十八話目
会場に来た。ヴィラは待機させ、インカムの電源を入れる。会場は薄明かりで、赤いワインが沢山並んでいた。ふぅむ、これがX共和国の振る舞いか。面白い。そこの店主の案内で席につく。黒いテーブルを囲むようにいくつもの椅子。赤いカーテンが揺れていた。後ろの窓から見える外の景色が美しい。武器がないかなどボディチェックをして、入場証明書にサインをする。
初めに会ったのはR王国の国王ウィルサール・ドランゴ。吊り目で睨むように私を見た。茶色い短い髪、ペリドットのような瞳。吊り上がった太い眉。そしてまだ幼い顔つき。
「やぁ、久しぶりだな。」
「あぁ、なんだ。アンタか。」
この私にアンタなんて言えるのは彼くらいだろう。私は笑った。するとウィルサールは煩いと言わんばかりに顔を顰めた。そして赤い絹の白いファーのついたマントを舞わせて歩き出した。相変わらずだ。あの孤独の国王。
彼は、完璧主義の恐ろしい独裁者と呼ばれる王と王女に育てられた。しかし彼は両親には似ず優しく面白い子だった。ほぼ放置気味の両親は久しぶりに城に戻ってきたと思えば彼に無茶な命令を押し付けては傷つけ、叱りつけた。彼は反抗の声が出ない程にショックを受けた。
ある日、いつも通り虐待と同じようなものを受けているとバァンバァン!と耳に響く音と、火薬の香りを感じた。彼の執事が両親を撃ち殺したのだ。今までの苦しみから開放され、目の前で両親が殺されついに彼は狂ったそうだ。情緒不安定、発狂、号泣、彼までも両親のように独裁をした。そこで優秀な精神科医が彼を診査した。暫く、薬漬けになり、彼は良くなった。しかし代わりに感情をなくしていった。それから彼は何も考えずに国を収めているという。現在17歳。
つまり、無駄なものを排除し、効率的に政治を行ったと。相変わらず私の興味を唆る奴だ。いつか、我が国に連れてきたいものだ。まぁ、良い。足を進めた。部屋にはC社会主義連邦国の総統アドヴァン・アナミーが居た。もう一度顔を顰め、席に座るウィルサール。アドヴァンは笑ってワインを揺らしていた。毒でも入れたのか?失礼にもそう疑いながら席についた。
暫くして、時間通り始まった。まだ、酒を飲める年ではないウィルサールだが、今はこちらの国の法律がメインになるため酒を少しだけ口にしていた。少なくとも彼は貴族だからそういうのには慣れているだろう。次々に席が埋められた。中には女性もいた。珍しいと思いながら見ていた。メインとなるX共和国の総統が「我らが共にここに集まれたことを乾杯。」と音頭を取ると皆酒を手にした。さてでは、毒味といこう。ワイングラスを揺らし丁寧に香りを嗅ぐ。ふんわり甘い香り。しかしどこかに渋みが残っておりとても良いものだと気づけた。しかし毒はないようだ。では口にしよう。毒があれば即座に解毒剤を飲むか喉に指を差し込み吐き出す。ほんの少し口にした。甘い香りが口内で蒸発して広がると渋みが舌に纏わりついた。なんだ、案外行けるな。
ウィルサールはあまりワインを口にすることはなかった。運ばれてきた食事を味わいながら口にする。どれでも毒がなかった。いや、私が気づけていない可能性はある。とても少ない確率で。
まず、ボディガードをつけない時点でおかしい。それは、襲う側としてはフェアじゃないからボディガードをつけないのだろうか。この状況こそフェアじゃないが。赤い空に浮かぶ黒い雲。静かに食事を囲む。戦慄とした空気の中でワインを飲むのは嫌いじゃない。正直言って慣れたもの。C社会主義連邦の総統は妖しく笑い、ウィルサールは顔を顰める。この状況は一体何なのだろう。
「アレクサンドル総統よ。私は貴様と条約を結びたい。」
そう言ったのはK大帝国の総統。条約?私と?ほう、面白い。
「一体どのような?」
「互いの利益向上のためのだ。」
「つまり?」
「互いにこの二年後まで侵攻禁止条約だ。」
侵攻禁止?
「それは一体私にどのような利益が?」
「どちらかに同盟を結んでいても私達は敵対しないと言うものだ。」
つまり、この二年の間は相手国の様子を伺い武器や兵器を用意できる。しかし、それは油断させるために結ぶ場合もある。
そう考えていると口を開いたのは高くてよく響く少年の声。ウィルサールの声だ。
「それ、やる意味ある?」
「なんだ?ウィルサール国王。」
ウィルサールは面倒くさそうにワイングラスを揺らしていた。
「だって、たった二年間だし、同盟を結んでる国に攻撃するように命令すればいいし、様子を確認するなら条約締結のための人材と時間がもったいない。」
この少年はこのように良く頭が周り、効率的に戦争をする。K大帝国の総統は図星だったのか苦虫を噛み潰したような顔をした。私はほんのり口角を上げた。それを誤魔化すようにワインを口にした。
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