あの、晩ごはん作りすぎちゃってませんか?
アジのフライ
プロローグ
「美味しいです」
もぐもくもぐ、と幸せ顔で俺の部屋でごはんを食べているこの後輩の女の子に俺、
「唐揚げはもちろんですが、このツナとピーマンのあえものもいいです」
どうしてこんなことになったかって?
そもそもの原因は俺にある。高校に入学し、好きになった女の子と話が出来た。
気分が高まってしまった俺はついつい帰り道に遠回りし、立ち寄った高台にある公園で夕陽に向かって叫んでしまったのだ。
なんて叫んだのかなんて思い出したくもない。時々立ち寄っていたのだが、そこがほぼ人気のない公園だったことと、好きな子と話が出来たという高揚感から完全に油断していた。
まさか、その場所に人が、しかも同じ高校の生徒がいるとは思わなかった。
「あ! 今日のお味噌汁卵入りですか? ぜ、贅沢です! 嬉しいですー!」
初恋の女の子と少しの時間だったが話をして、笑ってくれて。それがどれほど嬉しいことなのかは男子高校生ならまあ分かってくれるだろう。
俺がついつい叫んでしまったのも仕方のないことだったのだ。
「はあぁ……やっぱりコンビニごはんばかりはダメですね。手作りに限ります!」
叫んでスッキリした俺が家に帰ろうと振り返った時、背後に今この目の前で美味しそうにごはんを食べる後輩が立っていた時の俺の恐怖と動揺は想像を絶するものだった。
ちょっと引き気味な彼女の顔と、やばい面白いもの見つけちゃったみたいな嬉しそうな顔。今でも脳裏に焼き付いて離れない。
もう膝から崩れ落ちたね。殺してくれと何度願ったか分からない。
「……あの、せんぱい? さっきからなにぼうっとしてるんですか? 聞いてます?」
「……聞いてるよ」
「どうせまたあの人のこと考えてたんでしょう? あはは、せんぱいには釣り合わなさすぎますよ。あの
どんな顔だよ。
「まあ私もまさかせんぱいが隣の部屋に住んでるなんて思いませんでしたけどねー。はあ仕方ないなあ、意気地なしなせんぱいのために私が代わりに告白してきましょうか」
「…………」
そう。叫んでいるのを見られるだけならまだ良かった。いやよくはないけど。
あの日の帰り。こいつは何故かずっと俺の後ろをついてくるのだ。きっと俺の弱みを握ろうと、家を突き止めようとつけてきているのだとばかり思っていた。そうして遠回りしながら、半ば諦め気味に家に辿り着いた俺は驚愕した。
こいつが俺の住むアパート、しかも俺の隣の部屋の鍵をガチャリと開けたからだ。あの時の彼女の嬉しそうな顔を、俺はきっと忘れない。
「怖い顔しないでくださいよ。ほら、美味しいごはん冷めちゃいますよ、せんぱい?」
俺が弱みを握られたのは。この見た目だけは可愛らしい悪魔みたいな後輩、
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