二十一話目
僕は薄々勘づいていた。ビルが帰ってこないことに。ビルは僕と同期であり後輩だった僕達が唯一敬語を使わず気を抜き話せる相手だった。あまり人と仲良くできない僕のそばで笑ってくれて僕も楽しんで話をしていた。もうそれができなくなるというのは悲しいようで清々するようで振り出しに戻った気がした。だから涙なんて出ないし、叫びたいほど苦しくない。ただ、虚しいようなそんな気に苛まれる。
煙草をゆっくり蒸す。体中が満たされるのを感じた。本当に残念だな。
そばでこつこつと足音がなった。この音スピードはどうせダニイルだろうと気づいた。
「どうかした。KC.」
僕はそちらを少し見た。汗をかいて返り血を浴びたダニイルは堂々とそこに立っていた。
「いや、最後になってしまいそうだから煙草を蒸しておきたかったんです。すみませんすぐ参戦します。」
そう言って煙草を潰すとダニイルに腕を掴まれた。やはり馬鹿力で腕が痛いが僕はダニイルの顔を見た。
「なんだよ。悲観に暮れてた癖に先輩に言えないのか?」
「アンタには関係ないでしょ?」
「なんで?」
なんで?こっちがなんで?なんだけど。手を振り払おうとしても離れず嫌気が差す。
僕はダニイルを睨んだ。あぁ、やっぱり僕はアンタが嫌いです。なんでも見透かすくせに馬鹿で人の気も知らないでお節介焼いて本当に大っ嫌いアンタみたいな奴。むかつくんだよ。本当に。
ポロポロ涙が溢れてるのを理解した。抑えたいのに顔を隠したいのにもう片方の腕は掴まれている。
「なんで泣いてんの?」
「…ぅ、煩いっすね。」
けれど焦らずずっと僕を見下ろすダニイルが嫌いだ。見たくもない。
「こっち見ろよ。」
この人って本当に恐ろしい人だ。僕は「嫌。」と言いながら俯いているともう片方の手で乱暴に顔を掴まれた。そして無理や無理矢理合わされた。
「どうせビルの件だろ。」
「わかってんならッ、聞かないでくださいよぉ…。」
ぐしぐしと優しく涙を拭われる。さっきの乱暴さとは裏腹だった。それを理解すると苦しくて悔しくて仕方なかった。
「お前って本当に素直じゃないな。一人で抱え込もうとするから失敗するんだぞ?」
「う、煩い。」
ダニイルは太陽みたいに笑うと手を離した。
「先輩も、死ぬんですか?この戦争で。」
僕の質問を聞きダニイルはこちらを見た。
「死にたくはないし、死ぬ気は無い。けれど死ぬかもしれねーな。葬式はちゃんと来いよ?」
「煩いっすね。行きますよ葬式位。死んでもアンタを煽ってやる。雑魚だと。」
笑って「頼むわ。」と言って部屋を出て行った。僕はわかっていた。葬式に来いとは僕に生きろと言っていることを。素直じゃないのはダニイルの方だ。ぐしぐし乱暴に涙を拭いた。
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