いたくもなる。


「はぁ……はぁ……はぁ………こんな、ものか」


 息を整えて、唾を飲み込み、精神を落ち着かせて、神威はやっとの思いで一歩踏み出して……足を止めた。


「おっと、そうだったな。……『空山に人を見ず』」

『春眠には如何?』


 思い出したように急いで紡いだ言葉に、くぐもった声音が返る。良く見ればそれは洞窟の左右の岩壁からの物であった。


 壁にめりこむようにして浮かび上がる鬼のような顔面。見開かれる眼球。門番。擬態した簡易式。それが合言葉を求める。要求する。剣呑な雰囲気を纏って。


「あー、『暁を覚えず』」


 一拍置いて脳内から教え込まされた詩歌の続きを思い出して口にする神威。


『国は破れては?』

「『山河あり』」

『時利あらず?』

「『騅逝かず』」

『己の欲せざる所は?』

「ん?ええっと……あー『人に施す事勿れ』、だったか?ははは。危ねぇ」


 時間切れギリギリの所で神威は頭の中の記憶から続く文を引っ張り出して答える。何ならば答えると共に彼はこの合言葉を設定した人物を詰る。


 散々此処まで大陸詩文で設定して来たのに突然論語から合言葉を引き出して来る時点で性格が悪過ぎる。付け加えるならば敢えて抜き出しただろう一節の内容が皮肉に満ちていて余計に設定者の性格の悪質さを際立たせていた。大陸王朝の詩人哲学者らも己の一文があんな男に使われるのは不本意な事だったろう。


『入られよ……』


 岩壁に浮かんでいた鬼面はそう呟くと瞼を閉じる。一度閉じてしまえばそれは岩肌と同化してしまい、善く善く目を凝らさなければ其処に擬態した簡易式がいるとは分からなかった。


「……では、お邪魔しますってな」


 神威は己に知らされていない他の罠等が存在しないか注意深く確認した後、漸く洞窟の中へと足を踏み入れる。


「…………」


 暫しの間、神威は壁際で身体を支えながら薄暗い洞窟の中を真っ直ぐに奥に進んでいく。


 洞窟は明らかに自然の物ではなかった。永い時の流れによって劣化して、風化しているがその壁は確かに人工的に削り取られていた。


「上古の昔の事さ。扶桑国が建国される以前に各所に断続的に建国された奴隷王朝では、王が己の権威を誇示するために宮殿でもある墓を建てさせるのが流行ったものでね。……何十年という歳月と何万という奴隷を使役してね」

「………」


 浮かんだ疑問に対する突然の説明に神威は背後を振り向く。其処に佇むのは外套を着こんだだけの不恰好な人形の肉塊であった。死角を潰すように複数の眼球が並び指は各々の手に七本もある醜い肉塊は、そのまま器用に言葉を紡いでいく。


 それが何か、神威は知っていた。己の師が使う取り敢えず会話と手作業さえ出来れば良いと培養製造する人肉と妖肉を掛け合わせた低価格使い捨て用寄代(消味期限七日)である。


「うぇ……」


 思わず小さく呻き声を上げる神威。合理的であろうが、余りにも酷い外見と腐臭に弟子は思わず顔をしかめる。尤も、当の本人は気にする事はないようでそのまま揚々として会話の続きを口にする。


「知っているかな?多くの王宮は次代の王が即位する前には既に建設が開始された。そして即位した王が死去すれば王宮はそのまま墳墓に転用された。仕えていた無数の奴隷を生き埋めにしてね。王宮は一代限りの使い捨てだったそうだよ?贅沢な話さ」


 それは民衆を酷使して、恐れさせる事で反乱を防ごうという狙いもあったのだろう。各地の王である霊力持ち達は、しかし基本的に唯人に蔑まれて妬まれる存在でもあった。そんな立場からの成り上がりが敢えて多くの犠牲を払って巨大な王宮を造らせる事は己の神性を高めるための必須の儀式でもあったのだろう。


 ……使役される民衆からすれば堪ったものではないが。


「……俺の部族でもそれっぽい古い伝承は確かにありましたね。地元の王様は確か三代目位の時に部族の始祖に暗殺されたそうですが」

「それは素晴らしい偉業だ。正しく栄枯盛衰、盛者必衰の理という訳だね。驕れる者も久しからず、という実例だ」

「そしてこの洞窟はその栄光の夢の跡という訳ですか?」


 冷笑しながら改めて地下道を見渡す神威。最早人々にも忘れ去られて久しく、しかしながら此処でどれだけの血が流れたのやら……何が悪趣味かと言えば、そんな気味の悪い場所を眼前の気狂い上司は自身の研究所兼隠れ家として利用している点だ。いや、合理的と言えば合理的なのだろうが……。


「それで?師匠殿。どうしてこんな時に歴史の授業を?」

「神威、良く無事に帰って来たね。本当に御苦労様だ」


 神威の質問に、しかし眼前の肉塊は完全に無視をして労りの言葉をかけた。ある意味何時もの事であるが、無礼な態度に神威は若干苦虫を噛む。そして、答える。 


「いえ、与えられた任を全う出来ずに痛恨の極みです」

「はははは、心にも無い事を言わなくて良いさ。どうせ面倒な任務を命じられてうんざりしていたんだろう?若者なんてそんなものさ」


 師のあからさまな物言いに神威は返答はしなかった。意味のない事である事は分かりきっていたから。


「さて、立っているのも疲れるだろう?先ずは座りたまえ。腰を下ろさないと報告するのもやりにくいだろう?」


 そんな言葉と共に神威の背後に絶妙に椅子に適した高さを持つ巨大草鞋虫が現れる。その外見に嫌な顔をする神威は、しかし好意を素直に受け取り座り込む。


「……とは言え、君の活動については既に遠方から観賞はさせて貰っていたんだけどね。いやはや、油断したね?まさか軍団兵や翡翠塊が使われるなんて予想出来なかったろう?私もだから恥じる事はない」 


 実際、眼前の肉人形は此度の案件にて彼の妖化位は期待していたのだが……結果的に限りなく人のままであの局地を切り抜けてくれるとは、期待以上だった。


「目標を達成出来なかったのに楽しそうですね?」

「勿論さ。極上の酒は寝かせる程に旨くなるものだからね。それを思えばあれも一興さ。彼女にも言付け出来たしね?」

「彼女……?」


 師の言葉に神威は首を捻る。何を言っているのか、彼には分からなかった。


「あぁ、此方の話さ。必要ならばまた君に教えるから、今は気にしなくて良いよ。どうせもう会わないかも知れないしね」

「はぁ、そうですか」


 神威は師の淡々とした言葉にそれ以上首を突っ込みはしなかった。そんな事をしても碌な事はないのだから。


 ……そんな薮蛇になって、此処で終わる訳には行かないのだから。


「あの娘のために、かい?」

「…………この身体にされた時点で想定はしてましたけど、師は俺の思考を読めるようにしてたりします?」


 絶妙な時点で口を挟む師に向けて、半ば諦念を浮かべて神威は尋ねる。何だったら頭の中を弄くられて思考や記憶すらどうなっている事なのやら。


「まさか。そんな無粋な真似はしないさ。安心してくれて良いよ。君の記憶も感情も判断も、勿論その情熱も間違いなく君のものさ」


 神威の懸念に対して、鵺は飄々と否定する。否定するが、やはり信用は出来なかった。


「そう不審に思う事もないだろうにね。まぁ、内面の自由は古代の奴卑にもあった事だから咎めはしないけどね」


 悠々と、寛大を装ってそんな事を宣う鵺。その紳士ぶった厚かましい態度にげんなりとしそうになる。


 そしてそれを理解しても尚、神威には眼前の師に付き従う以外の道はなかった。それが、彼女を救う、生かすための唯一の選択肢であったのだから。


 扶桑国にも己が部族にも未来がない中で、半妖にまで堕ちた彼女の命を繋げるただ一つの道であるのだから。


「……それで御師匠殿。私の次の任は?」


 一瞬、脳裏に狼を思わせる男勝りな奴卑の女の姿を思い浮かべた神威は、それを一度隅に押しやって問い掛ける。この師が無駄な会話をしているとは思えない。


 このやり取りは先日の任で心乱れた己への警告であるだろう事を神威は理解していた。ならば、己の立場を改めて理解させた師が己に求める事は何か……それは新たな任務である事は明白だった。


「ふふ。そんな難しい事じゃあないよ」


 肉塊は器用に笑みらしき表情を浮かべるとパンパンと手を叩く。そして神威は己の背後にゆっくりと迫る気配を感じ取る。


「君に求めるのは二点だ。一つは都に潜入して欲しい。手引きは任せたまえ。そして今一つが……」


 気配に向けて振り向いた神威は、その存在を認めると思わず口を開いたまま唖然とする。唖然せざるを得ない。


「……師よ?こいつは冗談でしょう?」


 神威は振り返る。師を一瞥する。一瞥して呼び掛ける。その向けられた疑念混じりの視線に対して肉人形は悠然と微笑む。


「まだ出来たばかりでね。動作が悪いのは許しておくれ。……それの飼育、頼まれてくれるね?」


 初代陰陽寮頭であった男の余りにも軽い言葉に、神威はただただ口元を歪ませるばかりであった。


 そして、襤褸切れを着こんだ『それ』はだらしなく涎を垂らしながら、眼前の二人のやり取りをぼんやりと観察して、首を傾げるのだった。


 それは、まるで無垢な赤子のように………。

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