2日目 「みそ汁もいいんじゃないかぁ!?」
「うまっ」
十畳一間の簡素な部屋に俺の声が響いた。
「——そ、そうかな?」
「ああ、まさかこんなにおいしいとは思わなかった……」
「えへへ、なんか面と向かって言われると恥ずかしいねっ」
「事実だ。事実を言ってるまでだよ……」
口の中を広がる味噌の味。家には市販の数百円程度の味噌しかなかったはずなのに、深みもあってだし汁ともマッチしている。コクがあるというか、不意に来る妙な甘みも心地良いくらいで、それらが生み出すバランスが絶妙だった。
「そ、それなら——私をすま、住ませてほしいなぁ」
「だが、断る‼‼」
「えぇ!?」
「ダメに決まってるじゃないですか、いくら鍵が無くなったからって俺の家で住むなんていう飛んでもな理由はっ!」
「だ、だってぇ……大家さんに言ったらい、二週間はかかると……」
「え、まじ?」
「ま、まじです……」
俯きながら涙目で言う彼女。
真面目に小学生が泣きそうな顔しているようにしか見えなくて、変な罪悪感が俺を襲う。
「そ、それは——」
いやしかし、昨日知り合った隣人と。
それよか、付き合ってもいない男女で家を共有するのは良いことなのか? そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
歳は二十一歳、現役大学二年生で国立大学に通っているらしいが、高校二年生の男児が姉と同い年の女性と同棲する————なんてシチュエーションがまずおかしい。法律的にも少し怖い。
「だ、だめですか……ぱ、パソコンはもってるので何とかはなるんですけど……ほ、ホテル住まいは少し……」
「そ、それなら——い、いいですけど」
さすがに、一度助けてしまった間柄。
ここで彼女を見捨てるなんてことはできない。この見た目と言い、子猫を捨てるような感覚に陥るし中々踏み出せないのは確かだ。
ただ、女性と二人暮らしは
「ほ、ほんとですか⁉」
「ただし!」
「っ——?」
「か、鍵が見つかるまで——ですけど」
「あ、ありがとうございます‼‼」
大きな声で放たれた一言に俺は少し、妙な気分に陥った。
というか、むしろ。
鍵の替えが届くまで二週間って——大家は鬼畜か何かなのか? まじで鬼じゃねえか。法的に大丈夫なのか?? まああの大家なら分かるがにしても長すぎる。ひどいったらありゃしねえ。
「そ、そのっ!」
すると、彼女は俺のパジャマの袖を弱弱しく掴んだ。
「……なんですか?」
「ん——そ、そのっ。せ、っかく住むことになったのでよ、良かったらでいいのでな、名前で呼んでくれませんか?」
「——な、名前?」
「はい……椎奈、真音でっ」
「し、椎奈さん?」
「いや、そのぉ……下の名前で、というか……」
もじもじと股を擦ってちらちらとこちらの様子を窺う彼女。その度揺れる大きな
「っ⁉」
「——っお、お願いします‼‼」
ぐにゅっと押し込まれた指。そのままじゃ届かないために背伸びをしている姿が可愛くて、俺もどうにかなりそうだった。
それに、不意に言い出したものだから、俺も動揺してしまった。これでも、高校ではそれなりの楽しい生活を送っているのだが女子の事を名前で呼んだことはない。
つまり、ハードルが高い。
証明完了。
QED
「ん——‼‼」
しかし、そんな俺を輝かしい目で見つめられては逃げることもできない。拳を握り締めて、俺はぼそりと口にする。
「……まぉ、ん、さん……」
「っ————はい‼‼ よろしくお願いします、亮介君‼‼」
ぴょんぴょんと跳ねるアホ毛と嬉しそうに揺らすお尻を最後に、俺はその場を逃げ出した。
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